Chapter3 - Drowning in Pure White
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(こっちの残りはスカルくん一人……助けないと!)
デニムキャップはリスポーンに戻るなり、すぐさまスーパージャンプでスカルの元へと向かう。ステルスジャンプを付けているから、ここで前線に戻ってキルを取り、敵の進出を食い止めなければならない。そう焦る気持ちがデニムキャップの足を駆り立て、着地するのを待つ間にも、彼女の意識は前へ前へと飛び出していこうとする。
「スカルくん! 今行く……」
「――待て、出るな」
着地と同時に前へ向かおうとしたデニムキャップの腕をスカルが掴んで、ぐいと手前に引く。
「お前は不利な状況に、一人で対処しようとしがちだ。……だが、打開は一人ではできない。焦らずに安全な場所でスペシャルを溜めて、オレと、味方と、足並みを揃えて行け」
「……!」
はっと目を見開いて、一歩後ずさりしながら、デニムキャップは思い出す。これまで幾度も重ねてきた、昇格戦での敗北の数々。敵のカウントが進んでいくのを、ただ眺めていることしか出来なかった試合。敵の動きを止めたくて、止められなくて、カウントリードを許してしまった悔しさに涙を零したあの時。思い返せば全て、「自分一人で対処しようとしていた」……のではないか。ホコを止めたい。ヤグラに乗りたい。目の前の敵をキルしたい。その意識ばかりが先走ってしまって、いつも負けに繋がっていたのではないか。
(……信じよう。仲間を、スカルくんを)
デニムキャップは後方へと退きながら、徐々にスペシャルを溜めていく。スカルもまた、敵の射程の外へと下がりつつ、射線を向けて敵を牽制する。
『エイ!(ホワイト陣営、ここは落ち着いて打開のチャンスを伺っているようだね!)』
『せやけど、ビター陣営も引き下がってはいられへんで!』
あと少しでデニムキャップのスペシャルが溜まる、という頃、スカルの周囲は徐々に敵インクに囲まれつつあった。
「スカルエリアを破るなど、容易いことだ」
タンサンボムを構えたヴィンテージが、素早く射線を躱しながら徐々にスカルに接近する。
「こんな所でお前と対決することになったからには……存分に楽しませてもらう」
そう言ってヴィンテージがタンサンボムを投げ、スカルはそれを避けようと段差の後方へ降りる。だが既に辺りは敵インクに囲まれている状況だ。このまま足元を取られてしまえば――
「危ないっ!」
デニムキャップが咄嗟に、スカル目がけてカーリングボムを投げる。一直線に伸びた塗り跡を辿るようにスカルが後方に逃げ、クーゲルシュライバーの弾幕を間一髪で躱す。
「……逃げ道を作ってくれたのか。有難い」
安全な高台の上にいるデニムキャップのところまでスーパージャンプで戻りながら、スカルがそう告げる。マスクに隠されて殆ど見えないが、デニムキャップにはその頬がほんの少しだけ紅く染まっているように見えた。
「さっきのカーリングボムでスペシャル溜まったし、私は準備できてるよ」
「オレも他の味方もスペシャルは溜まっている。準備は万全だ。……行くぞ」
「よし、反撃だ!」
マルチミサイルにホップソナー、味方全員のスペシャルを合わせて、一気に前線を押し上げてゆく。
「ヴィンテージくん……そこにいるのね。丸見えだよ!」
マルチミサイルでロックオンしたヴィンテージの動きを追いながら、デニムキャップは徐々に距離を詰めていく。
「……その程度で、怯ませられると思っているのか」
ヴィンテージは表情ひとつ変えずに、ミサイルもホップソナーのウェーブも器用に躱して距離を取ると、クーゲルシュライバーのチャージを始める。
(しまった! クーゲルは射程不利、メインだけではとても勝てる相手ではない……!)
発射口がデニムキャップに向けられ、絶体絶命かと思われたその時。
――バキュン、と重い射撃音が背後から響く。
心臓を震わすようにその音が空気を貫いて、目の前で白いインクが弾ける。
「……チッ、スカルか」
ヴィンテージがいた場所は、一瞬にして白いインク溜まりと化した。デニムキャップが後ろを振り向けば、橋の上で微動だにせず、リッターを構えるスカルの姿がそこにあった。
「助けて……くれたの?」
スカルはその声には反応せず、ただその場で一人、また一人と敵を撃ち抜いていく。
『おおっと! ビター陣営は残り一人じゃ!このままスカルエリアに誰も近付くことはできないのかー!?』
(残り一人……あと一人仕留められれば、ワイプアイトだ!)
その時、スカルのホップソナーに触れた敵がマーキングされていることにデニムキャップが気付いた。
「……そこだ!」
カーリングボムを投げて追いかけながら、マーキングの方向を執拗に追いかけていく。塗りで逃げ場を奪い、味方がとどめを刺すと共に、ワイプアウトを知らせる音が響く。
「やったね! ナイス!」
「……ナイスだ」
スカルからの「ナイス」で、デニムキャップの戦意はさらに高揚する。スカルの手前、決して負ける訳にはいかない。目を光らせながら、デニムキャップは辺りを白へと染めてゆく。
『さあ、ビター陣営も反撃の準備を整えてきたで!』
『残り時間もあと少し! 前線での激しいぶつかり合いじゃー!』
互いのインクが、ボムが、雨あられの如く激しく降り注いで、一進一退の攻防が続いた。
『残り10秒! 9、8……』
相手も相当な実力の持ち主なのだろう。そう簡単にスカルに撃ち抜かれることを許すような動きはしない。あの手この手で対抗しながら、スカルエリアの突破を試みてくる。
『7、6、5、4……』
だが、こちらの武器も、スカルエリアだけでは無い。
『3、2、1……』
デニムキャップのスペシャルが溜まった。急いでマルチミサイルを放ち、カーリングボムを投げ、敵陣へと走りながらただひたすらに塗りを残す。
『試合終了ー!!』
笛の音と同時にマルチミサイルが着弾し、カーリングボムが爆発し、地面が激しく揺れた。
「結果は……?」
その場にいる誰もが固唾を呑んで、モニターを見守る。映し出された上空からの映像は、ステージの中央で互いの塗りが拮抗しており、どちらの勝ちなのかは分からない。
「…………」
『さあ、ジャッジくん、判定なのじゃー!』
静まり返った会場にスピーカー越しの実況の声だけが反響して、緊張感が高まる。
「…………に゛っ!(ホワイト陣営、0.3%差で勝利!)」
「わあぁーーっ!!!!」
360度、見渡す限りのあちらこちらから歓声が沸き起こる。
『な、なんやてーー!?』
『エイ!(ホワイト陣営のみんな、本当におめでとう! 手に汗握る、熱い戦いだったよ!)』
鳴り止まない拍手と歓声の中、デニムキャップはスカルの元へと駆けつける。
「スカルくーーん! やったよ、私たち、333倍マッチ、勝てたんだよ!」
気付けば野良の味方たちも、そこに集まって来ていた。彼らとハイタッチを交わして、互いに勝利を称え合う。デニムキャップがスカルともハイタッチをしようと手を伸ばせば、彼は「フッ」と静かに声を零して、ハイタッチに応じた。
「スカル。……更に強くなったんだな、お前は」
背後から誰かの声と靴音が近付いてくる。振り向けば、そこにはヴィンテージが歩み寄って来ていた。
「それに、そこのラクトもだ」
「えっ、私?」
「ああ。Sとは思えない勇敢さと、スカルとの見事な連携。……実に面白い試合だった」
「そ、そんな……」
デニムキャップが照れていると、スカルはムッとして言い返す。
「そんな事はもう知っている。オレが彼女の強みを見出したから、今こうして共に参加しているのだ」
途端、ヴィンテージは少し呆れたようにため息をつく。
「何だスカル、何故そんな所で張り合う? お前はもしかして……いや、今はそんな事はどうでもいい」
ひとつ咳払いをして、再び腕を組んで堂々と立ちはだかったヴィンテージが告げる。
「次にまたお前たちと戦うことがあれば、その時こそ、オレが勝利を手にしてみせよう」
「ああ。オレも勝ちを譲る気などない。……楽しみにしているぞ」
力強く、信念のこもった言葉を互いに交わして、ヴィンテージはスカルの元を去っていった。その背中と、白に染まった床に立つデニムキャップたちに降り注ぐ歓声は、未だ止む気配を見せることはなかった。
「……デニムキャップは、着実に強くなりつつある。そろそろ、『頃合い』なのかもしれないな」
マスクの下で、誰にも聞こえることのない声で、スカルは静かにそう呟いた。
デニムキャップはリスポーンに戻るなり、すぐさまスーパージャンプでスカルの元へと向かう。ステルスジャンプを付けているから、ここで前線に戻ってキルを取り、敵の進出を食い止めなければならない。そう焦る気持ちがデニムキャップの足を駆り立て、着地するのを待つ間にも、彼女の意識は前へ前へと飛び出していこうとする。
「スカルくん! 今行く……」
「――待て、出るな」
着地と同時に前へ向かおうとしたデニムキャップの腕をスカルが掴んで、ぐいと手前に引く。
「お前は不利な状況に、一人で対処しようとしがちだ。……だが、打開は一人ではできない。焦らずに安全な場所でスペシャルを溜めて、オレと、味方と、足並みを揃えて行け」
「……!」
はっと目を見開いて、一歩後ずさりしながら、デニムキャップは思い出す。これまで幾度も重ねてきた、昇格戦での敗北の数々。敵のカウントが進んでいくのを、ただ眺めていることしか出来なかった試合。敵の動きを止めたくて、止められなくて、カウントリードを許してしまった悔しさに涙を零したあの時。思い返せば全て、「自分一人で対処しようとしていた」……のではないか。ホコを止めたい。ヤグラに乗りたい。目の前の敵をキルしたい。その意識ばかりが先走ってしまって、いつも負けに繋がっていたのではないか。
(……信じよう。仲間を、スカルくんを)
デニムキャップは後方へと退きながら、徐々にスペシャルを溜めていく。スカルもまた、敵の射程の外へと下がりつつ、射線を向けて敵を牽制する。
『エイ!(ホワイト陣営、ここは落ち着いて打開のチャンスを伺っているようだね!)』
『せやけど、ビター陣営も引き下がってはいられへんで!』
あと少しでデニムキャップのスペシャルが溜まる、という頃、スカルの周囲は徐々に敵インクに囲まれつつあった。
「スカルエリアを破るなど、容易いことだ」
タンサンボムを構えたヴィンテージが、素早く射線を躱しながら徐々にスカルに接近する。
「こんな所でお前と対決することになったからには……存分に楽しませてもらう」
そう言ってヴィンテージがタンサンボムを投げ、スカルはそれを避けようと段差の後方へ降りる。だが既に辺りは敵インクに囲まれている状況だ。このまま足元を取られてしまえば――
「危ないっ!」
デニムキャップが咄嗟に、スカル目がけてカーリングボムを投げる。一直線に伸びた塗り跡を辿るようにスカルが後方に逃げ、クーゲルシュライバーの弾幕を間一髪で躱す。
「……逃げ道を作ってくれたのか。有難い」
安全な高台の上にいるデニムキャップのところまでスーパージャンプで戻りながら、スカルがそう告げる。マスクに隠されて殆ど見えないが、デニムキャップにはその頬がほんの少しだけ紅く染まっているように見えた。
「さっきのカーリングボムでスペシャル溜まったし、私は準備できてるよ」
「オレも他の味方もスペシャルは溜まっている。準備は万全だ。……行くぞ」
「よし、反撃だ!」
マルチミサイルにホップソナー、味方全員のスペシャルを合わせて、一気に前線を押し上げてゆく。
「ヴィンテージくん……そこにいるのね。丸見えだよ!」
マルチミサイルでロックオンしたヴィンテージの動きを追いながら、デニムキャップは徐々に距離を詰めていく。
「……その程度で、怯ませられると思っているのか」
ヴィンテージは表情ひとつ変えずに、ミサイルもホップソナーのウェーブも器用に躱して距離を取ると、クーゲルシュライバーのチャージを始める。
(しまった! クーゲルは射程不利、メインだけではとても勝てる相手ではない……!)
発射口がデニムキャップに向けられ、絶体絶命かと思われたその時。
――バキュン、と重い射撃音が背後から響く。
心臓を震わすようにその音が空気を貫いて、目の前で白いインクが弾ける。
「……チッ、スカルか」
ヴィンテージがいた場所は、一瞬にして白いインク溜まりと化した。デニムキャップが後ろを振り向けば、橋の上で微動だにせず、リッターを構えるスカルの姿がそこにあった。
「助けて……くれたの?」
スカルはその声には反応せず、ただその場で一人、また一人と敵を撃ち抜いていく。
『おおっと! ビター陣営は残り一人じゃ!このままスカルエリアに誰も近付くことはできないのかー!?』
(残り一人……あと一人仕留められれば、ワイプアイトだ!)
その時、スカルのホップソナーに触れた敵がマーキングされていることにデニムキャップが気付いた。
「……そこだ!」
カーリングボムを投げて追いかけながら、マーキングの方向を執拗に追いかけていく。塗りで逃げ場を奪い、味方がとどめを刺すと共に、ワイプアウトを知らせる音が響く。
「やったね! ナイス!」
「……ナイスだ」
スカルからの「ナイス」で、デニムキャップの戦意はさらに高揚する。スカルの手前、決して負ける訳にはいかない。目を光らせながら、デニムキャップは辺りを白へと染めてゆく。
『さあ、ビター陣営も反撃の準備を整えてきたで!』
『残り時間もあと少し! 前線での激しいぶつかり合いじゃー!』
互いのインクが、ボムが、雨あられの如く激しく降り注いで、一進一退の攻防が続いた。
『残り10秒! 9、8……』
相手も相当な実力の持ち主なのだろう。そう簡単にスカルに撃ち抜かれることを許すような動きはしない。あの手この手で対抗しながら、スカルエリアの突破を試みてくる。
『7、6、5、4……』
だが、こちらの武器も、スカルエリアだけでは無い。
『3、2、1……』
デニムキャップのスペシャルが溜まった。急いでマルチミサイルを放ち、カーリングボムを投げ、敵陣へと走りながらただひたすらに塗りを残す。
『試合終了ー!!』
笛の音と同時にマルチミサイルが着弾し、カーリングボムが爆発し、地面が激しく揺れた。
「結果は……?」
その場にいる誰もが固唾を呑んで、モニターを見守る。映し出された上空からの映像は、ステージの中央で互いの塗りが拮抗しており、どちらの勝ちなのかは分からない。
「…………」
『さあ、ジャッジくん、判定なのじゃー!』
静まり返った会場にスピーカー越しの実況の声だけが反響して、緊張感が高まる。
「…………に゛っ!(ホワイト陣営、0.3%差で勝利!)」
「わあぁーーっ!!!!」
360度、見渡す限りのあちらこちらから歓声が沸き起こる。
『な、なんやてーー!?』
『エイ!(ホワイト陣営のみんな、本当におめでとう! 手に汗握る、熱い戦いだったよ!)』
鳴り止まない拍手と歓声の中、デニムキャップはスカルの元へと駆けつける。
「スカルくーーん! やったよ、私たち、333倍マッチ、勝てたんだよ!」
気付けば野良の味方たちも、そこに集まって来ていた。彼らとハイタッチを交わして、互いに勝利を称え合う。デニムキャップがスカルともハイタッチをしようと手を伸ばせば、彼は「フッ」と静かに声を零して、ハイタッチに応じた。
「スカル。……更に強くなったんだな、お前は」
背後から誰かの声と靴音が近付いてくる。振り向けば、そこにはヴィンテージが歩み寄って来ていた。
「それに、そこのラクトもだ」
「えっ、私?」
「ああ。Sとは思えない勇敢さと、スカルとの見事な連携。……実に面白い試合だった」
「そ、そんな……」
デニムキャップが照れていると、スカルはムッとして言い返す。
「そんな事はもう知っている。オレが彼女の強みを見出したから、今こうして共に参加しているのだ」
途端、ヴィンテージは少し呆れたようにため息をつく。
「何だスカル、何故そんな所で張り合う? お前はもしかして……いや、今はそんな事はどうでもいい」
ひとつ咳払いをして、再び腕を組んで堂々と立ちはだかったヴィンテージが告げる。
「次にまたお前たちと戦うことがあれば、その時こそ、オレが勝利を手にしてみせよう」
「ああ。オレも勝ちを譲る気などない。……楽しみにしているぞ」
力強く、信念のこもった言葉を互いに交わして、ヴィンテージはスカルの元を去っていった。その背中と、白に染まった床に立つデニムキャップたちに降り注ぐ歓声は、未だ止む気配を見せることはなかった。
「……デニムキャップは、着実に強くなりつつある。そろそろ、『頃合い』なのかもしれないな」
マスクの下で、誰にも聞こえることのない声で、スカルは静かにそう呟いた。