ライトラスト ‐§1‐
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赤い薔薇に、汚れ一つない白のテーブルクロス、ティーポットの中には鼠。摩訶不思議な“なんでもない日”のパーティが始まった。
ハーツラビュルの寮服は、パーティの正装としても通じるフォーマルなものとして認定されているらしい。
赤と白を基調とした服を纏うハーツラビュルの寮生たちに混ざりながら、マロンタルトを渡す機会を窺う。
「――クロッケー大会の前にまずは乾杯を。ティーカップは行き渡っているね?」
場を仕切る寮長のリドルは手慣れた様子で威厳すらある。初めて会った時に抱いた印象は既に無い。
「では、誰の誕生日でもない“なんでもない日”を祝して、乾杯!」
ケイトがエースの脇腹をつつく。
「エースちゃん、今がチャンスじゃない?」
「よし……」
エースがやや緊張した面持ちでリドルのもとへ向かうのを、監督生と一緒に見送る。
「あのー、寮長」
「キミは…ああ、タルト泥棒の一年生か」
「ええーっと、タルトを食べちゃったことを謝りたいと思って。新しくタルトを焼いてきたんですけど」
いいぞ、エース。その調子だ。
「ふぅん。一応聞くけど、なんのタルトを?」
「よくぞ聞いてくれました!旬の栗をたっぷり使った、マロンタルトです!」
「マロンタルト、だって…!?信じられない!」
さっとリドルの顔色が変わる。喜色ではない。悪い方向に転んだという直感がして、エースのもとへ駆け寄った。
「ハートの女王の法律、第五百六十二条。“なんでもない日”のパーティにマロンタルトを持ち込むべからず」
「な、」
なんだそれ――!
「これは重大な法律違反だ!なんてことをしてくれたんだい!
完璧な“なんでもない日”が台無しじゃないか!」
「だ、第五百六十二条!?」
「全部で何条まであるんですか!?」
「全八百十条。ボクは全て頭に入ってるよ。寮長なんだから当然だろう」
正直でたらめを言われてもこちらには判別が付かないのだが、自信満々な様子から嘘ではないことが伝わってくる。後ろではケイトとトレイが「どうするのコレ」「第三百五十条までしか把握してない」なんて会話が繰り広げられている。すべては後の祭り。
「ハートの女王の厳格さを重んじるハーツラビュル寮長であるボクが、この違反に目をつむることはできない。
マロンタルトはすぐに破棄しろ!それから、こいつらを寮外へつまみだせ!」
「ちょっと待てよ!そんな無茶苦茶なルールがあるか!」
「そうだゾ!捨てるんだったらオレ様が食う!」
「寮長、申し訳ありません。マロンタルトを作ろうといったのは俺です」
「そーそー、まさかそんな決まりがあるなんて全然思ってなくて」
「作ったことが重要なんじゃない。今日!今、ここに!持ち込んだこと“だけ”が問題なんだ!」
宥めそうとするトレイたちの言葉もむなしく、怒りはヒートアップしていく。
監督生が耐え切れず口を開いた。
「そんなおかしな法律に従ってるなんて馬鹿みたい」
「馬鹿……だって?」
「ちょ、ストップ!監督生ちゃん、それは言っちゃダメなやつ!」
「いーや言うね。監督生の言うとおり、そんなルールに従ってタルトを捨てるなんて馬鹿だって思うだろ、ふざけんなよ」
「……俺もエースに賛成です。もちろん、ルールは守らなければいけないものだとは思いますが……さすがに突飛すぎる!」
これまでの不満が、堰を切って流れ出す。これは反目は避けられない。あちゃあ、と手のひらを額に当てる。見れば隣のトレイも一緒のポーズをしていた。
「ボクに口答えとは良い度胸がおありだね。いいかい、小さなルール違反が大きな問題につながるんだ」
「他の奴らも、魔法封じられるのが怖くて言い出せないけど、こんなのおかしいって思ってるんだろ!?」
寮生たちがうろたえる。「いや」「そんなことは」歯切れの悪い返事は、エースの言葉を否定はしなかった。
リドルが腕を組む。吊り上がった眦は批判を許さないものだった。
「……へえ。そうなのかい?
だがボク寮長になって一年。ハーツラビュル寮からは一人も留年者・退学者も出していない。これは全寮内でハーツラビュルだけだ。
そしてこの寮の中でボクが一番成績が優秀で、一番強い。だからボクが一番正しい!口答えせず、ボクに従っていれば間違いないんだ!」
「そんな……!」
横暴を超えた理論に眩暈がする。この世界、やっぱり狂ってる。リドルは続けた。
「ボクだって、やりたくて首をはねてるわけじゃない。お前たちがルールを破るからいけないんじゃないか…!」
僅かに気落ちした口調。疑問が擡げる。ルールで縛り付ける事が、本当に寮生たちのためだと思っているかのような口ぶりだ。いや、まさか、本当に?
「ボクに従えないのなら、まとめて首をはねてやる!」
「ほ、ほらみんな。“はい、寮長”って言って!」
「……言えません」
「嫌です!」
「こんなワガママな暴君、こっちから願い下げだ!」
馬鹿正直なデュース、通常の感性を持つユウ、不満たらたらのエース。
拒否のスリーコンボに加え、グリムがトドメの一撃を加えた。
「オマエはおこりんごでワガママで食べ物を粗末にする暴君って言ったんだゾ!」
血管の切れる音がした。今日一番の怒号がパーティー会場に響き渡る。
「