Chapter3 - Drowning in Pure White
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休憩ついでに新しいギアでも見て行こうかと、ロビーから外に出たデニムキャップは、すぐ横のラジオブースの前が何やら騒がしいのに気付いた。人だかりに混ざって、遠くのガラス越しにすりみ連合の姿を確認する。どうやら、次のフェスのお題が発表されるらしい。
何が来るのかという緊張感の中、モニターに映し出されたのは、「ビター」「ミルク」「ホワイト」の文字。どうやらバレンタインにちなんだお題のようであった。ブースの前に密集していたイカタコ達がざわめき始める。ビター派、ミルク派、ホワイト派、あちらこちらでそれぞれの陣営の主張の声が入り乱れていた。
お決まりの「ほな、カイサン!」の掛け声と共にラジオが終わると、集まっていた者たちはそれぞれ思い思いの場所へと散ってゆく。だがデニムキャップはその場に立ち止まったまま、長い間、唸るように考えていた。
(ビターのほろ苦さも癖になるけど、王道のミルクも捨て難い。でもやっぱり、見た目と味で色んな楽しみ方ができるホワイトが一番気になる……)
ぐるぐると巡り巡る三つ巴の思考にどうにか決着をつけようと、目を閉じたまま考えていたデニムキャップだったが、やがてふと思い立ったように顔を上げると、ナマコフォンを取り出して、スカルにメッセージを送る。
『次のフェスのお題、もう見た? スカルくんはどれにしたい?』
程なくして返信が来る。
『オレはどれも好きだから、まだ決めかねている。デニムキャップはもう決めたのか?』
前半は、やはり甘党のスカルらしい、予想通りの内容だった。だが、こちらの投票先まで聞いてくるのは少し意外だった。もしかして私と同じ陣営に入れようとしているのだろうか、なんて淡い期待を抱きながら、返信の文を打つ。
『そうだなぁ、私は今のところホワイトが一番気になってるかな』
そこまで打ってから、送信ボタンに指を伸ばそうとして、画面に触れる直前にふと指を止める。
『もし良かったら、一緒にホワイト派に入れない?』
先程の文にそう付け足して、ほんの少しの間、送信前の文と睨めっこして、結局、全ての文字を消してしまった。
バトルに誘うのは、最初はいつもデニムキャップからだった。だが、ここ最近は、スカルからも誘いが来るようになっていた。もしかしたら、スカルが自分のことを考えてくれていることが増えているのかもしれない。そう考えるだけで、胸の内に淡い熱が灯る。
(スカルくんは、いつも何を考えているのか分からない。だから、もっと知りたい。どんなことを思っているのか。私のことを、どう思っているのか)
自分から誘わなければ、スカルはどの陣営を選ぶのか。それが、「デニムキャップのことをどう思っているのか」に対する答えに繋がるほんの僅かな手がかり、パズルの1ピースになる、とデニムキャップは考えていた。
結局、ホワイト陣営に入れたいと思っている、という内容だけ送信して、ナマコフォンを閉じると、そのまま胸の前で握りしめながら返信を待っていた。
それはほんの一、二分の間にも、とてつもなく長い時間のようにも思えた。やがて通知音が鳴った時、デニムキャップは思わずその場で飛び上がってしまったために、周囲の通行人から怪訝そうな視線を一身に浴びてしまった。
心拍数が上がり始めていた。どのような返信が来ているのだろうか。見るのは怖いような気がして、でも早く確認してしまいたくもあった。もう何が起こってもいい覚悟を決めて、デニムキャップはナマコフォンを開いた。
『なら、オレもホワイト陣営に入れることにする。昇格戦に向けた特訓も兼ねて、一緒にフェスマッチに参加するのはどうだろう』
(――――!!)
湧き上がる嬉しさが、体温を上げていくのを感じた。同じ陣営。一緒に参加。思わずにやけて口角が上がってしまう。周囲の通行人たちからまたしても怪訝そうな視線を浴びることになってしまったが、そんなことなどデニムキャップにとってはもはやどうでも良い事だった。デニムキャップの胸の内は、はち切れそうなほどにスカルのことで一杯になっていた。