29(短編)
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「ねぇ寒い。まだ到着しないの?」
「我慢しろ。」
薄暗い魔界の一本道を歩きながらNameはぶつぶつと文句を言う。前を歩くアシュラマンは半裸なのにも関わらず、冷たい風の中を歩き続けている。
「魔族の生態系ってどうなってんの?なんでこんな寒さに全裸で耐えられるわけ?」
「馬鹿、裸ではない。下は履いているだろう。」
「それもうほぼ裸じゃん、レスパンと装飾だけじゃん。超人じゃなかったら変態扱いだから。」
アシュラマンは立ち止まり、Nameの方へ振り返る。
Nameは流石に言い過ぎたかと立ち止まり、彼と距離を取った。2人の間に暫しの沈黙が流れる。
「...このままお前をこの場所へ置いて行くこともできるんだぞ?」
「...あー...ちょっといいかな。嫁を野垂れ死にさせたら評判ガタ落ちじゃない?王子様。」
開き直ったように意地悪な笑みを浮かべるNameに、アシュラマンはため息をつく。
地上で出会った人間を自身の実家である城に連れて行くために、彼はこうして歩いている真っ最中だったのだ。
魔界に着いた彼女は早速「車は?テレポートできないの?」と都会から田舎に越してきた若者のようなことを延々と愚痴っていた。
そして今も尚「寒い、疲れた、殺風景」と文句を垂れ流し続ける。
とんでもない女だが、これでもNameは彼の立派な婚約者だった。
「...全く...口だけはよく動く奴だ。」
「ちょっ...!ちょっと!」
Nameの愚痴に耐えられなくなったアシュラマンは、米俵のように彼女を担ぎ上げ再び歩き始めた。
「ねぇちょっと...!雑な持ち方しないで...!」
「カカカッ、お前のようなガサツな女にはお似合いだろう?」
Nameの表情は伺えないものの、きっと悔しそうに歯を食いしばっているのだろうとアシュラマンは満足げに笑った。
「あーもう...!ガサツなのはどっちよ!馬鹿!脳筋!傲慢プリンス!」
「喧しい、それ以上喋ったら尻を叩くからな。」
Nameは彼の忠告を聞き、仕方なく口を閉ざす。
暇すぎて周りの景色を眺めるも興味をそそられるものは何も無く、そのうち彼女は眠りについた。
「起きろName、もうすぐ着くぞ。」
「んー...」
Nameは眉をひそめながら目を擦る。
担がれていた身体はいつの間にかアシュラマンの腕の中だった。
所謂お姫様抱っこである。そのことに気付いた彼女はほんの少し頬を赤らめた。
「どうした、恥ずかしいのか?」
「......少し、だけ...」
「お前はいずれ私の妃になるのだぞ?これくらい慣れろ。」
「さっきまでガサツだったくせに...。この変わり様、夢じゃないよね?」
そう言って目を細めるNameの頬をアシュラマンは軽く抓った。
「現実だ、目を覚ませ。」
「いったぁ...!前言撤回やっぱ現実のアシュラね...。」
自身の頬を撫でながらNameはアシュラマンの胸元へ身を預けた。
そしてどこまでも続く魔界の風景を横目で眺める。
「......ねぇ、でも私ちょっと心配だよ。こんな何の取り柄もない私が本当に妃になれるかな...?」
先程よりも不安の混じった声色に、アシュラマンは寄りかかるNameを見下ろした。
何の変わりもない彼女。しかし表情は普段よりも暗かった。
「...今更何を言う。私自らが選んだ女だ。なれるに決まっている。」
アシュラマンの手がNameの髪を梳かすように撫でる。
その手を彼女は上からそっと握った。
「...ありがとう。...もうほんと大好き...。世界で1番愛してる。」
「...ああ、私もだ。お前に敵う女などいない。愛しているぞ、Name。」
アシュラマンはそっとNameの額にキスをする。
紅潮した頬を隠すように、Nameはさらにアシュラマンの胸元へ顔を埋めた。
「...もう1回言って。」
「もう言わん。」
「えー...ケチんぼ...。」
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