Chapter4 - Control Your Own Zone
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カウントが進んでいく。現在はパープルチームの方が優勢だ。だがマゼンタチームも決して弱くはない。隙あらば様々なルートからエリアへと侵入し、射程で圧をかける、裏取りで人数差を作る、スペシャルで前線を押し上げる、などとありとあらゆる方法で抵抗し、何度もエリアを争奪して来る。
「……そこだ」
スライドで軽快に射線を躱しながら接近を試みるケルビンを見つけ、スライドの硬直の隙を突いて撃ち抜く。いつも通り、射程内に入った者に狙いを定め、撃ち抜いていけば良い。……だが、それだけでは危うい、ということを、スカルは微かに感じていた。
(マゼンタチーム……思ったより、カウントの進みが大きいな。このままでは、こちらが不利になりかねない)
何しろ、スカル以外の3人は、塗りと機動力こそ優れているものの、射程ではかなり不利なのだ。マゼンタチーム はLACT-450、スプラスピナー、ケルビン525と、やや長めの射程に加えて影響力の強いスペシャルを持ったブキが多い。その射程を強引に押し付けられて前衛がやられるか、あるいはスペシャルで強引に動かされて、エリアを奪還される。その頻度が、スカルの想像を遥かに上回っていた。
そして、その予感は的中した。エリアから手前に出て奇襲を狙うタレサンにスピナーの流れ弾が偶然命中したのを皮切りに、前線の陣形は崩れ始めた。そして、何度目かのマルチミサイルをスカルが避けようと動いた隙にマゼンタチームはエリアを奪還した。そのままチドリとエイズリーも立て続けにデス。パープルチームはスカルを残して3落ちとなった。
(仕方ない、一度退くか)
スカルの足下にカーリングボムが滑り込んでくる。それと同時にインク跡からデニムキャップが姿を現す。スカルを見据える、真っ直ぐな瞳。彼の脳裏に焼きついて離れない、初めて出会ったあの日と同じ彼女の姿。その射撃をすんでのところで躱して、スーパージャンプで自陣へと戻る。
『さあ、ここでマゼンタチームがカウントリードや!』
『時間も残り少ないぞー! パープルチーム、実力を見せつけるのじゃー!』
スカルが不在となった隙に、パープルチームはカウントリードを譲ることになってしまったが、逆転の余地は十分にある。インクリングの本能ともいえる闘争心が、スカルを、パープルチームを、そしてこの場にいる全ての者を駆り立てる。
エリアを見渡せる高台にスカルが戻ってくる頃には、エリア内は互いのスペシャルのぶつかり合いとなっていた。チドリとエイズリー、そしてサニーとグレープによる、ウルトラハンコとナイスダマ同士の壮絶な応酬とエリアの奪い合いが始まる。スカルもスコープ越しにエリア内の敵を追うが、ナイスダマに視界を遮られそう簡単には標的を定められない。そしてハンコの投擲を避けようとスカルがその場を離れた隙に、マゼンタチームは再びエリアを奪還する。
「スカル! このままじゃ……!」
慌てたようなチドリの声が、スカルの元に届く。高台に戻って見れば、マルチミサイルを起点に、マゼンタチームが一気に前線を押し上げようとしていた。
「そうはさせるかっ!」
咄嗟に動き出したのはタレサンだ。スカルの横でカニタンクを発動し、エリアを越えて攻め入ってきたサニーとグレープを瞬く間に返り討ちにする。
「よし、このままエリアを塗り返して……」
タレサンの機転によって、再びパープルチームが優勢になるかと思われた、その時だった。
「……っ!?」
「タレサン!?」
スカルの真横で、突如としてカニタンクの射撃音が途切れ、壊れた装甲がインクの海に沈んでいく。
(……まさか、背後を取られたか!? だとしたら……)
スカルは周囲を警戒する。敵が裏取りに来る方向を想定しながら、トラップを置き逃げようとした、その時だった。
「とりゃああーーっ!!」
聞き慣れた声と同時に、スカルの眼前に、フルチャージで光るブキを構えたガールが姿を表す。
(デニムキャップ……!)
スカルがブキを構える間もなく、真っ直ぐにスカルに向けられた発射口から、インクの矢が放たれる。
(そうか、チャージキープで壁を登って……!)
三本の矢が、スカルの胸元を貫く。デニムキャップの色のインクが、瞬く間に身体を満たして、弾け飛んでゆく。
(デニムキャップ。お前はここまで、強くなれたんだな……)
意識だけがリスポーンへと飛んでゆく中で、試合終了の笛の音が鳴り響いた。悔しさは、不思議と感じられなかった。
『……試合終了ーーっ!』
『エイッ!(結果は……パープルチーム88カウント、マゼンタチーム91カウント!)』
『マゼンタチームの勝利じゃー!!』
歓声が沸き起こると同時にリスポーンへと戻ってきたスカルは、遠くからデニムキャップの方を眺める。バトル中のあの眼差しは何処へやら、スカルに止めを刺したその場所から動かないまま呆然と立ち尽くしていた彼女は、やがて何が起きたのか理解できないといった表情で辺りを見渡し始める。そこへマゼンタチームのメンバーが嬉しそうに駆け寄って来て、一言二言話しかけられた彼女は漸く嬉しそうな表情を見せた。
そして、彼女はそのまま、満面の笑みで大きく手を振りながら、こちらに向かって駆け出す。遠くて声は聞こえない。だが、口の動きは見ることができる。
(『す』『か』『る』『く』『ん』……)
その言葉を読み取った時、何かに惹かれるように、強い衝動がスカルの身体を前へ前へと導いた。顔は熱くなり、心拍数は上昇し、きゅう、と胸の奥がほんの少し苦しくなるような感覚にも関わらず、心はただ一つの目的地へと向かって進みたがる。
インクの跡を辿りながら、スカルは胸の内から湧き起こる熱い想いが指し示す先――デニムキャップの元へとやってくる。
「……良くやったな、デニムキャップ」
「うん!……ありがとう、スカルくん!」
彼女のその笑顔を前にして、スカルの胸の内に宿る熱は更に加速を始めた。既にデニムキャップは目の前にいる。けれど、それでは足りない。
もっともっと、進みたい。
もっともっと、近づきたい。
心の奥底に秘められた感情が、そう叫んでいる。
(ああ、やっと分かった)
湧き上がる衝動をぐっと堪えながら、スカルは考える。
(オレが本当に求めていたのは、デニムキャップとのバトルだけではない)
インクに反射する陽の光が、やけに眩しく感じられる。
(本当に見たかったのは、デニムキャップが勝利を叶えた先にある、その笑顔だったんだ)
スカルに追いつきたい。その願いを叶えたデニムキャップの姿もまた、眩しく輝いて見える。
(オレは――デニムキャップのことが好きだ)
スカルは胸に手を当て、胸に宿る熱の意味を、名前を、確かに噛み締める。
「……やっと、気付いたみたいだね」
何処か遠くで、タレサンがそう言っているのが聞こえたような気がした。
「……そこだ」
スライドで軽快に射線を躱しながら接近を試みるケルビンを見つけ、スライドの硬直の隙を突いて撃ち抜く。いつも通り、射程内に入った者に狙いを定め、撃ち抜いていけば良い。……だが、それだけでは危うい、ということを、スカルは微かに感じていた。
(マゼンタチーム……思ったより、カウントの進みが大きいな。このままでは、こちらが不利になりかねない)
何しろ、スカル以外の3人は、塗りと機動力こそ優れているものの、射程ではかなり不利なのだ。マゼンタチーム はLACT-450、スプラスピナー、ケルビン525と、やや長めの射程に加えて影響力の強いスペシャルを持ったブキが多い。その射程を強引に押し付けられて前衛がやられるか、あるいはスペシャルで強引に動かされて、エリアを奪還される。その頻度が、スカルの想像を遥かに上回っていた。
そして、その予感は的中した。エリアから手前に出て奇襲を狙うタレサンにスピナーの流れ弾が偶然命中したのを皮切りに、前線の陣形は崩れ始めた。そして、何度目かのマルチミサイルをスカルが避けようと動いた隙にマゼンタチームはエリアを奪還した。そのままチドリとエイズリーも立て続けにデス。パープルチームはスカルを残して3落ちとなった。
(仕方ない、一度退くか)
スカルの足下にカーリングボムが滑り込んでくる。それと同時にインク跡からデニムキャップが姿を現す。スカルを見据える、真っ直ぐな瞳。彼の脳裏に焼きついて離れない、初めて出会ったあの日と同じ彼女の姿。その射撃をすんでのところで躱して、スーパージャンプで自陣へと戻る。
『さあ、ここでマゼンタチームがカウントリードや!』
『時間も残り少ないぞー! パープルチーム、実力を見せつけるのじゃー!』
スカルが不在となった隙に、パープルチームはカウントリードを譲ることになってしまったが、逆転の余地は十分にある。インクリングの本能ともいえる闘争心が、スカルを、パープルチームを、そしてこの場にいる全ての者を駆り立てる。
エリアを見渡せる高台にスカルが戻ってくる頃には、エリア内は互いのスペシャルのぶつかり合いとなっていた。チドリとエイズリー、そしてサニーとグレープによる、ウルトラハンコとナイスダマ同士の壮絶な応酬とエリアの奪い合いが始まる。スカルもスコープ越しにエリア内の敵を追うが、ナイスダマに視界を遮られそう簡単には標的を定められない。そしてハンコの投擲を避けようとスカルがその場を離れた隙に、マゼンタチームは再びエリアを奪還する。
「スカル! このままじゃ……!」
慌てたようなチドリの声が、スカルの元に届く。高台に戻って見れば、マルチミサイルを起点に、マゼンタチームが一気に前線を押し上げようとしていた。
「そうはさせるかっ!」
咄嗟に動き出したのはタレサンだ。スカルの横でカニタンクを発動し、エリアを越えて攻め入ってきたサニーとグレープを瞬く間に返り討ちにする。
「よし、このままエリアを塗り返して……」
タレサンの機転によって、再びパープルチームが優勢になるかと思われた、その時だった。
「……っ!?」
「タレサン!?」
スカルの真横で、突如としてカニタンクの射撃音が途切れ、壊れた装甲がインクの海に沈んでいく。
(……まさか、背後を取られたか!? だとしたら……)
スカルは周囲を警戒する。敵が裏取りに来る方向を想定しながら、トラップを置き逃げようとした、その時だった。
「とりゃああーーっ!!」
聞き慣れた声と同時に、スカルの眼前に、フルチャージで光るブキを構えたガールが姿を表す。
(デニムキャップ……!)
スカルがブキを構える間もなく、真っ直ぐにスカルに向けられた発射口から、インクの矢が放たれる。
(そうか、チャージキープで壁を登って……!)
三本の矢が、スカルの胸元を貫く。デニムキャップの色のインクが、瞬く間に身体を満たして、弾け飛んでゆく。
(デニムキャップ。お前はここまで、強くなれたんだな……)
意識だけがリスポーンへと飛んでゆく中で、試合終了の笛の音が鳴り響いた。悔しさは、不思議と感じられなかった。
『……試合終了ーーっ!』
『エイッ!(結果は……パープルチーム88カウント、マゼンタチーム91カウント!)』
『マゼンタチームの勝利じゃー!!』
歓声が沸き起こると同時にリスポーンへと戻ってきたスカルは、遠くからデニムキャップの方を眺める。バトル中のあの眼差しは何処へやら、スカルに止めを刺したその場所から動かないまま呆然と立ち尽くしていた彼女は、やがて何が起きたのか理解できないといった表情で辺りを見渡し始める。そこへマゼンタチームのメンバーが嬉しそうに駆け寄って来て、一言二言話しかけられた彼女は漸く嬉しそうな表情を見せた。
そして、彼女はそのまま、満面の笑みで大きく手を振りながら、こちらに向かって駆け出す。遠くて声は聞こえない。だが、口の動きは見ることができる。
(『す』『か』『る』『く』『ん』……)
その言葉を読み取った時、何かに惹かれるように、強い衝動がスカルの身体を前へ前へと導いた。顔は熱くなり、心拍数は上昇し、きゅう、と胸の奥がほんの少し苦しくなるような感覚にも関わらず、心はただ一つの目的地へと向かって進みたがる。
インクの跡を辿りながら、スカルは胸の内から湧き起こる熱い想いが指し示す先――デニムキャップの元へとやってくる。
「……良くやったな、デニムキャップ」
「うん!……ありがとう、スカルくん!」
彼女のその笑顔を前にして、スカルの胸の内に宿る熱は更に加速を始めた。既にデニムキャップは目の前にいる。けれど、それでは足りない。
もっともっと、進みたい。
もっともっと、近づきたい。
心の奥底に秘められた感情が、そう叫んでいる。
(ああ、やっと分かった)
湧き上がる衝動をぐっと堪えながら、スカルは考える。
(オレが本当に求めていたのは、デニムキャップとのバトルだけではない)
インクに反射する陽の光が、やけに眩しく感じられる。
(本当に見たかったのは、デニムキャップが勝利を叶えた先にある、その笑顔だったんだ)
スカルに追いつきたい。その願いを叶えたデニムキャップの姿もまた、眩しく輝いて見える。
(オレは――デニムキャップのことが好きだ)
スカルは胸に手を当て、胸に宿る熱の意味を、名前を、確かに噛み締める。
「……やっと、気付いたみたいだね」
何処か遠くで、タレサンがそう言っているのが聞こえたような気がした。