29(短編)
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Nameは幼なじみだった。
昔はよく遊んでいた記憶がある。
鍛錬を見に来てくれた時だってあった。
いつだって一緒にいた。
お互い思春期になり一気に距離ができた。
俺は一人前の超人になるために更に鍛錬に打ち込み、Nameは学校や友人との付き合いでほとんど家には来なかった。
そして時が経ち。
正義超人として世に出た俺は彼女の存在を忘れかけていた。
4月23日。久々にドイツに帰ってみた。
懐かしい場所に立ち寄ったり、時々通行人に呼び止められたり...。
学校に立ち寄ったあたりから、不意にNameのことを思い出した。
思えば幼かった頃の姿しか覚えていない。
会いたい、一度で良いから話をしたかった。
実家に帰ってみようかと夕焼けの街を歩く。
Nameらしい人はいないかと何度も周りを見渡すがやはり見つからなかった。
昔のことを思い出しノスタルジーに浸りながら歩く。
ふと前を向けば綺麗な髪の女性が此方に歩いて来る。
鞄を肩にかけ、目を伏せながら歩いている。
一目でわかった、Nameだ。
「Name...!」
彼女だとわかった瞬間、俺は無意識に名前を呼んでいた。
女性は足を止め此方を見る。
間違いない。大人になってもその顔には幼い頃の面影が残っていた。
「......ブロッケン...?」
「ああ、俺だ。Nameだろ?」
Nameの肩から鞄が落ちる。
そして彼女は人目もはばからず俺を抱き締めた。
「ブロッケン...!ずっと会いたかった...!」
その言葉が嬉しくて、俺も彼女を優しく抱き締める。
とにかく色んなことを話したかった。
「そうか、じゃあまだ結婚もしてないのか?」
「うん...。なかなか相手も見つからなくて。」
昔よく遊んだ実家の庭。
そこのベンチでお互いの話に耽っていた。
夕焼けは更に赤くなり、陽は沈みかけている。
夕陽に照らされたNameの瞳は綺麗で、俺は隣に座った彼女を見つめていた。
「...変わってないね。」
「...そうか?」
「うん、全然変わってない。身長はすごく伸びた気がするけど。」
そう言って幼い頃と変わらない笑顔でNameは俺を見る。
その笑顔を見た時、この時間がずっと続けば良いと一瞬思ってしまった。
「ごめんね、なかなか連絡できなくて。本当は貴方にすごく会いに行きたかったの...。でも環境が変わるとなかなか会いに行けないものね...。」
「それはお互い様だ。俺だってドイツに来るまではお前のこと思い出せなかったんだぜ?時間ってのは残酷だな。」
徐々に暗くなる空とは逆に、街灯や家の明かりが次々と街を照らし始める。
「...そういえば...!誕生日だったよね。」
Nameはベンチから立ち上がる。
「ビール飲み行く?私奢るよ。」
「いや、流石にそれは悪いぜ。俺が奢る。」
俺もすかさずベンチから立ち上がる。
久々に再会した幼なじみに奢らせるわけにはいかない。内心、良いとこ見せてやりたいとも思っていた。
「...んー...じゃあ...誕生日プレゼント!何がいい?」
誕生日プレゼント...。
正直、欲しい物はなかった。
それに今こうしてNameと再会できたことが何よりの誕生日プレゼントだった。
「...俺は...別に、プレゼントはいらねぇ。」
「駄目よ誕生日なんだから。それにもう会えないかもしれないでしょ?何か欲しいもの言って!願い事でも良いから!」
もう会えないかもしれない。
その言葉に胸がほんの少し苦しくなる。
その通りだ。ドイツから離れてしまえば彼女とはまた疎遠になってしまう。
また何年も会えなくなって、次会った時には...彼女は結婚しているかもしれない。
そう思うと耐えられなかった。
「...じゃあ...俺の傍にいてほしい。」
「わかった!......ぇ?」
鞄を片手に歩き出そうとしたNameは、此方を振り返り徐々に赤くなっていく。
言ってしまった...。俺も帽子を深く被り、紅潮した顔を隠した。
「...そ、それ...えっと...どういうこと...?」
鞄で顔を隠しながらNameは俺に近付いた。
しかし耳まで赤くなっているのが隠しきれていなかった。
「久々に会ってこんなこと言う奴はいねぇと思うけど...。...俺やっぱり、お前のことが...好きだ。」
安っぽい言葉だって思われても仕方ない。
俺はただ伝えたかったことを伝えた。
Nameが好きだ、幼い頃からずっと。
「...わ、私...てっきり...もう相手がいるのかと......。」
Nameは鞄を下ろし、真っ直ぐな瞳で俺を見た。
暗くても赤く染まった頬はよく見える。
「...私...ずっと会いたかったって言ったよね......。会えたらその時は...本当のこと伝えようって...思ってた...。」
昔から変わらない真っ直ぐな視線。
真剣な話をする時はいつも、その綺麗な瞳で俺を射抜いていた。
「......私も大好き。ずっと傍にいさせてほしい。」
気付けばNameを強く抱き締めていた。
再会はこれっきりにしよう。
もう二度と離さない、離れ離れになるなんて御免だ。
「一緒に来てくれるか?」
そう尋ねれば彼女は返事の代わりに、そっと俺の背中に手を回した。
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