Chapter4 - Control Your Own Zone
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『さあさあお立ち会い! お次は注目の一戦! S4最強のスカル選手率いるパープルチームと……』
『S+50の強豪にも打ち勝つほどの実力者、グレープ率いるマゼンタチームによる、ガチエリアの対決じゃー!』
スポナーにぶら下がり、上空からスメーシーワールドの風景を見下ろしながら、スカルはデニムキャップのことを考えていた。
――『スカルくんに追いつけるように、精一杯、頑張る』
そう告げた彼女の瞳は真っ直ぐで、透き通っていた。
敵の姿をその目に捉え、狙い撃つ時。絶対に負けたくないと、闘志を燃やす時。彼女が見せるその真っ直ぐな瞳を見れば、スカル自身も自然と高揚を感じる。そして、それと同時に、ほんの少しの苦しさのようなものも感じるのだ。胸の中を熱く満たしていく高揚と、心の奥底からもっと何かを求めたがる、何かが満たされないという苦しさ。デニムキャップを目にすると沸き起こる二つの矛盾した感情を、一体どこに仕舞っておけば良いのか、スカルには答えを出す術は無かった。
「スカル、またデニムキャップのこと見てるね。よっぽど彼女のことが気になるのかい」
「!? ……タレサン、何だ急に」
取り乱したスカルは、思わず手を滑らせそうになってしまう。
これはデニムキャップの特訓のための試合なのだから、デニムキャップのことを気にしていても特段おかしなことでは無い。だが、スカルにとっては、箱に閉じ込めていた、触れられたくない秘密を覗かれてしまったような気分だった。
「……そんなことより、もう試合が始まる。言っておくが、手加減は一切無しだ」
「うん、分かってるよ」
『レディー……ゴー!!』
両チームがスポナーから飛び出す。スカルは左の高台へ向かい、残りの3人が左右のルートからエリアの確保を目指す、いつも通りの陣形だ。
(さて、敵はどちらから来るか……)
エリアを広く見渡せる位置から、敵がエリアに向かうルートを確認して、高台の手前の端へと向かう。この位置なら、右側からエリアに入ってくる敵に射線が届く。
(……やはり、右から塗りに来たか)
いち早くエリアに到達し、素早く塗りを広げていくデニムキャップの姿を確認して、スコープ越しに彼女の姿を捉えながらチャージを開始する。
「……遅い」
照準を定め、トリガーを引き、デニムキャップを撃ち抜く。その後ろからやってくる敵も撃ち抜いて、難なくパープルチームがエリアを確保した。だが、マゼンタチームも引き下がらない。エリアから更に敵陣側へと塗りを広げようと進出するタレサン達をスプラッシュシールドで阻止し、さらにスカルの陣取る高台へとナイスダマを飛ばして来る。ナイスダマを避け、位置取りを変えようと動き出せば、サニーがその隙を突いてエリアを取り返し、前線を押し上げようと動き出す。
(さて、次はどこを抑えておけば良いだろうか)
スメーシーワールドはステージの構造上、長射程ブキがエリア全体を抑えつつ安全に居座れるポジションが無い。常に敵の侵入方向を意識し、それに合わせて自身の位置取りも変えていかなければ勝ち目は無い。
(デニムキャップは……左から来るようだな)
塗り状況で戦況を把握しながら、エリアに接近して敵の侵攻ルートを抑えていく。だがその時、マルチミサイルの予告円がスカルを囲んでいることに気付く。
(デニムキャップ……焦らずスペシャルを溜めて打開しに来たか……やるな)
マルチミサイルから逃れようと後方に退いている間に、前線にいたチドリとエイズリーがやられ、マゼンタチームがエリアを奪還する。そのまま前線を上げる好機と見たのか、デニムキャップはカーリングボムを投げ、更にこちらに接近してくる。
――胸が高鳴る。デニムキャップとのバトルで何度も感じた、高揚する想いに心の内を支配される。
(オレに攻撃を仕掛ける気だな。……良いだろう、かかって来い。だが、こちらもS4という肩書きを背負っている以上、そう簡単にやられる訳にはいかない)
波のように不安定に揺らぐ心を、最強の狙撃手としてのプライドが繋ぎ止める。デニムキャップの全力を見せて欲しい、デニムキャップの前だからこそ負けたくない。相反するふたつの想いを込めるようにチャージして、スコープで彼女の姿を探す。
「そこだ!」
「……!」
障害物の影からチャージキープで飛び出してきたデニムキャップの姿をスコープ越しに見つけて、瞬時にトリガーを引く。頭上からインクを浴びると同時に、眼前で紫色のインクが弾け飛ぶ。……そこにもうデニムキャップの姿は無かったが、スカルは辛うじて姿を保っていた。……どうやらデニムキャップが放った3本の矢のうち1本は外れたらしい。
「なかなかやるな。……その調子だ」
インクを補給してから、スカルは再び壁に登り、エリアを見渡せる位置でリッターを構える。
「さあ……オレをもっと楽しませてみせろ」