29(短編)
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「ここにいたのか...Name。」
窓際に背を預けながら煙草を咥えているNameは、俺を見つけると咥えていた煙草を口から離す。
「もう仕事は終わった?」
彼女の持つ煙草の先端から、煙が空へと上っている。
アンタッチャブルの本部にはもう俺と彼女しか残っていない。彼女は夕暮れの中、こうしていつも俺が仕事を終えるのを待っていた。
「ああ、今日も無事終わった...帰ろう。」
「その前に...どう?一服さ...」
彼女はラッキーストライクの箱を開け、此方に差し出した。綺麗な瞳が、俺の目を見つめている。
最近はあまり吸っていなかったがたまには良いだろうと、箱の中から一本煙草を取り出した。
窓の外から冷たい風が吹く、そろそろ寒くなる頃だろう。日が沈むのも早くなった。
「寒いけど、ニンジャが換気しろって...」
ポケットを探りながら彼女が薄ら笑いを浮かべる。
たしかに煙が室内に充満するよりかは、寒くても窓を開けた方が多少マシだ。
アンタッチャブルの中では上層部の彼女でも、ニンジャには逆らえなかったみたいだ。
日が沈み始めた外が次第に薄暗くなる。
そうだ...たしか今日は彼女に用があった。
「...遠征が決まった、暫くは帰れそうにない。」
Nameのライターを持つ手が止まる。
咥えている煙草の煙だけが、ゆらゆらと揺れている。
「...すまない、いつも寂しい思いをさせてしまって。」
Nameの頭を優しく撫でる。
彼女はハッとしたように顔を上げ、俺を見た。
「...大丈夫...遠征、頑張って...」
寂しげにそう呟く彼女の笑顔は、いつもと違いぎこちなかった。
大丈夫ではないだろう、絶対に。
「Name、嘘をつくな。」
「...嘘じゃない、だっていつかは帰って来るでしょう?」
マスクをずらし煙草を咥えれば、彼女が俺の煙草にライターを近付け、火をつけようとする。
...がしかし、オイルが切れたライターは一瞬火の粉を散らし、火を灯すことなく燃え尽きた。
「...ごめん...なんか調子悪いや...」
彼女は背を預けていた窓際から離れ、この部屋を出ようと歩き始めた。
その手を掴み、引き戻す。
「わっ...ちょっ...何して...」
Nameを此方に抱き寄せる、そして顔を近づけた。
彼女の咥えた煙草の先端が、俺の咥えた煙草の先端と合わさる。
次第に俺の煙草に火が移り、辺りを漂う煙も次第に増していく。
彼女は顔を離すと、咥えていた煙草を灰皿に置き俯いた。その頬はほんのりと赤い。
「ッ......心臓に...悪いよ...」
「すまない、だが火はついたぞ。」
俺は俯くNameを抱き寄せたまま煙草をふかす。
髪を優しく梳かすように撫でれば彼女は更に目を伏せた。
「......寂しいよ、寂しい...アタルさんがいないと...私、一人ぼっちだから......」
風の音さえもしない室内で、彼女は掠れた声で呟いた。
やっと本音を話してくれたか...。
「Name...お前は一人ではない、この本部にはいつだって仲間がいるだろう?」
「私だけじゃない...貴方だって心配なの。この前だって、傷だらけで帰って来たじゃない...」
涙の滲む目を伏せ、彼女は俺の手を握る。
その手は冷たく、震えている。俺はそんな彼女の手を優しく包むように握り返した。
「行かないでとは言わない、でも...お願い......早く帰って来て...」
Nameが俺の手を握りながら縋り付く。
俺はそんな彼女を抱き寄せ、頭を優しく撫でてやることしかできなかった。
「約束しよう、必ず帰って来ると。その時はまたこうやって火をつけてくれないか?」
顔を上げたNameの頬を撫でれば、彼女は笑みを浮かべ頷いた。
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