Chapter3 - Drowning in Pure White
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***
ひたすらに気の済むまで射撃場のイカバルーンを割ってから、スカルが売店の方を振り返った時、既にそこには誰も居なくなっていた。
デニムキャップの姿がそこにないことを確かめたタレサンが、静かにスカルに歩み寄る。
「スカル。……本当は、間違えてなんかいないんだよね」
「……ああ」
沈黙の中に、スカルの重い答えが消えてゆく。
「スカルは、デニムキャップのこと……どう思っているんだい」
「分からないんだ。オレにも……」
デニムキャップと対戦した最初の試合。自身の存在を恐れることなく立ち向かってくるその姿を、スカルは思い出す。なんて強い意志を秘めた瞳なんだと、その時確かに感じていた。相打ちとなる直前のその瞬間、彼はその瞳の中に、かつて自身を破った時のゴーグルに似た何かを感じた。勇敢さと熱い闘志を秘めたガール。それがデニムキャップに抱いた、最初の印象だった。
だが、彼女の本当の姿は、スカルの抱いた想像とは少し違っていた。試合を終えた彼女の背中は、どこか寂しげだった。
――『たぶんマルミサマンか稼ぎ目的でしょ』
わざと彼女に聞こえさせているようにも取れるその声に、スカルは静かな怒りを覚えた。――違う、彼女の本当の強さは、決してリザルトだけを見て語れるものではないだろう、と。
(オレは彼女の中に秘められた、確かな強さを見たんだ)
そう思った途端、自身を突き動かすような、強い衝動を感じた。彼女の背中に向けて、声をかけずにはいられなかった。
それからスカルは、デニムキャップとバトルに挑むようになった。試合数を重ねる度に、スカルはデニムキャップのことを知っていった。
味方になった時には、勝てば満面の笑みで喜ぶし、負けてもすぐに立ち直って、また一緒に勝とう、と励ましてくれる。敵として戦う時には、スカルと対等に渡り合う力こそ無いものの、『相手が例えS4最強であったとしても、私は全力で勝ちにいきたい』『いつかスカルくんに追いつけるぐらいに強くなってみせる』と語り、不屈の闘志を抱いて何度でも立ち向かって来る。だが、それとは裏腹に、スカルとのバトル以外でのデニムキャップはどこか自信が無さげだった。もう昇格戦に何度負けたか分からない、と。強くなれなくてごめんなさい、と。落ち込むデニムキャップの姿もまた、スカルは何度も見てきた。その度に、彼女の実力はこんなものではない、そう自分は知っているのに、とスカルは考えていた。
いつしかスカルは、デニムキャップのことばかりを考えるようになっていた。彼女と共にバトルする時の、胸が熱くなる感覚。彼女の本当の強さを誰よりも知っているんだという自信。強気なデニムキャップの姿と、弱気なデニムキャップの姿。彼女をS+0へ、そしてその先へと導いていきたいという想い。それらが重なって紡ぎ出すひとつの想い。それはゴーグルに対して抱いていたものとは、全く違っていた。
――デニムキャップの隣にいたい。
それはスカルにとって、初めて味わう感覚だった。それを一括りにして表すことができる言葉を、彼は知らなかった。
「じゃあ、質問を変えよう。キミはどうして、アロハを撃とうと思ったんだい?」
重い沈黙を破って、タレサンが問いかける。
「それは――何故だか分からないが、胸の奥がざわついたからだ」
「ざわついた?」
「ああ。最初にデニムキャップの姿を見つけた時、オレは……嬉しかった。頑張っているんだな、という思いで、デニムキャップを見ていた。だが、そこにアロハが現れた時……胸の奥が、無性にざわつくような感覚に襲われていた。デニムキャップに馴れ馴れしく話し掛ける彼を、どういう訳だか、無性に撃ち抜きたくてたまらない衝動に駆られた。……だから、トリガーを引いたまでだ」
「ふんふん、なるほどね……」
タレサンは頷きながら、スカルの話を聞いていた。
「やっぱり、キミは本当に……」
その先を言いかけて、タレサンは言葉を飲み込んだ。
「……いや、やっぱりやめておこう。その答えは、スカル自身が出すべきだと思っているよ」
「……そうか」
それだけ言うと、スカルは再びイカバルーンに向けてリッターを構えた。
その時、スカルとタレサンのイカホから、同時に通知音が鳴った。二人は武器を下ろして、イカホの画面に目をやる。
「何だ。……緊急ニュース?」
「フェスの告知、だって……?」