Chapter3 - Drowning in Pure White
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『さあさあお立ち会い! お次はホワイト陣営対ビター陣営、ステージはゴンズイ地区やで!』
フェスもいよいよ最終盤に差し掛かろうかという頃、これで最後の試合にしようと、デニムキャップとスカルはオープンのフェスマッチに参加していた。
『今回はどちらが……おおっと、これは何じゃ!?』
スポナーから両陣営が姿を表す直前、モニターの映像に稲妻が走る。10倍マッチか、とデニムキャップは気が付いて、スポナーに身を潜めたまま、負けられないな、と意気込む。だが程なくして、10倍マッチとは様子が異なることに気付く。
『エイ……(も、もしやこれは……)』
次の瞬間、派手な効果音と共に、モニターに「333倍マッチ」の文字が現れる。
『な、なんと! 333倍マッチじゃー!!』
両陣営の参加者が、観客が、一気にどよめきに包まれる。
『これは絶対に負けられない戦いや! ビター陣営の皆、きばっておくれやす!』
『エイ!(ホワイト陣営も、負ける訳にはいかないね!)』
ざわめきは収まらないまま、両陣営の顔合わせとなる。スポナーから姿を出し、それぞれの編成を確認する――その瞬間、会場のざわめきは、さらに大きな歓声と化した。
『な、なんとこれは!』
『ビター陣営には、あのXブラッドのヴィンテージ選手が参加しとるで!!』
(嘘、Xブラッドって……ウデマエXが廃止された今も、S+50の強豪として知られている……!)
デニムキャップの顔からはビター陣営のインクの色にでも染まろうかという程に血の気が引いていき、ブキを握る手は震え始める。
(よりによって、333倍マッチなのに、こんなの勝てる訳ない……!)
目の前の現実から目を背けるように、ぎゅっと目をつぶって、下を向く。
「――恐れるな、デニムキャップ」
隣からスカルの声がして、デニムキャップははっと顔を上げる。
「良い連携だったと、言ったのはお前だろう。戦うのはお前だけではない。オレと仲間でいることを忘れるな」
「…………!」
見上げるデニムキャップの瞳に、希望の光が宿り始める。
『エイ!(ホワイト陣営には、S4最強のリッター使い、スカル選手も来ているよ!)』
実況の声を聞きながら、デニムキャップは胸を押さえ、深呼吸する。
『ヴィンテージ選手とスカル選手の因縁の対決、勝つのは一体どっちなのじゃー!?』
(そうだ、私には味方がいる、スカルくんがいる。これまで通り、力を合わせれば……!)
雨雲が晴れ、光が射し込むように、デニムキャップの不安は解け、その胸には決意の火が灯る。
(必ず……勝ってみせる!)
『レディー……ゴー!!』
スポナーから飛び出して、まずデニムキャップがするのはやはり自陣塗りだ。スカルは作戦通り、野良の味方もデニムキャップが自陣塗りをしたいタイプのラクトであることを察してか、一直線に前線へと進出していく。
『ビター陣営、塗りを広げつつ徐々に進出しとるようやな』
『エイ!(ホワイト陣営は早くも中央の橋を陣取ったようだね!)』
そろそろ前線がぶつかり合うタイミングだろうか、という所で1回マルチミサイルを撃ち、塗りを広げながら徐々に前へと向かっていく。2回目のマルチミサイルを撃ち、手前にいた敵を袋小路へ追い詰めてそのままインクの矢を浴びせ、リスポーンへと送ってから、デニムキャップはようやく前線での戦いに参加し始める。
「お待たせ、スカルくん!」
「自陣塗りが終わったか。敵は俺が撃ち抜く。お前は人数状況を見ながら塗りを広げていけ」
「分かった!」
返事をすると共に、デニムキャップはカーリングボムを投げて敵陣方面へと進出していく。背後でリッターの射撃音が響くと同時に、一つ、また一つとモニター上の敵のイカランプにバツがついていく。
『エイ!(スカル選手、橋の上から二人連続で仕留めたー!)』
『これがスカルエリア!恐ろしい命中率じゃの!』
『ビター陣営、どうにかして突破の糸口を見つけるんや!』
(よし、スカルくんのおかげで人数有利になったし、敵陣を荒らすチャンスだ!)
カーリングボムの跡を辿って敵陣に足を踏み入れたデニムキャップは、そのまま四方八方へとインクを撒き散らし、青紫のインクに染まった地面を眩しい白色へと上書きしていく。
(このまま、荒らしまくってやる……!)
デニムキャップが夢中で塗りたくっていた、その通りだった。
「退け、デニムキャップ!」
「えっ……!?」
遠くから聞こえるスカルの声に反応して、咄嗟に腕を止め、インクに潜る。――だが遅かった。デニムキャップの目の前には、クーゲルシュライバーを手にした影が――ヴィンテージが、立ちはだかっていた。
「そこまでだ」
(…………っ!)
デニムキャップは咄嗟に後方へと退く。だが逃げようとする先には既に、足元を奪おうとするように敵が待ち構えていた。
(しまった、囲まれて……!)
「――散れ」
青紫色のインクの弾幕が、デニムキャップを直撃する。
『エイーッ!(ああっと、ここでデニムキャップ選手、ヴィンテージ選手にやられてしまった!)』
「デニムキャップ!」
スカルの叫び声が遠ざかっていくその間にも、地面は少しずつ青紫色のインクで塗り返されてゆく。デニムキャップのデスを起点としてか、攻勢に転じたビター陣営は勢い止まらず、一人また一人とこちらの味方を追い詰め、ヴィンテージの射撃で仕留めてゆく。