29(短編)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
10月31日。
大量のお菓子が入った袋を片手に帰宅すると、どこから侵入したのか部屋に一人の男が居座っていた。
煙草の臭いが部屋に充満している。吸う時は窓を開けろとあれほど言ったのに…。
「よおName、遅かったな。残業か?」
「ボーン…なんでここにいるの?」
独特な衣装に身を包み葉巻を吸う男、ボーン・コールドは返事の代わりに口から紫煙を吐き出した。
街中や世間はハロウィンで賑わっているが、私はいつも通り仕事に追われる日々だった。
お菓子なんてあげる相手も貰う相手もいないから、奮発して自分で大量に買い込んだ。
それを酒の肴にでもしてやろうと思い帰宅すれば、そこには存在が既にハロウィンな殺し屋及び悪行超人。
あぁ、なんて日だろう…。
溜息交じりに袋を置き、くたびれた体をソファに沈める。
「それもしかしてお菓子か?随分と子供っぽいラインナップだな」
「ちょっ…勝手に見ないで…!」
袋からチョコレートやスナック菓子を取り出しながら、ボーンは小馬鹿にしたように笑う。
そして奥に入っていた酒の缶を何本か出してから、スナック菓子の袋を開封した。
「ちょっと…それ私が買ったんですけど」
「そう固いこと言うなよ。今度高い酒買ってきてやるからよ」
そう言われ私も渋々お菓子に手を伸ばす。
ハロウィンだというのに、私の目の前には安い酒とスナック菓子。おまけに馴れ馴れしい殺し屋。
缶を開け、疲れた体に酒を流し込む。こんなのハロウィンじゃない、ただの疲弊した社会人の飲み会じゃん…。
ちょっとはハロウィンっぽく仮装なりパーティーなりしたいところだけど、そんな余裕はない。
気付けば酔いが回り始め、机にはお菓子の空き箱や空き缶が散乱していた。
「…ねぇ、ボーン。今日ハロウィンなんだけど」
「そういやそうだったな…。で、何だ?」
ボーンに向かって右手を差し出す。酔った勢いの悪戯心だった。
だってハロウィンなんだから、それっぽいことをしたかっただけ。
「お菓子、くれなきゃイタズラ」
恐らく、彼から見た私の顔は滑稽だっただろう。火照った顔の女が子供っぽいセリフと共に手を差し出す。そんな状況は愉快で仕方ない。
案の定、彼は酒の缶片手に小馬鹿にした笑みを見せた。
「へぇ…イタズラねぇ…。やれるもんならやってみろ」
挑発するかのような猫撫で声。まるで子供をあやしているような声色に、酔っているのも相まってか非常にムカついた。
そもそも勝手に上がっておいてお邪魔しますの一言もないなんて…。
私はソファから立ち上がると、彼の座るソファへと移動した。
「っ…」
本当に、酔っていたせいなんだろう。それとも彼の驚いた顔が見たかったのだろうか…?
私は何を思ったのか、腰かけているボーンの上に座るとそっと彼の頬へ口付けをした。
これが私が酔っぱらった頭で精一杯考えたイタズラの案だったのだろうか…。この男にやったところで逆効果だということも知らずに。
「…ムヒョヒョ、こいつは驚いた。お前にそんな真似ができたなんてな…」
顎を掴まれる感触。それで一気に酔いが覚めた気がした。
「しかしName、俺を落とすにはもう一味足りねぇ」
何かを言おうと開けた口に、彼の唇が重なった。
「んっ…んう…っ、む…」
顎を掴まれ、もう片方の手で背を支えられ、私はボーンの上で彼に好き勝手されていた。
口の中が熱かった。それは酒のせいではなく、侵入した彼の舌が私の口内をうねっていたから。
抵抗する力なんてなかった。ただ彼に委ねてしまおうと目を閉じていた。
私は何をしようとしていたんだっけ?
ハロウィンだから、彼にトリックオアトリートなんて言ってみて、それからイタズラという名目でキスをして。それから、それから…。
一度は酔いが覚めたはずなのに、再度鼻孔に広がる酒の香りに意識がぼんやりとし始める。
待って、こんなのハロウィンじゃない。これじゃあただの…大人の…。
「イタズラ成功」
不意に口が離れ、ボーンは私の頭を乱暴に撫でまわした。
「んぇっ…」
幸せな夢から叩き起こされたような気分になり、思わず変な声が漏れてしまう。
弄ばれたと自覚した途端、後悔と恥ずかしさが全身を駆け巡っていた。
「なっ…!ちょっと…ッ」
「ほらやるよ」
「んぐっ…」
口に何かが突っ込まれる。ロリポップだった。
甘く酸っぱいロリポップ。子供向けのやつ…。
「何も用意してないとでも思ったか?だって今日はハロウィンだろ?」
ボーンは悪戯っぽく笑い、懐から出した葉巻に火をつける。
私はなんだか言い返す気力もなく、消沈した様子で口の中に広がる甘酸っぱいロリポップの味を感じていた。
煙草と酒の匂いが交じり合う部屋、ハロウィンらしからぬハロウィンはもうしばらく続きそうだった。
1/16ページ