Chapter3 - Drowning in Pure White
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『さあさあお立ち会い! フェスもいよいよ後半戦に突入して、盛り上がってきたで!』
『次のバトルは、三陣営が入り乱れるトリカラバトルじゃー!』
『エイ!(今回のステージはナメロウ金属だよ!)』
迎えたフェスの二日目、デニムキャップとスカルは、共にトリカラバトルに参加していた。今回は中央の防衛チームがミルク陣営。両端の攻撃チームが、ビター陣営とホワイト陣営だ。ホワイト陣営が攻撃チームとなったことで、デニムキャップとスカルは二人きりのチームとなる。
『レディー……ゴー!!』
各々がスポナーから飛び出すと共に、3色のインクが少しづつ、中央へと向けて拡がり始める。
スカルの4KスコープとデニムキャップのLACT-450。どちらもトリカラバトルの攻撃チームでは不利とされているブキだ。チームの人数が少ない攻撃側にとって、塗りの弱いブキや隙の大きいブキを使うことはそれだけで負担を増やすことに繋がるし、マルチミサイルは対岸の攻撃チームを巻き込んでしまう。だが、それでも二人はブキを変えることはせず、最も得意なブキで勝ちにいくことを選んだ。
デニムキャップはいつも通り、1ミリの隙間さえも許すことなく丁寧に自陣を塗っていく。スカルと二人だけのチームで、彼が狙撃に専念できるようにするためにも、塗りの役割は全てデニムキャップが担わなければならない。そして何より、防衛チーム側はすぐにスカルの陣取る高台にまで到達できてしまう。
(スカルくんを守ることができるのは、私一人しかいない。私が全て、サポートしなければいけないんだ)
無意識に下を向く癖がある――前にスカルがそう言っていた。足元だけでなく、もっと遠くまで、視野を広げて意識を研ぎ澄ます。敵の動き、スカルの動き、こちらに近づいてくる者の気配。場の状況を冷静に俯瞰しながら、デニムキャップは着実に塗りを広げていく。
やがてステージ中央にスーパーシグナルが出現した。シグナルを取りに行くのはデニムキャップの役目だ。
「スペシャル溜まったし、準備はOKだよ」
「ああ。行くぞ」
互いに目を合わせ、二人の意思が通じ合うのを確認する。なるべく守備チームが多い方向をロックオンしてマルチミサイルを。そして中央の高台に向けてホップソナーを、同時に発動する。
「スカルくん、左奥だよ!」
「分かった」
マルチミサイルでロックオンした敵をデニムキャップが追い、逃げさせながらホップソナーのウェーブへと触れさせる。そしてミサイルの爆風とウェーブに巻き込まれた敵を、スカルが半チャージで残らず撃ち抜いていく。
「今だ。敵が少ない今のうちに」
「分かった!」
デニムキャップはすぐさま中央へと駆けつけ、スーパーシグナルに触れる。彼女を狙う敵をスカルが撃ち抜き、デニムキャップは見事、一つ目のスーパーシグナルを手にした。
『エイ!(ホワイト陣営、見事な連携でスーパーシグナルを確保してくれたね!)エイッ!(さあ、ボクからのエールも受け取って!)』
「やった! 取ったよ!」
「この調子だな」
そのままホワイト陣営は、勢いに乗りながら二つ目のスーパーシグナルも獲得した。後はひたすらに塗りを広げていき、勝利を掴むだけだ。
「状況からして、守備チームは敗色濃厚だ。もう対岸の攻撃チームに味方する必要も無い。……より高みを狙うぞ」
「分かった!」
より多くの貢献度の獲得を目指すということは、もう一方の攻撃チームを裏切り、敵が6人になるということだ。二人で簡単に相手にできるような人数ではない。だがマトイは二つともこちらの物だ。二人で手に取る勝利を信じて、デニムキャップはあちらこちらへと動きながら、ミルク陣営のインクもビター陣営のインクも、目の敵とばかりに塗り返していく。裏取りでスカルを狙う者がいれば、ヘイトを引き付けて時間を稼ぎながらスカルに撃ち抜いてもらう。そして最後には、5人をロックオンしてマルチミサイルを放つと同時に試合終了の笛が鳴り響いた。
『……に゛っ!(ホワイト陣営の勝利!)』
ジャッジくんがそう告げると同時に、周囲から歓声が湧き上がる。
「やったね、スカルくん! 私たち、良い連携だったんじゃない!?」
ステージ中央を越えて前線を押し上げていたデニムキャップは、満面の笑みで飛び跳ねながら、スカルが陣取っていた高台の方へと戻ってくる。
「ああ、そうだな」
相変わらず最低限の言葉だけの反応だ。もう少し褒めてくれたら、もっと嬉しかったのに、などとデニムキャップは考えてしまう。恋する乙女というものは欲張りだ。ほんの少しの言動にも胸をときめかせ、でもそれでも足りないと、まだまだ近づきたいと、果てない想いの底へと手を伸ばしながら溺れてゆく。
(私は、もっとスカルくんに近付きたいんだ。もっと心を通わせたいんだ。もっと、もっと……)
隣に立って見上げた白インクのスカルは、デニムキャップと同じ色でありながら、何物にも染まっていないかのようにも見えた。
――いつか、心まで彼と同じ色に染まれたら、どれほど嬉しいだろうか。そう考えながら、デニムキャップは白く染まった床の上を歩き帰っていった。