Chapter1 - Fall in Sweet Love
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***
「あーあ、やっぱり負けかー」
「あのラクトもキルレ悪かったし、たぶんマルミサマンか稼ぎ目的でしょ。帰ろ帰ろ」
試合を終えた味方の野良イカたちの声に聞こえないふりをしながら、ロビーの出口へと向かう。マナーを守らない一部の者たちのせいで、ラクトに良い印象を持たない者がいることもデニムキャップは分かりきっていたし、野良試合で「自陣塗りしか能がない」「どうせマルミサマン」「どうせ金稼ぎ目的」などと言う声を耳にすることもこれまでに何度かあった。それでもウデマエS+0にすらなれない自分が、あのスカルと相打ちに持っていけただけでも凄いことではないのか。もう少し褒めてくれたっていいのに、とデニムキャップは不貞腐れていた。
「あいつらの言う事など、気にするな。お前はよくやったではないか」
突如として、声がする。驚き振り返ると、そこにいたのはイカスカルマスクを着けたボーイの姿――あのスカル、本人 であった。
「ただオレの射程から逃げるだけでは無い。マルチミサイル、カーリングボム、メインの射撃。全てを使いこなして打開のきっかけを作り、そして射程を恐れずオレに挑んできた」
低く、落ち着いた声だった。真摯な瞳で、彼はデニムキャップに告げた。
「――お前との戦い、面白かったぞ。良ければまた、対戦しないか」
マスクの下の表情は、見ることができなかった。けれどデニムキャップには、マスクの下で彼が笑っていたように感じられた。途端に、彼女の胸は熱く高鳴り始めた。
恋に落ちる、とはまさしくこの感覚のことを指すのだろうと、デニムキャップはそのとき悟ったのだった。
***
結局、デニムキャップのチームはスカルのチームから1勝すらも奪い取ることはできなかった。これでは辛いチームに貢献どころか、甘いチームに大量の貢献度を献上する羽目になってしまったに違いない。がっくりと肩を落としながら、デニムキャップはナマコフォンを開いて自分の戦績を確認する。両目に飛び込む「昇格戦まであと20pt」の文字。こんな調子では、フェスが明けてから挑む昇格戦もまた惨敗で終わってしまいそうだ。
「少し気分転換でもしたらどうだ」
落ち込むデニムキャップに、スカルが声をかける。
「少し腹が減った。良ければ今から一緒にカフェに行かないか」
「え、私と……? 私で、いいの?」
「ああ、行くぞ」
ロビーの近くにあるカフェに入り、スカルはイチゴパフェを、デニムキャップはアップルパイを注文した。
「そういえば、お前は辛いチームだが、こんな所に誘って良かったのか?」
「むしろ嬉しいよ、甘いものも好きだし、最後までどこに投票するか迷ってたぐらいだから」
そのまま財布を取り出そうとする彼女を制して、オレが誘ったんだから、と彼はデニムキャップの分まで会計を払ってくれた。
フェスに「甘い」派として参加しているのを知った地点で分かってはいたのだが、彼はその見た目とは裏腹に、意外にも甘党らしい。今日何度か対戦しただけの間柄だが、それでもデニムキャップは彼の意外な一面を見ては、その度に胸を撃ち抜かれるような感覚に至った。天然で、方向音痴で……そして、つい先程運ばれてきたばかりのパフェを、素顔を見せる間も無く一瞬で平らげてしまう所も。
「あの……スカルくんは、どうして私と再戦しようと思ったの? S+にすらなれなくて、こんなに弱いのに」
無口なスカルは自分からなかなか話題を振らないので、思い切ってそう尋ねてみた。
「最初に言っただろう。“面白い”からだ」
「面白い……?」
「ああ」
そう言うと彼は、以前ハイカラシティにいた頃の出来事を話してくれた。
――かつてのスカルはただ強さだけを求めて、淡々と敵を倒すだけの存在だったこと。そんな彼に再戦を挑んだ、ゴーグルという者がいたこと。ブルーチームとの再戦で、心から「楽しい」と思える試合をしたこと……
「だが、バトルに挑む者は数多くいる。当然、ブルーチームのような者ばかりではない。むしろ大抵の奴らは、リッターが存在するだけで怖気付くし、スポナーから姿を見せただけで暴言を吐かれることもある。まあ、このような事はリッター使いとして、避けては通れぬと分かってはいるのだが……」
スカルはそう、淡々と語ってゆく。
「だが、お前と初めて対戦して、相打ちになった時、何か、感じる物があったんだ。まるで、かつてのブルーチームとの戦いを彷彿とさせるような、何かが……」
彼はそのまま、じっと自分の手のひらを見つめていたが、やがてデニムキャップに向き直ると、イカホを取り出して言う。
「なあ、良ければ、連絡先を交換しないか。フェスが終わったら、今度は味方としても、バトルをしたい。……デニムキャップが良ければ、だが」
「え、ええっ、私と!? 勿論良いに決まってるよ!」
こうしてデニムキャップは連絡先とフレンドコードを交換すると、その日はスカルと別れて家に帰った。
(どうしよう、スカルくんの連絡先、手に入れちゃった……今日のお礼とか、送った方がいいかな)
ナマコフォンを開いて、まっさらなトーク画面の下に、不器用な文章を打っては消し、打っては消しを繰り返す。
『今日は対戦ありがとう。こんな私で良ければ、また一緒にバトルに行きたいです!』
10分ほどかけてようやくその文章を送信すると、恥ずかしくなって勢い良く画面を閉じる。暫くして通知音が鳴ったので画面を見てみると、そこにはスカルからの返信の通知があった。
『こちらこそ、楽しかった。デニムキャップの都合の良い時にでも、また誘ってくれ』
その夜、デニムキャップが嬉しさのあまり一晩中布団の中で悶絶していたのは言うまでもない。
「あーあ、やっぱり負けかー」
「あのラクトもキルレ悪かったし、たぶんマルミサマンか稼ぎ目的でしょ。帰ろ帰ろ」
試合を終えた味方の野良イカたちの声に聞こえないふりをしながら、ロビーの出口へと向かう。マナーを守らない一部の者たちのせいで、ラクトに良い印象を持たない者がいることもデニムキャップは分かりきっていたし、野良試合で「自陣塗りしか能がない」「どうせマルミサマン」「どうせ金稼ぎ目的」などと言う声を耳にすることもこれまでに何度かあった。それでもウデマエS+0にすらなれない自分が、あのスカルと相打ちに持っていけただけでも凄いことではないのか。もう少し褒めてくれたっていいのに、とデニムキャップは不貞腐れていた。
「あいつらの言う事など、気にするな。お前はよくやったではないか」
突如として、声がする。驚き振り返ると、そこにいたのはイカスカルマスクを着けたボーイの姿――あのスカル、本
「ただオレの射程から逃げるだけでは無い。マルチミサイル、カーリングボム、メインの射撃。全てを使いこなして打開のきっかけを作り、そして射程を恐れずオレに挑んできた」
低く、落ち着いた声だった。真摯な瞳で、彼はデニムキャップに告げた。
「――お前との戦い、面白かったぞ。良ければまた、対戦しないか」
マスクの下の表情は、見ることができなかった。けれどデニムキャップには、マスクの下で彼が笑っていたように感じられた。途端に、彼女の胸は熱く高鳴り始めた。
恋に落ちる、とはまさしくこの感覚のことを指すのだろうと、デニムキャップはそのとき悟ったのだった。
***
結局、デニムキャップのチームはスカルのチームから1勝すらも奪い取ることはできなかった。これでは辛いチームに貢献どころか、甘いチームに大量の貢献度を献上する羽目になってしまったに違いない。がっくりと肩を落としながら、デニムキャップはナマコフォンを開いて自分の戦績を確認する。両目に飛び込む「昇格戦まであと20pt」の文字。こんな調子では、フェスが明けてから挑む昇格戦もまた惨敗で終わってしまいそうだ。
「少し気分転換でもしたらどうだ」
落ち込むデニムキャップに、スカルが声をかける。
「少し腹が減った。良ければ今から一緒にカフェに行かないか」
「え、私と……? 私で、いいの?」
「ああ、行くぞ」
ロビーの近くにあるカフェに入り、スカルはイチゴパフェを、デニムキャップはアップルパイを注文した。
「そういえば、お前は辛いチームだが、こんな所に誘って良かったのか?」
「むしろ嬉しいよ、甘いものも好きだし、最後までどこに投票するか迷ってたぐらいだから」
そのまま財布を取り出そうとする彼女を制して、オレが誘ったんだから、と彼はデニムキャップの分まで会計を払ってくれた。
フェスに「甘い」派として参加しているのを知った地点で分かってはいたのだが、彼はその見た目とは裏腹に、意外にも甘党らしい。今日何度か対戦しただけの間柄だが、それでもデニムキャップは彼の意外な一面を見ては、その度に胸を撃ち抜かれるような感覚に至った。天然で、方向音痴で……そして、つい先程運ばれてきたばかりのパフェを、素顔を見せる間も無く一瞬で平らげてしまう所も。
「あの……スカルくんは、どうして私と再戦しようと思ったの? S+にすらなれなくて、こんなに弱いのに」
無口なスカルは自分からなかなか話題を振らないので、思い切ってそう尋ねてみた。
「最初に言っただろう。“面白い”からだ」
「面白い……?」
「ああ」
そう言うと彼は、以前ハイカラシティにいた頃の出来事を話してくれた。
――かつてのスカルはただ強さだけを求めて、淡々と敵を倒すだけの存在だったこと。そんな彼に再戦を挑んだ、ゴーグルという者がいたこと。ブルーチームとの再戦で、心から「楽しい」と思える試合をしたこと……
「だが、バトルに挑む者は数多くいる。当然、ブルーチームのような者ばかりではない。むしろ大抵の奴らは、リッターが存在するだけで怖気付くし、スポナーから姿を見せただけで暴言を吐かれることもある。まあ、このような事はリッター使いとして、避けては通れぬと分かってはいるのだが……」
スカルはそう、淡々と語ってゆく。
「だが、お前と初めて対戦して、相打ちになった時、何か、感じる物があったんだ。まるで、かつてのブルーチームとの戦いを彷彿とさせるような、何かが……」
彼はそのまま、じっと自分の手のひらを見つめていたが、やがてデニムキャップに向き直ると、イカホを取り出して言う。
「なあ、良ければ、連絡先を交換しないか。フェスが終わったら、今度は味方としても、バトルをしたい。……デニムキャップが良ければ、だが」
「え、ええっ、私と!? 勿論良いに決まってるよ!」
こうしてデニムキャップは連絡先とフレンドコードを交換すると、その日はスカルと別れて家に帰った。
(どうしよう、スカルくんの連絡先、手に入れちゃった……今日のお礼とか、送った方がいいかな)
ナマコフォンを開いて、まっさらなトーク画面の下に、不器用な文章を打っては消し、打っては消しを繰り返す。
『今日は対戦ありがとう。こんな私で良ければ、また一緒にバトルに行きたいです!』
10分ほどかけてようやくその文章を送信すると、恥ずかしくなって勢い良く画面を閉じる。暫くして通知音が鳴ったので画面を見てみると、そこにはスカルからの返信の通知があった。
『こちらこそ、楽しかった。デニムキャップの都合の良い時にでも、また誘ってくれ』
その夜、デニムキャップが嬉しさのあまり一晩中布団の中で悶絶していたのは言うまでもない。