Chapter5 - Take the Top of Tower
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***
ロビーの大画面には、準決勝のもう一つの試合の中継が映し出されている。
『サニー選手、ここは苦しいか! おっとここでグレープ選手がスプラッシュシールドでサポート! 無事に立て直したようです! さあここから逆転することはできるのか!?』
画面に映るのは、敵に大きなカウントリードを取られつつも諦めず反撃の体制を整えるサニーとグレープの姿だった。
(二人とも、頑張って……!)
デニムキャップは心の中で二人を応援しながら、大画面を見上げていた。
「飲み物を買ってくるから、デニムキャップは先にそこで待っていてくれ」
「分かった」
スカルの背中を見送って、正しい方向へ向かっているのを確認して安堵してから、デニムキャップは再び視線を画面へと向ける。
「……ちょっと、いいかしら」
デニムキャップの背後から、何者かの声がした。
(誰だろう。……あれ、この子って、さっきの……)
振り返ったデニムキャップは、そこにいるのが先程の準決勝の観客席で自分を睨むように見つめていたガールだと分かった。彼女は観客席にいた時と同じ目つきをデニムキャップに向けながら、つかつかと歩み寄ってくる。
「あなた、スカルと組んでいる、デニムキャップでしょう」
「うん、そうだけど……」
「単刀直入に言うわ。私、あなたが気に入らないの。これ以上調子に乗るのは、やめて頂戴」
「えっ……」
突然の言葉に、デニムキャップは一歩後ずさりする。
「今更言うまでもないでしょうけど、スカルはバトルの世界の頂点に限りなく近い存在なのよ。沢山のイカタコ達が彼の強さに憧れているし、彼に恋してる子だって沢山いる」
「それは……わかってる……けど」
分かっている。デニムキャップにも、そのようなことは分かっている。だけど、敢えて心の中では、その事には触れないようにしてきた。スカルが遠い存在だと意識してしまえば、本当に、スカルは遠くに行ってしまいそうだと、心のどこかで思っていたからだ。
「……スカルとチームを組みたいと言った子。スカルに勝ちたいと願った子。スカルに告白した子。私の周りにも沢山いたわ。……でも、誰も相手にされなかった」
デニムキャップを追い詰めるように、彼女はさらに歩み寄る。
「……なのに! ただのぽっと出のあなたなんかが、イカップル杯なんかに一緒に出ちゃって! ウデマエもXPも、スカルくんよりも、私やあの子達よりも、ずーっと低い癖に!」
「…………」
壁際までデニムキャップが後ずさって、それでもなお彼女は止まる気配を見せない。
「スカルの強さに媚びてるだけで、あなたは何もしていないじゃない! 塗ってマルミサ打つしか能が無いくせに、どうしてこんな所まで来れるのよ! ……あなたなんか、スカルには相応しくないわ!」
「……………!」
デニムキャップは何も言い返せないまま俯き、悔しさを拳の中で握りしめる。
(確かに、私はウデマエもXPも、スカルくんには全然及ばない。スカルくんを守れるような強さなんて持ち合わせていない。私なんかじゃ、スカルくんには……)
「それは違う」
(えっ……)
すっかり聞き慣れた声に、デニムキャップは顔を上げる。見れば、いつの間に戻ってきていたのか、2本のペットボトルを持ったスカルがそこに立っていた。
「確かに以前のオレは、弱い奴に興味は無かった。だけど、ブルーチームと出会って、ウデマエでは測れない強さと、真の楽しさを知った」
驚いたように顔を上げるデニムキャップとガールに向けて、彼は心做しか普段より強さのこもった声で話す。
「そしてオレは、デニムキャップという存在に、ウデマエやXPに囚われることのない強さと楽しさ、そして何より、共に居たいという気持ちを感じた」
「……っ!」
ガールは歯を食いしばりながら、ほんの少し後ずさりする。
「『相応しい』かどうかなど関係無い。オレは、オレが感じた想いに、素直になっただけだ。オレ以外の誰かに、決められるようなことでは無い」
スカルのその視線が、声が、立ち姿が、デニムキャップには全てが揺るぎなく、真っ直ぐに感じられた――まるで、一直線に貫き通す、4Kスコープの射線のように。
「〜〜っ! もういいわ! 好きにして頂戴!」
逃げるように走り去るガールの後ろ姿を見えなくなるまで見届けて、デニムキャップは安堵のため息をついた。
「大丈夫か、デニムキャップ」
そう言ってスカルはペットボトルを差し出す。
「うん、スカルくんが来てくれたから」
よく冷えたペットボトルを受け取って、デニムキャップは再び大画面を見上げながら、蓋を開けて一口二口飲む。ほんの少し汗ばんだ身体に染み渡る、爽やかな冷たさが心地よい。
「オレ……何か変なこと、言っていなかったか?」
「えっ……?」
スカルらしからぬその唐突な質問に、デニムキャップは戸惑う。
「えっ、いや……変じゃ、ないと思う、けど……その、普通に、嬉しかった」
「……そうか」
そう言ってデニムキャップから視線を逸らしたスカルの顔は、ほんの少しだけ赤くなっているように見えた。
画面の中では、サニーがヤグラに乗って、カウントリードを奪い取ろうと必死になっていた。
『延長戦はまだ続いている! さあサニー選手、ヤグラを死守できるか! おっとここで迫るカニタンク!』
デニムキャップは手に汗を握りながら、サニーとグレープの様子を見守っている。
『いやしかし、グレープ選手、なんと背後に回り込んでいた! カニタンクが崩れ落ちる! ……ここでカウントリードー! 試合終了ー!』
(…………!)
試合終了の笛が鳴り響いた瞬間的、デニムキャップは目を丸くした。
『前回王者のグレープ&サニーペア、逆転勝利ー! 前回に引き続き、決勝進出です!!』
同じく大画面を見ていた者たちの歓声とどよめきが、ロビーの中に響く。
「サニー……! グレープ……!!」
「ということは……」
デニムキャップとスカルは、共に顔を見合わせる。
「決勝戦の相手は、サニーとグレープ……!」
***
「と、いうわけで」
「本当に決勝で対決することになるとはねー」
ロビーに戻ってきたグレープとサニーを出迎えたデニムキャップは、既に気合十分といった表情だった。
「サニーもグレープも、本当に凄いと思うよ! ……だから私もスカルくんも、本気で戦うよ!」
「私達も、誰が相手だろうと全力だからね! そして、どっちが勝っても恨みっこなし。お互い、頑張ろう!」
「うん! じゃあ次は……ステージ上でね!」
二人と別れたデニムキャップの元に、スカルがやって来る。
「決勝戦のステージは、どうやらマンタマリア号らしい」
「マンタマリア号かぁ……よりによって、壁がいっぱいでチャージャーには不利なステージ……」
「ああ。それに、相手は瞬間的な塗り能力に優れたスプラスピナーと、スプラッシュシールドで身を守りつつ、スライドで敵インク上でも軽快に動けるケルビンだ。ラクトの塗りで圧をかけていく戦法は通用しにくい。おまけにスペシャルはウルトラハンコとナイスダマで、どちらもリッターの射程外から攻撃ができてしまう」
「私達にとっては、かなりの強敵になりそうってことか……」
デニムキャップは頭を抱える。相手は前回王者であり、パープルチームに勝利した経験もある二人だ。それにチームメイトである以上、デニムキャップの戦法は簡単に見抜かれてしまうだろう。
「……だが、勝ち筋はある」
「というと……?」
「急ぎで悪いが、お前に今から少しでも練習しておいて欲しいことがある。……お前にしか出来ないことだ」
「私にしか、出来ない……?」
デニムキャップはよく分からないといった様子で首を傾げる。
「ロビーの射撃場は混んでいるから、ブキ屋の射撃場を借りよう。時間にはかなり余裕があるから、決勝戦が始まるまでには戻って来れるだろう。……一緒に行くぞ」
「えっ……うん!」
言われるがままにスカルを追いかけて、デニムキャップはロビーから外に出る。だがその直後、スカルは明後日の方向へと走り出してしまい、デニムキャップは慌てて呼び止める。
「ちょっと、そっちは反対方向だよ! ブキ屋はこっち!」
「む……すまない」
何事も無かったかのように、スカルは涼しい顔で戻って来る。その様子が可笑しくて、デニムキャップからは自然と笑みがこぼれる。
(バトルの時のかっこいいスカルくんも好きだけど……でもやっぱり、こんな一面もあるスカルくんだからこそ、私はますます好きになってしまう)
隣を走るスカルを横目で見上げながら、デニムキャップは想いを馳せる。
(誰に何と言われても……やっぱり私は、スカルくんのことが好きで、スカルくんの隣にいたい。だから――)
階段を降りきって、ブキ屋がすぐそこに見えてきた所で歩調を緩め、弾む呼吸を整える。
(この大会が終わったら、私の気持ちを伝えなきゃ)
そう決意を胸に抱いて、デニムキャップはブキ屋の扉をくぐった。