29(短編)
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白い空から降る雪が地面を純白に塗り替えている。新雪を踏む音を聞きながら、俺は人気のない道をただひたすらに歩いた。
「...こんな所まで歩いていたのか、Name。」
誰もいない道、端に設置されたベンチに彼女は、Nameは座っていた。
幼馴染のNameは時折、こうやって目的も無しに街を歩くのが趣味だった。
行き先も伝えずに家を出るから探すのに苦労する。
「...ウォーズマン、寒くない?」
「シベリアの方がよっぽど寒いさ。」
「...はは、そうだったね...日本に慣れちゃったかな。」
ほんの少し震えている彼女の隣へ座る。
寒さのせいか、Nameの笑みはいつもより無気力なものだった。
舞い落ちる雪が彼女の髪に飾りのように散りばめられている。一定のリズムで白い息を吐きながら、彼女は虚空を眺めるように俯いていた。
「ここは寒いから、早く帰ろう。」
彼女に手を差し伸べるが無反応だった。
ただ白い息を吐きながら、目を伏せている。
「...もう少し、ここに居ては駄目?」
寒そうに震えているのに、彼女はまだここに居るつもりだ。
1月中旬の日本は銀世界と化していた。確かに寒いが、シベリアの比ではない。
だから彼女にとって日本は、調度良い気候なのかもしれない。
「...少しだけだぞ。」
そう言ってNameの髪を撫でれば、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
しかし今も尚、身体は寒さに震えている。
頭を撫でていた手を、今度は肩に置き彼女をそっと抱き寄せる。突然のことに彼女は困惑したような、恥ずかしそうな顔で俺を見上げていた。
「...ど、どうしたの?ニコライ..」
「こっちの方が暖まるだろ?」
彼女が俺をニコライと呼ぶのは何年ぶりだっただろうか...。
日本に来てから彼女と接する時間はかなり少なくなり、前のように共に散歩することもほぼ無くなっていた。
そして関わる時間が減る度に、彼女の笑顔は薄れていった。
「...うん、あったかい...」
頬を赤く染めながら、彼女は薄らと微笑んだ。
いつもより明るくなった表情に昔の彼女を思い出し、少し懐かしい気持ちになった。
何時間もここに居たのだろう、腕越しに感じる彼女の体温は冷たく氷のようだ。
「次からは一緒に散歩しよう、Name。」
「...え?でも...特訓だってあるし...。それに貴方はもう正義超人よ、きっとこれからもっと忙しくなる...」
「構わない、俺はお前と一緒が良いんだ。昔みたいに、どんな時だって支え合っていきたい。これから先ずっと...」
Nameの冷たい手を握り真剣な声色でそう伝えれば、彼女は昔のような無邪気な笑みを浮かべた。
「...ありがとう...ニコライ。」
ああ、その顔だ。あんなに寒いシベリアの冬を耐えられたのも、その笑顔のおかげなんだ。
いつの間にか、手から伝わる彼女の体温は陽だまりのように暖かくなっていた。
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