Chapter1〜籠の鳥は戻ってくる
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「バンカラ杯出場選手の方は、こちらで受付をお願いします!」
「観戦の方はこちらにお並びください!」
スタッフたちが拡声器やプラカードを持って慌ただしく行き交いながら、ロビーの前の人混みを誘導して並ばせている。私もそれに続くように、観戦客の列の「最後尾」のプラカードの見える方に移動しようとした、その時だった。
「……ちょっと良いかな? 君って、この前フレコ交換した、トワだよね?」
突然、背後から声をかけられた。名前を呼ばれて、思わずびくっ、と背筋を震わせながら振り返ると、そこには憔悴した表情のガールが立っていた。
「あ、もしかしてこの前、ハイカラシティで――」
私はそのガールの顔に見覚えがあった。以前、いつものようにこっそりハイカラシティでナワバリバトルをしていた時、たまたま野良でのマッチングで味方になったガールで、何度か一緒に試合をしているうちに意気投合し、フレンドコードを交換したのだ。
「覚えててくれたんだ! 良かった! 実はトワに、お願いがあるんだけど……」
彼女がそう言うと、その後ろから同じ色のイカたちが二人、駆けつけてくる。二人も彼女と同じように、かなり焦っている様子だった。
「実は、私たちのチーム、この大会に出る予定なんだけど、チームメンバーの一人が、急に体調崩して、出られなくなっちゃって……」
困ったような表情のまま、彼女は続ける。
「その子、パラソレ使いなんだよね。だから、パラソレが使えるトワに、代わりに入って欲しいの!」
「え、私が!? でも私、そんな急に入っても、練習とか全然してないし……」
「ほんとに出るだけで大丈夫だから! 1回戦で負けても全然構わないから! とにかく4人揃って出られるなら何でもいいの! お願い!」
両手を合わせながら、必死の形相で彼女に懇願される。4人揃わないとそもそも大会には出られないとのことらしい。メンバーが揃わずに最初から出場権すら得られないぐらいなら、まだ一回戦で負ける方がよほど良いだろう。ここは思い切って彼女の頼みを引き受けてみようか。そう思い、私は頷いて、「じゃあ、私が代わりに出るよ」と告げた。
「本当!? ありがとう! 嬉しいー! あ、ブキは貸すから、心配しないで!」
こうして私は、嬉しそうな彼女とチームメンバーたちに続いて、出場選手受付の列に並ぶことになった。
列が進み、私たちも受付を済ませて、ロビーに入る。
「それじゃ、ブキはこっちにあるから、ついて来て!」
チームメンバー達に案内されて、ロッカールームへと続く自動ドアをくぐる。その時、丁度反対側からドアを抜けようと歩いてくる、背の高いボーイとすれ違った。
(…………?)
黄金色の中に赤を宿したその瞳と、視線がぶつかり合う。ほんの一瞬、時間が止まったような気がした。
(あのボーイ……なんだかこっちを見ていたような……気のせい?)
彼はこちらに視線を向けていたが、すぐに白いコートを翻して、ドアの向こうへと去っていく。人混みの中でも頭ひとつ抜けて存在感を放つ、真昼の太陽のようなその堂々たる背中を、気づけば私は目で追っていた。
「トワー! こっちこっちー!」
チームメンバーの呼び声で、私ははっと我に帰って、彼女たちの元に駆けつける。欠員となったメンバーの物だというパラシェルターソレーラを確かに受け取って、私たちは射撃場へと向かった。
***
『バンカラ杯出場選手の皆さんにお知らせです。予選トーナメントの対戦表を発表致します。出場選手の方はご確認をお願いします』
アナウンスが流れ、ロビーの大画面にトーナメント表が映し出される。次の瞬間、辺りはざわざわと様々な声が飛び交い始める。
「私たちのチームは……」
「えっ……嘘……!?」
トーナメント表の中にある、自分たちのチームの名前を探していると、チームメンバーたちの顔が青ざめていることに気づいた。
「えっ、どうしたの、みんな!?」
「予選1試合目……まさかのエンペラーチームと対戦なんだけど……」
彼女は震えながら、そう私に告げる。
「エンペラーチーム……?」
「えっ、知らないの!? すっごく有名なチームなんだけど」
大袈裟にも思えるほどに、彼女は目を真ん丸く見開いて、驚いた様子を見せる。それから彼女は一呼吸置いて、エンペラーチームのことを詳細に語り聞かせてくれた。
エンペラーチームは、ハイカラスクエアで「ナワバリバトルの絶対王者」の異名を持つほどに強いチームであったこと。数年前にスクエアキング杯の4連覇を逃してからは、リーダーのエンペラーがチームを去ったこと。しかし今回の大会では、「修行の旅」を終えて帰ってきたエンペラーを迎え、かつてスクエアキング杯を3連覇した時と同じメンバーで挑むと宣言していること――
「……要するに、とてつもなく強いチームってことなのね」
「そうそう! あの「ナワバリの王」が帰ってくるってことで、世間は大騒ぎなのよ!」
かつて大会を3連覇して、世間を騒がせた程の強者。それが予選1回戦での対戦相手にやって来るなんて――彼女らが怖気付くのも、無理はない。すると、チームメンバーの一人が、重苦しい空気を打ち壊すように声を上げる。
「で、でも! 相手がどんなに強くたって、私達は全力で楽しめばいいんだよね!」
その言葉に、全員がはっと顔を上げる。
「そうだよね、最初から諦めてたら、何も始まらないよ!」
「みんなで力を合わせて、頑張ろう!」
私も、チームメンバー達も、希望に満ちた目で互いを見つめ合って、そして力強く頷いた。
***
『さあさあお立ち会い! バンカラな若者たちの頂点を競う、バンカラ杯の開幕やで!』
『エイ!(予選Aブロック、第1試合のスタートだよ!)』
『今回の注目株は、修行を終えた「ナワバリの王」の復活! エンペラーチームじゃー!』
私たちとエンペラーチームの対決の舞台となるのは、タラポートショッピングパークだ。予選第1試合だというのに、ステージを見下ろす吹き抜けの周りは既に大勢の観客で埋め尽くされ、隙間も見えないほどになっている。
「私たちの試合を見に来た人が、こんなに……!?」
「きっとみんなエンペラーチーム目当てだよ、私たちみたいな弱小無名チームの予選にこんなに人が来るとは到底思えないし……」
私たち4人は、それぞれが吹き抜けを見上げ、ステージを取り囲む熱気に圧倒されている。
「でも、頑張るって決めたからには、最後まで全力で、諦めずに挑むよ!」
チームメンバーの一人が、励ますように声をかける。それに続くように、残る仲間たちも「おーっ!」と声を上げる。
やがて、試合開始の時間となり、スタート地点に両チームのメンバーが揃うと、観客たちは一気にざわめきに包まれる。そしてスポナーから各々が姿を現して、互いに顔を見合わせる。
(…………!)
その瞬間、私の脳内で、微かに光が瞬いたような気がした。なぜなら、リーダーのエンペラーは――先程ロッカールームに向かう時にすれ違った、あのボーイだったからだ。
気高き純白と黄金を纏ったその出で立ちからは、王者としての貫禄、そして圧倒的な覇気すらも感じられる。それだけではない。彼の隣に並ぶチームメンバー、プリンツにエギングJr、そしてエンペーサーからも、見る者全てを圧倒するような重厚なオーラをひしひしと感じるのだ。
私は戦う前から既に、威圧感に押し潰されてしまいそうになる。けれど、こうして大会に出るからには――全力で戦いたい。出られなくなったメンバーのためにも、可能性を信じて立ち向かいたい。それが、私の役目なのだから。
『レディー……ゴー!』
試合開始の合図と共に、私たちは一斉に、スポナーから飛び出していった。
「観戦の方はこちらにお並びください!」
スタッフたちが拡声器やプラカードを持って慌ただしく行き交いながら、ロビーの前の人混みを誘導して並ばせている。私もそれに続くように、観戦客の列の「最後尾」のプラカードの見える方に移動しようとした、その時だった。
「……ちょっと良いかな? 君って、この前フレコ交換した、トワだよね?」
突然、背後から声をかけられた。名前を呼ばれて、思わずびくっ、と背筋を震わせながら振り返ると、そこには憔悴した表情のガールが立っていた。
「あ、もしかしてこの前、ハイカラシティで――」
私はそのガールの顔に見覚えがあった。以前、いつものようにこっそりハイカラシティでナワバリバトルをしていた時、たまたま野良でのマッチングで味方になったガールで、何度か一緒に試合をしているうちに意気投合し、フレンドコードを交換したのだ。
「覚えててくれたんだ! 良かった! 実はトワに、お願いがあるんだけど……」
彼女がそう言うと、その後ろから同じ色のイカたちが二人、駆けつけてくる。二人も彼女と同じように、かなり焦っている様子だった。
「実は、私たちのチーム、この大会に出る予定なんだけど、チームメンバーの一人が、急に体調崩して、出られなくなっちゃって……」
困ったような表情のまま、彼女は続ける。
「その子、パラソレ使いなんだよね。だから、パラソレが使えるトワに、代わりに入って欲しいの!」
「え、私が!? でも私、そんな急に入っても、練習とか全然してないし……」
「ほんとに出るだけで大丈夫だから! 1回戦で負けても全然構わないから! とにかく4人揃って出られるなら何でもいいの! お願い!」
両手を合わせながら、必死の形相で彼女に懇願される。4人揃わないとそもそも大会には出られないとのことらしい。メンバーが揃わずに最初から出場権すら得られないぐらいなら、まだ一回戦で負ける方がよほど良いだろう。ここは思い切って彼女の頼みを引き受けてみようか。そう思い、私は頷いて、「じゃあ、私が代わりに出るよ」と告げた。
「本当!? ありがとう! 嬉しいー! あ、ブキは貸すから、心配しないで!」
こうして私は、嬉しそうな彼女とチームメンバーたちに続いて、出場選手受付の列に並ぶことになった。
列が進み、私たちも受付を済ませて、ロビーに入る。
「それじゃ、ブキはこっちにあるから、ついて来て!」
チームメンバー達に案内されて、ロッカールームへと続く自動ドアをくぐる。その時、丁度反対側からドアを抜けようと歩いてくる、背の高いボーイとすれ違った。
(…………?)
黄金色の中に赤を宿したその瞳と、視線がぶつかり合う。ほんの一瞬、時間が止まったような気がした。
(あのボーイ……なんだかこっちを見ていたような……気のせい?)
彼はこちらに視線を向けていたが、すぐに白いコートを翻して、ドアの向こうへと去っていく。人混みの中でも頭ひとつ抜けて存在感を放つ、真昼の太陽のようなその堂々たる背中を、気づけば私は目で追っていた。
「トワー! こっちこっちー!」
チームメンバーの呼び声で、私ははっと我に帰って、彼女たちの元に駆けつける。欠員となったメンバーの物だというパラシェルターソレーラを確かに受け取って、私たちは射撃場へと向かった。
***
『バンカラ杯出場選手の皆さんにお知らせです。予選トーナメントの対戦表を発表致します。出場選手の方はご確認をお願いします』
アナウンスが流れ、ロビーの大画面にトーナメント表が映し出される。次の瞬間、辺りはざわざわと様々な声が飛び交い始める。
「私たちのチームは……」
「えっ……嘘……!?」
トーナメント表の中にある、自分たちのチームの名前を探していると、チームメンバーたちの顔が青ざめていることに気づいた。
「えっ、どうしたの、みんな!?」
「予選1試合目……まさかのエンペラーチームと対戦なんだけど……」
彼女は震えながら、そう私に告げる。
「エンペラーチーム……?」
「えっ、知らないの!? すっごく有名なチームなんだけど」
大袈裟にも思えるほどに、彼女は目を真ん丸く見開いて、驚いた様子を見せる。それから彼女は一呼吸置いて、エンペラーチームのことを詳細に語り聞かせてくれた。
エンペラーチームは、ハイカラスクエアで「ナワバリバトルの絶対王者」の異名を持つほどに強いチームであったこと。数年前にスクエアキング杯の4連覇を逃してからは、リーダーのエンペラーがチームを去ったこと。しかし今回の大会では、「修行の旅」を終えて帰ってきたエンペラーを迎え、かつてスクエアキング杯を3連覇した時と同じメンバーで挑むと宣言していること――
「……要するに、とてつもなく強いチームってことなのね」
「そうそう! あの「ナワバリの王」が帰ってくるってことで、世間は大騒ぎなのよ!」
かつて大会を3連覇して、世間を騒がせた程の強者。それが予選1回戦での対戦相手にやって来るなんて――彼女らが怖気付くのも、無理はない。すると、チームメンバーの一人が、重苦しい空気を打ち壊すように声を上げる。
「で、でも! 相手がどんなに強くたって、私達は全力で楽しめばいいんだよね!」
その言葉に、全員がはっと顔を上げる。
「そうだよね、最初から諦めてたら、何も始まらないよ!」
「みんなで力を合わせて、頑張ろう!」
私も、チームメンバー達も、希望に満ちた目で互いを見つめ合って、そして力強く頷いた。
***
『さあさあお立ち会い! バンカラな若者たちの頂点を競う、バンカラ杯の開幕やで!』
『エイ!(予選Aブロック、第1試合のスタートだよ!)』
『今回の注目株は、修行を終えた「ナワバリの王」の復活! エンペラーチームじゃー!』
私たちとエンペラーチームの対決の舞台となるのは、タラポートショッピングパークだ。予選第1試合だというのに、ステージを見下ろす吹き抜けの周りは既に大勢の観客で埋め尽くされ、隙間も見えないほどになっている。
「私たちの試合を見に来た人が、こんなに……!?」
「きっとみんなエンペラーチーム目当てだよ、私たちみたいな弱小無名チームの予選にこんなに人が来るとは到底思えないし……」
私たち4人は、それぞれが吹き抜けを見上げ、ステージを取り囲む熱気に圧倒されている。
「でも、頑張るって決めたからには、最後まで全力で、諦めずに挑むよ!」
チームメンバーの一人が、励ますように声をかける。それに続くように、残る仲間たちも「おーっ!」と声を上げる。
やがて、試合開始の時間となり、スタート地点に両チームのメンバーが揃うと、観客たちは一気にざわめきに包まれる。そしてスポナーから各々が姿を現して、互いに顔を見合わせる。
(…………!)
その瞬間、私の脳内で、微かに光が瞬いたような気がした。なぜなら、リーダーのエンペラーは――先程ロッカールームに向かう時にすれ違った、あのボーイだったからだ。
気高き純白と黄金を纏ったその出で立ちからは、王者としての貫禄、そして圧倒的な覇気すらも感じられる。それだけではない。彼の隣に並ぶチームメンバー、プリンツにエギングJr、そしてエンペーサーからも、見る者全てを圧倒するような重厚なオーラをひしひしと感じるのだ。
私は戦う前から既に、威圧感に押し潰されてしまいそうになる。けれど、こうして大会に出るからには――全力で戦いたい。出られなくなったメンバーのためにも、可能性を信じて立ち向かいたい。それが、私の役目なのだから。
『レディー……ゴー!』
試合開始の合図と共に、私たちは一斉に、スポナーから飛び出していった。