ライトラスト ‐§1‐
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やたら大量に栗を拾ったために余計な疲労が増えたり、監督生と一緒に生クリームを買い足しにいったデュースがやけに落ち込んで帰ってきたりしたものの、マロンタルトは無事に完成した。
仕上げに粉砂糖をふりかけられたマロンタルトは素人目に見ても完成度が高く、食堂のキッチンをお店のショーケースに空目してしまいそうなほどだ。
「おつおつ♪おっ、タルト完成した?デコレーションかわいーね!マジカメ映え~ってカンジ!一枚撮らせて~」
スキップしそうな足取りで入ってきたのは、今朝バラ塗りを手伝った三年の先輩、ケイトだった。言うやいなやスマホを縦にしたり横にしたりして、“映え”る角度を探している。
「あーっ!アンタ、今さらなにしにきたんだよ」
「可愛い後輩たちが頑張ってるかな~って様子見に来たんじゃん。あはは、めーっちゃ疲れた顔してるし!」
「出来上がったころを見計らって来たんですね、ちゃっかりしてる…」
「まあまあ。慣れないことをすると疲れるよな。……というわけで、疲れた時には甘いものだ。出来立てのマロンタルトを召し上がれ」
一斉に歓声が上がるのを、元気だなあとつい微笑ましい目で見てしまう。
「ほらミオ、フォーク」
「ありがとうございます」
「ふわぁぁ…甘くていい匂いなんだゾ~。上に乗った栗がツヤツヤで、下のクリームがふわふわだ!いっただっきまーす!」
口の中いっぱいに広がる、栗の風味と甘さ。
この世界に生まれる前から、甘いものは好きだ。
好きな、はずだ。
「ンッ、やばっ」
「んまーい!さっすがトレイくん」
「スゴい、店に売ってるやつみたいだ」
皆が沸き立つなかで、私だけが口の中の甘味を持て余していた。
口に含んだだけで胃もたれしそうなマロンの風味。嚥下するのを躊躇う甘さ。
この世界に生まれてから、お菓子をあまり口にしてこなかった。だから気が付かなかったか――気づかないふりをしていた。楽しげなみんなの姿で思い知らされる。
“今”の私は、マロンタルトのような、甘いものは。
「そだ、ねーねー、トレイくん、アレやってよ」
「アレ?……ああ、アレか。
お前たち、好きな食べ物はなんだ?」
唐突な質問に、皆は疑問を抱きつつも答えていく。エースはチェリーパイとハンバーガー。グリムはツナ缶、デュースはオムライス、ケイト先輩は……監督生は……回ってきた順番の最後で、笑顔を作る。
「私は、甘いものが好きです」
そう、私は甘いものが好きだ。声に出して言い聞かせる。フォークを取る指が力んだ。
認めてたまるか。