Chapter5 - Take the Top of Tower
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『さあ、第6回イカップル杯も、ついに準決勝を迎えました!』
『注目のスカル&デニムキャップペア、ナメロウ金属での第1試合、ヤガラ市場での第2試合も制し、着実に駒を進めています! 果たして決勝進出なるのか!?』
スポナーの上で、デニムキャップはナンプラー遺跡の乾いた空気を大きく吸い込んで吐き出す。決勝トーナメントもここまでは順調だった。そしていよいよ、二人は準決勝を迎える。
敵はスクイックリンαとスパッタリー。ヤグラに乗る側はスクイックリンのようだ。
「ナンプラー遺跡は初動から第一カンモンにかけての中央高台の奪い合いが最大の難所だ。そこさえ越えてしまえば、後はチャージャーの射線は通りやすくなるから、ノックアウトを狙うのは容易い」
「ってことは、初動はスペシャルを溜めつつ足場を整えてからヤグラに乗って、第一カンモン突破までをスペシャルで押し切りたいね」
「ああ」
乾いた風が吹き付け、雲が流れ日射しは強くなる。遥か先に見えるゴールを見据えて、デニムキャップはスポナーに潜る。
『レディー……ゴー!』
「スカルくんは右の高台の確保をお願い。私は中央左から塗っていく!」
「分かった」
作戦通りに二手に分かれ、まずは中央高台周りを塗って足場を確保する。
「おっと、一人かい」
「……!」
デニムキャップが声の方を見上げると、先に中央高台を確保していたスパッタリーが素早く降りてくる。
「リッターが反対側にいるなら、こちら側に追い詰めれば射線は通らない。一方的に囲み放題だ!」
「そんな……!」
まるでデニムキャップたちの作戦を逆手に取ったような動きだ。スカルの陣取る高台の反対側、段差とヤグラに遮られてリッターの射線は通らない。自陣に逃げようにも、中央からのスクイックリンの射線から逃れられそうにない。
(せめて、一人でもキルできたら……!)
デニムキャップはチャージャーの射線を躱しながら、足元を狙うスクイックリンに狙いを定める。しかし、スライドで軽快に距離を詰めながら動く相手には、3本の矢のうちの1本すら当てることはままならない。
「っ……!」
「よし、取ったぞ!残りはリッターだ!」
ノンチャージでの必死の抵抗も虚しく、デニムキャップは呆気なくデスしてしまう。
「っ……!」
中央を狙うスカルの視線が、一段と鋭くなる。
「敵はオレが何とかして時間を稼ぐ。デニムキャップは自陣を塗ってスペシャルを溜めておけ」
「分かった」
スクイックリンがヤグラを奪い、第一カンモンに到達する。それをスカルが的確に撃ち抜いて、残るスパッタリーの姿を探す。
「スカルくん、こっち! カモン!」
「……!」
デニムキャップの「カモン」の声に反応してスカルが振り向くと、そこではデニムキャップがスパッタリーの襲撃から必死で逃げ回っていた。
「復帰したけど、いつの間にか自陣に入り込まれて、狙われてる! ……どうしよう、全然当たんない!」
どうやら敵は意地でもデニムキャップをヤグラに乗せないという魂胆らしい。敵のインク上であろうとスライドで素早く動き回れるマニューバーは、とりわけデニムキャップが苦手とする相手だ。
「……チッ。ここまで近付かれたか」
スカルが射線を向けていることに、デニムキャップが気付く。次の瞬間、重い射撃音が響いて、デニムキャップの眼前にいるスパッタリーを撃ち抜く。
「デニムキャップに近付く奴は、オレが全員撃ち抜いてやる」
(また、スカルくんに守ってもらっちゃった……)
遠くからぽうっとスカルを見つめているデニムキャップの元に、すかさず声が届く。
「今だ、ヤグラに乗れ」
「うん!」
見惚れている場合なんかでは無い。すぐにデニムキャップがヤグラを奪い取り、スカルはヤグラの前でデニムキャップを守るように中央の高台に立ちはだかった。
ヤグラが中央の高台に上り、第一カンモンへと向かい始める。左の高台から射線を向けてきたスクイックリンをスカルが返り討ちにするも、カンモン到着と同時にスパッタリーがスカルの足元に迫ってくる。
「スペシャルを使うぞ」
「うん!」
スカルがヤグラ上にホップソナーを投げ、デニムキャップがマルチミサイルを構え、スカルを追うスパッタリーと、エナジースタンドとジャンプビーコンであっという間に復帰してきたスクイックリンを纏めてロックする。予告円が現れると同時に敵が一瞬怯んだのを、デニムキャップは見逃さなかった。移動経路を切るようにカーリングボムを投げ、ミサイルから逃げる敵にホップソナーを踏ませる。
「ダメージが入った。狙え」
スカルのその声を聞いて、デニムキャップは素早くブキを構える。マーカーの方向に向けて放たれたインクの矢が敵を貫き、ワイプアウトと同時に観客席からは歓声が沸き起こった。
「おおっ、いい感じじゃない!?」
「ああ、このまま押し切るぞ」
第一カンモンを突破し、カウントリードと共にナイスを掛け合う。そしてスカルが左の高台を確保してからは、完全にスカルの独壇場であった。敵がどちらから向かって来ようとも、既にヤグラの進行ルートは
『ノックアウトー! スカル&デニムキャップ、決勝進出だー! もはやこの二人に、敵はいないのか!?』
観客席から、これまでの試合よりもとりわけ大きな拍手と歓声が上がる。
(ついに……決勝まで来れたんだ……優勝まで、本当にあと少し……)
だが、デニムキャップは呆然とヤグラの上で立ち尽くしたままだ。
(でも……私……何も出来てない気がする。キルを取ってくれるのは、ずっとスカルくんだし……)
歓声に混じって、決勝進出おめでとう、決勝頑張れ、といった声が聞こえてくる。確かに聞こえる、決勝、決勝、決勝という声。けれど、自分たちが決勝に出られたという事実に、どこかまだ現実味を感じられずにいるデニムキャップもいた。
(やっぱり、スカルくんは私がいなくても勝てるんじゃないかな)
ぼーっと遠くを眺めているうちに、デニムキャップはふと、観客席の隅にいる一人のガールに目が留まる。皆が手を振ったり拍手したりと盛り上がる中で、そのガールはただ一人、手も口も動かさず、ただ睨むようにデニムキャップの方を見つめている。
(……どうしたんだろ、あの子)
自分が何かしたのだろうか?と思いながら、彼女の視線からこっそり逃げるように、デニムキャップは静かにステージを後にした。