その輝きを消さぬように【スカル短編】
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「――ここはどこだ」
スカルは独りそう呟いてみたが、当然ながら答える者はいなかった。微かな独り言を掻き消すように、祭りの賑わいに身を投じる人々の喧騒と、蛮殻ミックスモダンが終わりなく響いているだけである。ただ分かることは、何時の間にか登ってきていたらしいこの場所は、眼前にすりみ連合の神輿と、その前を行き交う人々を、何者にも邪魔されることなくしっかりと俯瞰することができるということだ。
手元のイカホの画面は、バニラ対チョコミントの100倍マッチの試合の中継から、勝者4人の名前が表示された画面に切り替わっていた。
――そして、そこにデニムキャップの名前は無い。
先程まで見ていた試合の中継映像では、確かにバニラ派の4人の中に、デニムキャップの姿もあった。勇敢に敵を蹴散らしながら、懸命に前へ前へと進む彼女の姿を、画面越しに目で追っていた。
けれど、最後に映し出されたのは、たった0.1%の差で、敗北を目の当たりにしたデニムキャップの姿だった。最後のその時まで、彼女は笑っていた。けれど、その瞳から光が消えていくその瞬間を、スカルは確かに見ていた。
そして今、勝者だけを称える画面の中に、もう彼女の名前も姿も無い。神輿の上では、先程勝利を収めたチョコミントの4人が乗り込み、記念撮影に入っていた。一方、神輿の下では、3陣営それぞれの色の人々が入り乱れて、思い思いに写真を撮ったり、神輿の上に向かって手を振ったり、声をかけたりと、混沌の様相を醸し出している。
その中に――たった一人、まるでそこだけ時の流れが違うかのように、動くことなくただじっと、神輿を見上げて佇んでいるガールの後ろ姿があった。それは紛れもなく、デニムキャップであった。
バニラ陣営の色の髪 が、風に吹かれて微かに揺れている。普段とは違う、白色の彼女の姿が、スカルには何故か、とても儚いものに見えていた。
夜の闇の中でも昼間の如く輝くように、神輿を、そしてバンカラ街全体を照らす明かりの色。街中に掲げられたモニターとネオンの色。行き交う人々が持っているサイリウムの色。ありとあらゆる色の光が、真っ白な髪 を照らし出し、そして混沌の色へと染めていく。
動かない彼女が、混ざり合う光の色の中に呑み込まれて消えてしまいそうで――そうなってしまわないように、彼女を強く抱き締めたい。そんな衝動が、スカルを襲う。彼はそのまま、デニムキャップの元へとスーパージャンプで駆けつけた。
「……スカルくん!? び、びっくりしたぁ!」
デニムキャップは着地の瞬間こそ驚いていたものの、それがスカルだと分かると安堵したようだ。
「試合、見ていたぞ。デニムキャップ」
スカルがそう告げると、デニムキャップは気まずそうに頭を掻く。
「あー、さっきの100倍? やっぱり、見てたのかぁ……あはは……」
何かを誤魔化すように笑いながら、デニムキャップはゆっくりと話し始める。
「私ね……すっごく頑張ったんだ。お神輿に乗りたくて……絶対に負けられないって思って」
彼女の目は笑ったまま――だけど、その瞳の色が、少しずつ曇り始めていた。
「たくさん塗ったし、たくさんキルも取った。すごく、すごく、本気で……頑張ったんだ。でもね……私……」
笑ったままだったデニムキャップの表情が、少しずつ、少しずつ歪んでいく。やがて涙が溜まって、つう、と一筋、頬を伝って流れ落ちる。
「私……負けちゃったよぉ……っ!」
そのまま彼女は、ぼろぼろと涙を流して泣き始めた。そんな彼女を、スカルはそっと腕の中に抱き寄せる。
スカルの胸の中で、デニムキャップは人目も憚らず、わんわん泣き続けた。そんな彼女を、スカルはただそっと、包み込むように抱きしめていた。
「知っているぞ、オレは。お前が最後の最後まで、真剣に戦い抜いたことを」
「っ……スカルくん……?」
涙で濡れたままの顔で、デニムキャップはスカルを見上げた。
勝負に挑む思いは、誰も彼もが同じだ。けれど、最後に報われるのは勝者だけ。行き交う人々は皆、神輿の上の勝者たちを褒め称えている。今ここにいるデニムキャップを褒める者は、誰もいない。けれど、スカルは確かに見ていたのだ。敵の猛攻にも負けず、前線を守り抜いた彼女を。その瞳に勝利という未来を見据えて、勇敢に戦い抜いた彼女を。
「例え、誰も見ていなくても、誰も覚えていてくれなくても。オレはお前を見ている。お前の努力を知っている」
実力はスカルに遠く及ばないながらも、目標に向かって真剣に、そしてひたむきに手を伸ばして挑み続ける姿。デニムキャップのそんな所を好きになったからこそ、例え負けたとしても、自分だけは決して彼女のその姿を忘れぬよう、目に焼き付けておきたいのだ。彼女が勝者という眩しい光にかき消されて、消えてしまわぬように。
「――よく頑張ったな、デニムキャップ」
スカルはデニムキャップの頭をそっと撫でて、そして強く抱きしめた。
「スカルくん……? ……っ、うわああん……!」
デニムキャップは安堵したのか、スカルの胸に顔を埋めたまま、再び声を上げて大粒の涙を流しながら、彼の背中に手を回して抱きしめ返す。汗ばんだTシャツ越しに、柔らかな腕の感触が背中を温める。
神輿の上にいた勝者たちは、何時の間にかもう降りてしまったようだ。蛮殻ミックスモダンが終わりなく流れ続ける中で、暗かった空は少しずつ明るみ始めていた。
夜が明ければ、祭りの喧騒も去っていく。きっとこの戦いの勝者のことさえも、やがては忘れ去られてしまう。けれど、今この瞬間も、高みを目指し歩み続けるデニムキャップの存在。彼女よりも強き者たちは数え切れぬほどいる中で、砂粒の中に呑み込まれてしまうことのないように。どれだけ迷ったとしても、決して彼女の存在だけは見失うことのないように、スカルは彼女を愛し続ける――そう心に誓ったのだった。
スカルは独りそう呟いてみたが、当然ながら答える者はいなかった。微かな独り言を掻き消すように、祭りの賑わいに身を投じる人々の喧騒と、蛮殻ミックスモダンが終わりなく響いているだけである。ただ分かることは、何時の間にか登ってきていたらしいこの場所は、眼前にすりみ連合の神輿と、その前を行き交う人々を、何者にも邪魔されることなくしっかりと俯瞰することができるということだ。
手元のイカホの画面は、バニラ対チョコミントの100倍マッチの試合の中継から、勝者4人の名前が表示された画面に切り替わっていた。
――そして、そこにデニムキャップの名前は無い。
先程まで見ていた試合の中継映像では、確かにバニラ派の4人の中に、デニムキャップの姿もあった。勇敢に敵を蹴散らしながら、懸命に前へ前へと進む彼女の姿を、画面越しに目で追っていた。
けれど、最後に映し出されたのは、たった0.1%の差で、敗北を目の当たりにしたデニムキャップの姿だった。最後のその時まで、彼女は笑っていた。けれど、その瞳から光が消えていくその瞬間を、スカルは確かに見ていた。
そして今、勝者だけを称える画面の中に、もう彼女の名前も姿も無い。神輿の上では、先程勝利を収めたチョコミントの4人が乗り込み、記念撮影に入っていた。一方、神輿の下では、3陣営それぞれの色の人々が入り乱れて、思い思いに写真を撮ったり、神輿の上に向かって手を振ったり、声をかけたりと、混沌の様相を醸し出している。
その中に――たった一人、まるでそこだけ時の流れが違うかのように、動くことなくただじっと、神輿を見上げて佇んでいるガールの後ろ姿があった。それは紛れもなく、デニムキャップであった。
バニラ陣営の色の
夜の闇の中でも昼間の如く輝くように、神輿を、そしてバンカラ街全体を照らす明かりの色。街中に掲げられたモニターとネオンの色。行き交う人々が持っているサイリウムの色。ありとあらゆる色の光が、真っ白な
動かない彼女が、混ざり合う光の色の中に呑み込まれて消えてしまいそうで――そうなってしまわないように、彼女を強く抱き締めたい。そんな衝動が、スカルを襲う。彼はそのまま、デニムキャップの元へとスーパージャンプで駆けつけた。
「……スカルくん!? び、びっくりしたぁ!」
デニムキャップは着地の瞬間こそ驚いていたものの、それがスカルだと分かると安堵したようだ。
「試合、見ていたぞ。デニムキャップ」
スカルがそう告げると、デニムキャップは気まずそうに頭を掻く。
「あー、さっきの100倍? やっぱり、見てたのかぁ……あはは……」
何かを誤魔化すように笑いながら、デニムキャップはゆっくりと話し始める。
「私ね……すっごく頑張ったんだ。お神輿に乗りたくて……絶対に負けられないって思って」
彼女の目は笑ったまま――だけど、その瞳の色が、少しずつ曇り始めていた。
「たくさん塗ったし、たくさんキルも取った。すごく、すごく、本気で……頑張ったんだ。でもね……私……」
笑ったままだったデニムキャップの表情が、少しずつ、少しずつ歪んでいく。やがて涙が溜まって、つう、と一筋、頬を伝って流れ落ちる。
「私……負けちゃったよぉ……っ!」
そのまま彼女は、ぼろぼろと涙を流して泣き始めた。そんな彼女を、スカルはそっと腕の中に抱き寄せる。
スカルの胸の中で、デニムキャップは人目も憚らず、わんわん泣き続けた。そんな彼女を、スカルはただそっと、包み込むように抱きしめていた。
「知っているぞ、オレは。お前が最後の最後まで、真剣に戦い抜いたことを」
「っ……スカルくん……?」
涙で濡れたままの顔で、デニムキャップはスカルを見上げた。
勝負に挑む思いは、誰も彼もが同じだ。けれど、最後に報われるのは勝者だけ。行き交う人々は皆、神輿の上の勝者たちを褒め称えている。今ここにいるデニムキャップを褒める者は、誰もいない。けれど、スカルは確かに見ていたのだ。敵の猛攻にも負けず、前線を守り抜いた彼女を。その瞳に勝利という未来を見据えて、勇敢に戦い抜いた彼女を。
「例え、誰も見ていなくても、誰も覚えていてくれなくても。オレはお前を見ている。お前の努力を知っている」
実力はスカルに遠く及ばないながらも、目標に向かって真剣に、そしてひたむきに手を伸ばして挑み続ける姿。デニムキャップのそんな所を好きになったからこそ、例え負けたとしても、自分だけは決して彼女のその姿を忘れぬよう、目に焼き付けておきたいのだ。彼女が勝者という眩しい光にかき消されて、消えてしまわぬように。
「――よく頑張ったな、デニムキャップ」
スカルはデニムキャップの頭をそっと撫でて、そして強く抱きしめた。
「スカルくん……? ……っ、うわああん……!」
デニムキャップは安堵したのか、スカルの胸に顔を埋めたまま、再び声を上げて大粒の涙を流しながら、彼の背中に手を回して抱きしめ返す。汗ばんだTシャツ越しに、柔らかな腕の感触が背中を温める。
神輿の上にいた勝者たちは、何時の間にかもう降りてしまったようだ。蛮殻ミックスモダンが終わりなく流れ続ける中で、暗かった空は少しずつ明るみ始めていた。
夜が明ければ、祭りの喧騒も去っていく。きっとこの戦いの勝者のことさえも、やがては忘れ去られてしまう。けれど、今この瞬間も、高みを目指し歩み続けるデニムキャップの存在。彼女よりも強き者たちは数え切れぬほどいる中で、砂粒の中に呑み込まれてしまうことのないように。どれだけ迷ったとしても、決して彼女の存在だけは見失うことのないように、スカルは彼女を愛し続ける――そう心に誓ったのだった。
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