恐怖映画(短編)
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「Name先輩!獲物来ましたよ!」
「うるせー馬鹿」
茂みに身を潜めながら、隣にいた元気なハロウィンマスクの頭をはたく。
「痛っ」と小声で呻きながら頭をさすっているハロウィンマスクことゴーストフェイスは、今日も相変わらず元気な奴だった。
私達はタッグだ。時々こうやって2人で人を殺しに夜の街を徘徊する。
今日のターゲットは一人の男だ。
「いつも通り、挟み撃ちにしよう。或いは行き止まりに追い込む。」
「了解、んじゃ俺回り込んできます。」
ゴーストフェイスはお気楽な様子で立ち上がると男に見つからないように遠くへと歩いていった。私は彼をいつものルートまで追い込むのが役割だ。ここは一本道だし、ナイフを持っている人間が後ろに立っていれば自然と前方に逃げる筈だ。
ゆっくりと茂みから道へ出る。
懐からナイフを取り出し、男の後ろをついて行った。
暫くすれば男は足元に気付いて振り返り、私は街灯の下で光るナイフを回してみせる。
そしてナイフの存在に気付いた男は、私から逃げ始めた。
計画通りである。この先は分かれ道、そのうちの一方は行き止まりでもう一方にはゴスフェが待ち伏せしている筈だ。
男を追いかける、いつものようにナイフを構えながら追いかける。
角を曲がった、その先は行き止まりだ。
私達の勝ちだ、今日も肉を裂く快感が味わえると思うと自然と口角が上がった。
...はずだった。
「ぅ"...ッ!?」
角を曲がり男を一刺ししようとした瞬間、不意に腹を襲う激痛。内臓が潰されたような痛み。
男が、私の腹に蹴りを入れたのだ。
まずい、油断した。
突然のことに持っていたナイフを手放し、腹を抱えながら蹲る。
「...何だ、女の子じゃん。」
男は私のナイフを奪い、私の首元にあてがった。
最悪だ、選んだ相手が悪かった。男は「何?殺人鬼ごっこ?俺も混ぜてよ」とニヤニヤ笑いながら私の身体をまさぐる。
酒臭い、こいつ酔ってる。
私を本物の殺人鬼だと思ってはいないが、ナイフを奪われては無闇に抵抗できない。股間に蹴りでも食らわせようかと思ったが、首元にあてられたナイフのせいで動けたとしても首が切れるだろうか...。それに蹴られた腹も痛い。
男の手が服の中に入る。あぁ...今すごくかっこ悪い、立場逆転されてるじゃないか...。
このままこの酔っ払いの酔いが覚めるまで弄ばれると思うと気が遠くなる。
痛む腹を押さえながら、私は何も出来ずに男を睨む。
「何やってんだよ、お前...」
不意に聞こえた低い声。刹那、目の前の男は呻き声を上げながら横に倒れた。
暗闇の中に更に黒い人影、ゴーストフェイスだ。
彼は倒れた男の上に馬乗りになると、何度も何度も、執拗に男にナイフを刺した。その都度男は叫び声を上げ、アスファルトにはドス黒い血が広がった。
ゴスフェは息を荒らげながら、今も尚刺し続けている。
「俺の...ッNameに...っ、気安く触んじゃねぇよ...ッ!」
肉の断つ音、彼の乱れた呼吸、男の喚き声。1分...10分だったかもしれない、それらが静まるまで私はその場に立ち尽くしていた。
「ッ...はぁ...ッ、はぁぁ...」
ゴスフェは肩で息をしながら立ち上がり、ゆっくり此方を向く。
「ご...ゴスフェ......」
「大丈夫ですか、Name先輩...?」
先程までの彼とは違い、いつもの口調で私に近付く。私の後ろは壁、これ以上は下がれないし目の前には彼がいる。
「うん...大丈夫...ありがと.....っ」
ゴスフェは逃げ道を塞ぐように両手を私の後ろの壁につき、血の着いたマスクを私に近付けた。
「駄目ですよ、Name先輩だってナイフが無ければただのか弱い女の子なんですから。」
彼の声がいつもより低くて、私はほんの少し彼が怖くなった。そうだ、彼は殺人鬼...。ナイフは私と同じでも、私よりも足が速くて力も強い。
「...でも安心してください、Name先輩。先輩はこの先もずっと、俺が責任もって守り続けますからね。」
ゴスフェは私の耳元でそう囁くと、「さ、早くずらかりますよ」と元気よく走り出す。
なんだか今日は、調子が悪い。いつもは私が先輩として彼を守り、指示する側だったから...。
立場が逆転したみたいだ。でも、不思議と悪い気はしない...。
私は、今までよりも頼もしく見える彼の背中を追いかけた。