Chapter1 - Fall in Sweet Love
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野良のバトルは、スポナーから姿を出すまで敵も味方も誰が来るのか全く分からない。
『さあさあお立ち会い!お次のバトルは「辛い」チーム対「甘い」チームやで!』
『エイ!(ステージはチョウザメ造船だよ!)エイエイッ!(中央の二つの高台を抑えるのがこのステージの鍵だね!)』
『優勝目指して、ファイトじゃー!』
フェスを盛り上げるすりみ連合の実況の声がスピーカーから響く中、LACT-450を手にしたデニムキャップは、「辛い」チームの赤いインクを纏い、チョウザメ造船の上空のスポナーから身体を出した。
彼女はバンカラ地方にバトルステージが設置され始めた頃からバトルを始めた者であり、イカタコ達の中では比較的新参に当たる部類だ。それでも僅か数ヶ月でウデマエSにまで到達することができるほどには成長していたし、スポナーから出れば真っ先に、敵味方のブキ編成を確認するのはもはや当たり前の習慣となっていた。
(味方は……黒ザップ、ボールド、スプロラか。短射程ばかりなのが少々不安だけど……)
味方の編成を把握したデニムキャップは、次に敵の編成に目を向ける。
(うわ、リッターがいる……って、ちょっと待って。あれって……)
敵も、味方も、観客席も、全てがざわめきに包まれる。瞬きをして、敵のスポナーと、モニターに掲げられたネームプレートを二度見、いや、三度見する。
間違いない。彼はS4の――スカル。
ハイカラシティ、ハイカラスクエアに続き、バンカラ街でもS+上位帯の熟練者としてその名を知られるS4。デニムキャップも、その名前だけは何度も耳にしたことがあった。しかし、まさか自分がその内の一人、しかも最強格と言われている者とマッチングするとは、夢にも思っていなかったのだ。
しかも敵の残り3人の編成は、シャープマーカー、ラピッドブラスター、ジムワイパー。射程有利が一人しかいない。編成事故もいいところだ。
手が、膝が、震えている。S+昇格戦で既に3連敗を味わっている自分に、こんなの勝てるはずがない。――いや、そう思うのはまだ早い。敵の編成はこちらに比べて塗りの弱いブキばかりだ。勝ち目は十分にあるだろう。そう自分に言い聞かせ、(名前)はスポナーに潜る。
『レディー……ゴー!!』
スポナーからは出来る限り手前に降りる。圧倒的な塗り性能と射程無限のスペシャルであるマルチミサイルを併せ持つラクトは、自陣塗り役には持ってこいのブキであり、デニムキャップがラクトを持つ時は、必ず初動で自陣塗りを行っていた。 程々に塗れたところでマルチミサイルを放ち、前線で戦う味方の元へと駆けていく。
その時、空気を震わす銃声が遠くで響いた。そしてモニター上のイカランプに、ひとつ、ふたつとバツが付く。
『おっと、ここで辛いチーム、二人一気にリッターに抜かれた!』
『流石はS4最強と名高いスカル選手! 圧倒的なエイム力じゃの!』
……恐れていた事態が早速起こった。やはりこの短射程ばかりの編成で、スカルには敵わないのか。初動で二人も落とされてしまってはこちらは圧倒的に不利になる。どうにか高台の手前側だけは死守しなければと、引き撃ちで足元を塗りながら周囲の状況を伺う。しかし敵の前衛は既にデニムキャップを取り囲んでいる状況であった。カーリングボムで退路を取りつつも、どうにか抵抗しようとひたすらに周囲を塗り返していた、その時だった。
――バキュン!
突然、鋭いインクショットがデニムキャップの身体を貫く。……リッターだ。為す術なくリスポーンへと飛ばされていくデニムキャップが見た光景、それは、手前側の高台に堂々と立ちはだかり、表情ひとつ変えず、ただ次の獲物を狙うスカルの姿だった。
状況は圧倒的に不利だった。手前の高台を取られてしまっては、自陣側の段差ですら、絶対射程領域 に飲み込まれてしまう。そうなってしまっては、もはや打開も難しい。リッターの射線から逃れることにただ必死で、誰も前線に近づくことすらできず、キルひとつ取ることもままならず、前線とリスポーンを往復させられながら時間だけが過ぎてゆく。既に敵のインクはリスポーンの近くまで迫ってきていた。
『甘いチーム、圧倒的リード! このまま押し切るのじゃー!』
『勝負は最後まで分からへんで! 辛いチームの底力、見しておくれやす!』
……残り1分。だがデニムキャップは諦めていなかった。敵の追撃を振り払い、障害物に隠れながらひたすらに右のルートを塗ってゆく。そして敵の4人を捉えてマルチミサイルを放つ。スカルが高台から降り、前線が崩れ始めた。その好機を見逃さなかったのか、味方たちは一気に反撃を始める。だが敵も強い。降り注ぐマルチミサイルの雨と互いのインクが交錯する激しい戦いの末、イカランプには六つのバツが付いた。
『残るは辛いチームのデニムキャップ選手と……』
『甘いチームのスカル選手!』
『エイ……ッ!(両チーム残り一名、ここからどう出る!?)』
(私とスカルの、一騎打ち――ここでキルを取れれば、逆転のチャンスがある。だから、やるしかない!)
マルチミサイルが捉えていたスカルの姿を追って、デニムキャップはステージの中央へと飛び込んだ。右からカーリングボムを投げ、左からメインの塗りで袋小路へと追い込んでゆく。だが、あと一歩でこちらの射程内、という所で突如、地面がインクの爆発を起こす。
『おっとこれは……トラップやで!』
『トラップを踏んだ相手は、半チャージでも仕留められるんじゃ! タダでやられる訳にはいかない、スカル選手の意地を感じるの!』
『それでもデニムキャップ選手、距離を詰めていく! 諦めの色は、まだ見えてへんで!』
トラップによるダメージとマーキング。それを喰らってもらなお、デニムキャップの瞳には燃えるような闘志が宿っていた。
(絶対に、絶対に、諦めない)
スカルがリッターを構え、チャージを始める。そしてデニムキャップもまた、弓を引き絞る。三本の矢を全て命中させれば、こちらの勝ちだ。
(私……勝ちたい!!)
チャージキープでインクに潜り、射線をかわすように動きながら近付き、そしてインクから飛び出して、デニムキャップはスカル目がけてインクの矢を放った。
――バシュン!
二つの射撃音が重なり、デニムキャップの身体を紫色のインクが貫く感覚が突き刺さる。
『エ、エイ……!(こ、これは……両チーム、ワイプアウト!)』
『ということは……』
『スカル選手とデニムキャップ選手、なんと相打ちじゃー!!』
弾け飛ぶ身体から手放したラクトが落ちていく。その先には、互いのインク跡がくっきりと残されていたのだった。
『さあさあお立ち会い!お次のバトルは「辛い」チーム対「甘い」チームやで!』
『エイ!(ステージはチョウザメ造船だよ!)エイエイッ!(中央の二つの高台を抑えるのがこのステージの鍵だね!)』
『優勝目指して、ファイトじゃー!』
フェスを盛り上げるすりみ連合の実況の声がスピーカーから響く中、LACT-450を手にしたデニムキャップは、「辛い」チームの赤いインクを纏い、チョウザメ造船の上空のスポナーから身体を出した。
彼女はバンカラ地方にバトルステージが設置され始めた頃からバトルを始めた者であり、イカタコ達の中では比較的新参に当たる部類だ。それでも僅か数ヶ月でウデマエSにまで到達することができるほどには成長していたし、スポナーから出れば真っ先に、敵味方のブキ編成を確認するのはもはや当たり前の習慣となっていた。
(味方は……黒ザップ、ボールド、スプロラか。短射程ばかりなのが少々不安だけど……)
味方の編成を把握したデニムキャップは、次に敵の編成に目を向ける。
(うわ、リッターがいる……って、ちょっと待って。あれって……)
敵も、味方も、観客席も、全てがざわめきに包まれる。瞬きをして、敵のスポナーと、モニターに掲げられたネームプレートを二度見、いや、三度見する。
間違いない。彼はS4の――スカル。
ハイカラシティ、ハイカラスクエアに続き、バンカラ街でもS+上位帯の熟練者としてその名を知られるS4。デニムキャップも、その名前だけは何度も耳にしたことがあった。しかし、まさか自分がその内の一人、しかも最強格と言われている者とマッチングするとは、夢にも思っていなかったのだ。
しかも敵の残り3人の編成は、シャープマーカー、ラピッドブラスター、ジムワイパー。射程有利が一人しかいない。編成事故もいいところだ。
手が、膝が、震えている。S+昇格戦で既に3連敗を味わっている自分に、こんなの勝てるはずがない。――いや、そう思うのはまだ早い。敵の編成はこちらに比べて塗りの弱いブキばかりだ。勝ち目は十分にあるだろう。そう自分に言い聞かせ、(名前)はスポナーに潜る。
『レディー……ゴー!!』
スポナーからは出来る限り手前に降りる。圧倒的な塗り性能と射程無限のスペシャルであるマルチミサイルを併せ持つラクトは、自陣塗り役には持ってこいのブキであり、デニムキャップがラクトを持つ時は、必ず初動で自陣塗りを行っていた。 程々に塗れたところでマルチミサイルを放ち、前線で戦う味方の元へと駆けていく。
その時、空気を震わす銃声が遠くで響いた。そしてモニター上のイカランプに、ひとつ、ふたつとバツが付く。
『おっと、ここで辛いチーム、二人一気にリッターに抜かれた!』
『流石はS4最強と名高いスカル選手! 圧倒的なエイム力じゃの!』
……恐れていた事態が早速起こった。やはりこの短射程ばかりの編成で、スカルには敵わないのか。初動で二人も落とされてしまってはこちらは圧倒的に不利になる。どうにか高台の手前側だけは死守しなければと、引き撃ちで足元を塗りながら周囲の状況を伺う。しかし敵の前衛は既にデニムキャップを取り囲んでいる状況であった。カーリングボムで退路を取りつつも、どうにか抵抗しようとひたすらに周囲を塗り返していた、その時だった。
――バキュン!
突然、鋭いインクショットがデニムキャップの身体を貫く。……リッターだ。為す術なくリスポーンへと飛ばされていくデニムキャップが見た光景、それは、手前側の高台に堂々と立ちはだかり、表情ひとつ変えず、ただ次の獲物を狙うスカルの姿だった。
状況は圧倒的に不利だった。手前の高台を取られてしまっては、自陣側の段差ですら、
『甘いチーム、圧倒的リード! このまま押し切るのじゃー!』
『勝負は最後まで分からへんで! 辛いチームの底力、見しておくれやす!』
……残り1分。だがデニムキャップは諦めていなかった。敵の追撃を振り払い、障害物に隠れながらひたすらに右のルートを塗ってゆく。そして敵の4人を捉えてマルチミサイルを放つ。スカルが高台から降り、前線が崩れ始めた。その好機を見逃さなかったのか、味方たちは一気に反撃を始める。だが敵も強い。降り注ぐマルチミサイルの雨と互いのインクが交錯する激しい戦いの末、イカランプには六つのバツが付いた。
『残るは辛いチームのデニムキャップ選手と……』
『甘いチームのスカル選手!』
『エイ……ッ!(両チーム残り一名、ここからどう出る!?)』
(私とスカルの、一騎打ち――ここでキルを取れれば、逆転のチャンスがある。だから、やるしかない!)
マルチミサイルが捉えていたスカルの姿を追って、デニムキャップはステージの中央へと飛び込んだ。右からカーリングボムを投げ、左からメインの塗りで袋小路へと追い込んでゆく。だが、あと一歩でこちらの射程内、という所で突如、地面がインクの爆発を起こす。
『おっとこれは……トラップやで!』
『トラップを踏んだ相手は、半チャージでも仕留められるんじゃ! タダでやられる訳にはいかない、スカル選手の意地を感じるの!』
『それでもデニムキャップ選手、距離を詰めていく! 諦めの色は、まだ見えてへんで!』
トラップによるダメージとマーキング。それを喰らってもらなお、デニムキャップの瞳には燃えるような闘志が宿っていた。
(絶対に、絶対に、諦めない)
スカルがリッターを構え、チャージを始める。そしてデニムキャップもまた、弓を引き絞る。三本の矢を全て命中させれば、こちらの勝ちだ。
(私……勝ちたい!!)
チャージキープでインクに潜り、射線をかわすように動きながら近付き、そしてインクから飛び出して、デニムキャップはスカル目がけてインクの矢を放った。
――バシュン!
二つの射撃音が重なり、デニムキャップの身体を紫色のインクが貫く感覚が突き刺さる。
『エ、エイ……!(こ、これは……両チーム、ワイプアウト!)』
『ということは……』
『スカル選手とデニムキャップ選手、なんと相打ちじゃー!!』
弾け飛ぶ身体から手放したラクトが落ちていく。その先には、互いのインク跡がくっきりと残されていたのだった。