Chapter5 - Take the Top of Tower
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訪れたイカップル杯当日。数多の二人組たちが行き交うロビーの喧騒の中で、取り残されたように独りでうろつきながら、デニムキャップはナマコフォンを開いて時刻を確認する。スカルに伝えていた待ち合わせの時刻を30分は過ぎているが、彼からは『遅れる』との連絡があったきりである。そろそろ着いてもおかしくない頃ではあるのだが、と思っていると、ナマコフォンの通知音が鳴った。
『ここはどこだ』
メッセージと共に、現在地から見える風景と思しき写真が添えられている。
『そこはアタマ屋の上? ……迎えに行くから、そこで待ってて』
一体何をどうすればそんな場所に辿り着くんだと思いつつ、デニムキャップはロビーを後にする。こうなることを想定して、大会出場者の集合時間よりも1時間早い待ち合わせにしておいて良かった、とデニムキャップは切に思った。
「スカルくーん! ここだよ、スーパージャンプで来てー!!」
アタマ屋近くの屋根の上にいるスカルを見つけて大きく手を振る。すぐに彼は気付いたようで、スーパージャンプで向かってくる。
「すまないな、デニムキャップ」
「大丈夫だよ、まだ時間に余裕はあるから」
デニムキャップが先導して、集合場所であるロビーへと向かった。
『第6回イカップル杯にご参加頂いた皆様、誠にありがとうございます。開会式まで、少々お待ちください』
先程よりも多くのイカタコ達が集っているロビーに、アナウンスの声が響いている。
『ご参加の皆様に、改めてルールの説明を行います。今回はブキやギアの統一制限は無しで途中変更は不可、ルールは「姫ヤグラ」となっております』
『姫ヤグラは通常のガチヤグラと同じ形式で行われますが、それに加えて「ガールのみがヤグラに乗ることが可能、ボーイがヤグラに乗った場合はその地点で失格」というルールとなっております』
『なお、ボーイ同士及びガール同士でご参加の方は、あらかじめどちらがガール役でどちらがボーイ役になるかを決めておき、1回戦開始までに届け出を……』
アナウンスを適当に聞き流しながら、デニムキャップはスカルと共にイカップル杯参加者受付の列に並ぶ。すると、周囲がだんだんと騒がしさを増していることに気がついた。
「えっ、あれって、S4のスカルだよね!?」
「うそ、スカルがイカップル杯に参加!?」
「どうしよう、当たったら勝てる気しないんだけど!」
「ちょっと待って、てかスカルの相手って誰!?」
ロビー全体に広がるざわめきの中で、デニムキャップは焦り始める。ここ最近はすっかりスカルと親しくなってしまったせいで感覚が麻痺していたが、そもそも彼はS4最強として名高い存在、バトルに挑む全てのイカタコの中でも頂点に近い位置にいる存在なのだ。そして、実力と知名度を兼ね備えていれば当然ファンも多い。もしかして自分はとんでもないことをしでかそうとしているのではないかと思い、デニムキャップは縮こまる。
受付の列が進み、デニムキャップとスカルも受付を済ませて、予選の対戦表を確認する。周囲のざわめきは、一向に収まる気配がない。
「私知ってる!スカルのペアのデニムキャップって子、最近S+0に昇格したラクト使いの子だよ!」
「S+0か〜。てっきりもっと強い子と組んでそうだと思ったのに」
「たかがS+0ごときでS4最強のスカルと組もうだなんて、調子乗ってるんじゃない?」
「ヤグラに乗るのがこの子なら、勝てそうだけどなー」
ざわめきに混じって、何やらそんな声が聞こえてくる。デニムキャップがその声に反応して、ポケットの中で拳をぎゅっと握りしめたのを察してか、スカルは「あいつらには構うな」と肩越しに彼女に声をかける。
「ねえ、スカルくん……本当に、私とで良かったの?」
ポケットに手を埋め、俯いたままデニムキャップは尋ねる。
「何を今更」
スカルの視線は、壁に貼られた対戦表の方へと真っ直ぐに向いたままだ。
「オレは……お前とだからこそ……いや、何でもない」
デニムキャップはゆっくりと顔を上げる。スカルが何を考えているのか、デニムキャップにはまるで読めない。口元も見えない、眉毛も無いとなれば、無口な彼の心の内を知ることなど、不可能に近かった。
『それでは、これから予選第1試合に移ります。参加ペアの皆様は、ステージに移動してください』
開会式が終わり、いよいよ大会が始まる。スカルと共に第1試合のステージへと移動しようとしていたデニムキャップの元に、背中から聞き慣れた声がかかる。
「おーい、デニムキャップー!」
振り返ると、そこにはサニーとグレープがいた。前回に引き続き、参加している二人だ。
「サニー、グレープ! 君たちは確か、予選Aブロックだったよね」
「そうそう、デニムキャップとスカルはFブロックだったっけ?」
「お互い違うブロックだから、予選を突破すれば決勝トーナメントで会えるかもな」
「お互い、頑張ろうねー!」
二人に手を振って、デニムキャップはステージへと向かう。
「誰が何と言おうと関係ない。練習の成果を発揮して、勝ちに行こう」
「うん!」
第1試合開始の時間になった。デニムキャップとスカルは互いに目配せして、意気揚々とスポナーに潜り込んだ。