Chapter2
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***
「あ! このシーン、私の好きなとこです!」
「この回は何度見ても泣ける、名作ですな」
「レッドちゃんが葛藤を乗り越えて仲間になるまでの流れ、本当に大好きで」
「最終決戦でのピンクちゃんのあのセリフ、本当にグッときましたな」
展示を見ながら、気づけばオレ達はそれぞれの好きな場面の語り合いに夢中になっていた。
「あはは、私、自分の好きなものについてこんなにたくさん話せたの、すごく久しぶりな気がします!」
展示室を出る時には、アズキは一点の曇りもない満足げな顔になっていた。
「私……小さい頃からずっと、イカキュアが大好きで……でも、少しずつ大きくなるにつれて、周りは私のことを笑うようになったんです。あんなの、幼稚園児が見るものでしょ、って」
――その気持ちは良く分かる。幼い頃は誰もが見ていたような子供向けアニメだが、大半の者は成長するにつれて離れていくものなのだ。どうして好きではなくなるのかと。どうして離れてしまうのかと。オレ自身は、不思議に思っていた。
「でも、オーロラさんと色々話してたら……ネットの中だけじゃなくても、もっと自分の『好き』を貫きたいって、思えてきたんです。オーロラさんみたいに、どんな時でも、好きなことに夢中になれるようになりたいって」
「ただのオタクを、そんな風に言われたのは初めてですぞ……」
オレが心の中で密かに慌てふためいていると、アズキは澄み切った瞳で、オレに伝える。
「オーロラさんは――まっすぐなお方なんですね」
「えっ、な、なんですと!?」
今度は本当に慌てふためいてしまった。オレのことがまっすぐ、だと――確かに彼女はそう言った。
「い、一体どうしてそう思うんですかな!? オレなんて、まっすぐとは程遠いイカなのに……」
「どうして……ですかね。私にもよく分からないんです。でも……なんとなくそう感じたので」
「絶対違いますぞーっ!」
「……? そうなんですか?」
アズキは澄んだ瞳のまま、首を傾げている。
そもそもアズキとは今日知り合ったばかりだ。オレのことなんてよく知っているはずが無い。もっとオレのことを知ったら――絶対に「まっすぐ」だなんて言えるような器では無いことは一目瞭然なはずだ。そう思っていると、再び彼女の方から声をかけられる。
「あの……もし良かったら、その……また、バイトとか、バトルとか……一緒にしませんか?」
「も、勿論良いですぞ! ただ……あまり過度に期待するのは、良くないですな……」
アズキは何を言われているのかよく分かっていないという表情だ。まあ当然だ、オレ自身も何を言っているのかよく分かっていない。
とりあえず――次に繋げられただけでも、良しとしよう。
***
あれから一週間が過ぎた。アズキは時折バイトの時間が被り、一緒に仕事をすることはあったのだが――再び彼女をバトルに誘ったり、自分から一緒にバイトをしないかと呼びかけるには、まだ至っていないのだった。
そんなこんなで、この日はシアンチームの4人でクマサン商会に来ていた。
「マスク氏〜……」
「何だよオーロラ〜。アズキのことか〜?」
「うげ、何で分かったのですかな!?」
「何でって、分かりやすすぎなんだよ〜。お前が四六時中アズキのことばかり考えてるのは」
「〜〜っ! マスク氏にだけは言われたくなかったですぞ!」
図星を突かれた恥ずかしさでマスクから目を逸らせば、部屋の隅で漫画を読んでいたマルベッコーとジャージーが、にやにやと笑っているのが代わりに視界に入る。
「あら、顔が真っ赤で可愛いですね」
「オーロラ氏にもとうとう春が……」
「う、うるさい〜〜っ!」
顔が熱くなるのを誤魔化すように叫びながら、こそこそと何か話しているガール二人はひとまず視界の外へ追い払う。
「で、オーロラ、話は何だ?」
「そうでした、マスク氏……その……ガールともっと踏み込んだ関係になるには、どうすればいいのかと……」
「それ、オレに聞かれても分かるわけないだろ〜」
「ですよね〜………」
シアンチームは皆、恋愛とは縁遠い人 生を送ってきた者ばかりだ。やはり、いざ頼ろうにも、全く当てにはならないのだろうか。
「まあ……よく知ってそうな奴なら心当たりはあるけど」
マスクが重い口を開く。それが何を意味するのか、オレにも察しは付いた。
「……アイツに連絡なんて、正直嫌なんだけどな〜。こればっかりは仕方ない」
そう言うとマスクはイカホを取り出して、何処かへ電話をかけ始める。
『あれ、マスクじゃーん。そっちからかけてくるなんて珍しいね。何の用?』
イカホのスピーカーから、明るく弾んだボーイの声が流れ出す。画面には「アロハ」の文字が映し出されていた。
「単刀直入に言う。……恋愛相談だ」
『えっ、あのマスクに好きな子が〜〜!? 大事件じゃ〜ん! ヒューヒュー』
「待て! オレのじゃない! オレのチームメイトのだ!」
マスクは必死に弁解しながら、端的に事情を説明する。
『なるほどー、そういうことねー。なら、やっぱりオーロラからデートに誘って、好意をアピールするしかないっしょ♪』
「いや、だからそのやり方が分からないんですぞ……」
『大丈夫大丈夫。適当な口実作って出かける約束をすれば、後はこっちのもんだから!』
「と言われても……」
デートだとか好意だとか、定義さえよく分からない言葉をつらつらと並べられて、頭が痛くなってきそうだ。
『なら、タラポートショッピングパークにでも誘ってみればいいじゃーん。いい口実になるっしょ!』
――タラポートショッピングパーク。つい最近オープンしたばかりの商業施設だ。内部には来月から新たに使用可能になるバトルステージが設置されていることもあり、巷で話題になっている。
「確かに……そこなら、誘いやすい……かもしれない……ですな」
『よーし、そうと決まったら早速アズキちゃんに連絡しなきゃね! ……あ、もうすぐパーリーの時間だから、もう切るねー♪』
次の瞬間には、ツー、ツー、という電話の音だけが小さく鳴っていた。
デートに誘うだなんて、アロハは簡単に言うが……アズキがそう簡単にオレに好意を持ってくれるとは思えないし、そもそもアズキに既に彼氏がいるかも分からない。彼女はオレのことをどう思っているのだろうか。二人で遊びに行きたいなんて言ったら、彼女はどう思うのだろうか。
――もう、この際、当たって砕けろだ。どうなったって知らない。オレは覚悟を決めてイカホを取り出すと、アズキ宛にメッセージを打つ。
『この前オープンした、タラポートショッピングパークに行きたいのですが……アズキ氏も一緒に行きませんかな?』
勇気を込めて送信ボタンを押してから、しばらく目をぎゅっと瞑っている間にいつの間にか既読は付いていた。そして、すぐにアズキから返信が来る。
『えっ、良いんですか!? 私で良ければ……ぜひ一緒に行きたいです!』
「っ……アズキ氏ーーっ!」
嬉しさのあまり、イカホを真上に放り投げて、次の瞬間我に帰って慌ててキャッチする。
「その様子だと……言わずもがなですね」
「モテモテですね、オーロラ氏〜」
相変わらずガール二人はくすくすと笑っている。照れ隠しにポイズンミストを投げたくなる衝動をぐっと堪えながら、にやける口元を必死に抑えて、バイトツナギに着替えるため更衣室に向かった。
――その後のシフトでは、高揚のあまり手元がブレまくって、危うくチームメイト諸共たつじん+3に降格してしまうところだった。この時だけはアズキに見られていなくて良かったと、オレは心底思ったのだった。
「あ! このシーン、私の好きなとこです!」
「この回は何度見ても泣ける、名作ですな」
「レッドちゃんが葛藤を乗り越えて仲間になるまでの流れ、本当に大好きで」
「最終決戦でのピンクちゃんのあのセリフ、本当にグッときましたな」
展示を見ながら、気づけばオレ達はそれぞれの好きな場面の語り合いに夢中になっていた。
「あはは、私、自分の好きなものについてこんなにたくさん話せたの、すごく久しぶりな気がします!」
展示室を出る時には、アズキは一点の曇りもない満足げな顔になっていた。
「私……小さい頃からずっと、イカキュアが大好きで……でも、少しずつ大きくなるにつれて、周りは私のことを笑うようになったんです。あんなの、幼稚園児が見るものでしょ、って」
――その気持ちは良く分かる。幼い頃は誰もが見ていたような子供向けアニメだが、大半の者は成長するにつれて離れていくものなのだ。どうして好きではなくなるのかと。どうして離れてしまうのかと。オレ自身は、不思議に思っていた。
「でも、オーロラさんと色々話してたら……ネットの中だけじゃなくても、もっと自分の『好き』を貫きたいって、思えてきたんです。オーロラさんみたいに、どんな時でも、好きなことに夢中になれるようになりたいって」
「ただのオタクを、そんな風に言われたのは初めてですぞ……」
オレが心の中で密かに慌てふためいていると、アズキは澄み切った瞳で、オレに伝える。
「オーロラさんは――まっすぐなお方なんですね」
「えっ、な、なんですと!?」
今度は本当に慌てふためいてしまった。オレのことがまっすぐ、だと――確かに彼女はそう言った。
「い、一体どうしてそう思うんですかな!? オレなんて、まっすぐとは程遠いイカなのに……」
「どうして……ですかね。私にもよく分からないんです。でも……なんとなくそう感じたので」
「絶対違いますぞーっ!」
「……? そうなんですか?」
アズキは澄んだ瞳のまま、首を傾げている。
そもそもアズキとは今日知り合ったばかりだ。オレのことなんてよく知っているはずが無い。もっとオレのことを知ったら――絶対に「まっすぐ」だなんて言えるような器では無いことは一目瞭然なはずだ。そう思っていると、再び彼女の方から声をかけられる。
「あの……もし良かったら、その……また、バイトとか、バトルとか……一緒にしませんか?」
「も、勿論良いですぞ! ただ……あまり過度に期待するのは、良くないですな……」
アズキは何を言われているのかよく分かっていないという表情だ。まあ当然だ、オレ自身も何を言っているのかよく分かっていない。
とりあえず――次に繋げられただけでも、良しとしよう。
***
あれから一週間が過ぎた。アズキは時折バイトの時間が被り、一緒に仕事をすることはあったのだが――再び彼女をバトルに誘ったり、自分から一緒にバイトをしないかと呼びかけるには、まだ至っていないのだった。
そんなこんなで、この日はシアンチームの4人でクマサン商会に来ていた。
「マスク氏〜……」
「何だよオーロラ〜。アズキのことか〜?」
「うげ、何で分かったのですかな!?」
「何でって、分かりやすすぎなんだよ〜。お前が四六時中アズキのことばかり考えてるのは」
「〜〜っ! マスク氏にだけは言われたくなかったですぞ!」
図星を突かれた恥ずかしさでマスクから目を逸らせば、部屋の隅で漫画を読んでいたマルベッコーとジャージーが、にやにやと笑っているのが代わりに視界に入る。
「あら、顔が真っ赤で可愛いですね」
「オーロラ氏にもとうとう春が……」
「う、うるさい〜〜っ!」
顔が熱くなるのを誤魔化すように叫びながら、こそこそと何か話しているガール二人はひとまず視界の外へ追い払う。
「で、オーロラ、話は何だ?」
「そうでした、マスク氏……その……ガールともっと踏み込んだ関係になるには、どうすればいいのかと……」
「それ、オレに聞かれても分かるわけないだろ〜」
「ですよね〜………」
シアンチームは皆、恋愛とは縁遠い
「まあ……よく知ってそうな奴なら心当たりはあるけど」
マスクが重い口を開く。それが何を意味するのか、オレにも察しは付いた。
「……アイツに連絡なんて、正直嫌なんだけどな〜。こればっかりは仕方ない」
そう言うとマスクはイカホを取り出して、何処かへ電話をかけ始める。
『あれ、マスクじゃーん。そっちからかけてくるなんて珍しいね。何の用?』
イカホのスピーカーから、明るく弾んだボーイの声が流れ出す。画面には「アロハ」の文字が映し出されていた。
「単刀直入に言う。……恋愛相談だ」
『えっ、あのマスクに好きな子が〜〜!? 大事件じゃ〜ん! ヒューヒュー』
「待て! オレのじゃない! オレのチームメイトのだ!」
マスクは必死に弁解しながら、端的に事情を説明する。
『なるほどー、そういうことねー。なら、やっぱりオーロラからデートに誘って、好意をアピールするしかないっしょ♪』
「いや、だからそのやり方が分からないんですぞ……」
『大丈夫大丈夫。適当な口実作って出かける約束をすれば、後はこっちのもんだから!』
「と言われても……」
デートだとか好意だとか、定義さえよく分からない言葉をつらつらと並べられて、頭が痛くなってきそうだ。
『なら、タラポートショッピングパークにでも誘ってみればいいじゃーん。いい口実になるっしょ!』
――タラポートショッピングパーク。つい最近オープンしたばかりの商業施設だ。内部には来月から新たに使用可能になるバトルステージが設置されていることもあり、巷で話題になっている。
「確かに……そこなら、誘いやすい……かもしれない……ですな」
『よーし、そうと決まったら早速アズキちゃんに連絡しなきゃね! ……あ、もうすぐパーリーの時間だから、もう切るねー♪』
次の瞬間には、ツー、ツー、という電話の音だけが小さく鳴っていた。
デートに誘うだなんて、アロハは簡単に言うが……アズキがそう簡単にオレに好意を持ってくれるとは思えないし、そもそもアズキに既に彼氏がいるかも分からない。彼女はオレのことをどう思っているのだろうか。二人で遊びに行きたいなんて言ったら、彼女はどう思うのだろうか。
――もう、この際、当たって砕けろだ。どうなったって知らない。オレは覚悟を決めてイカホを取り出すと、アズキ宛にメッセージを打つ。
『この前オープンした、タラポートショッピングパークに行きたいのですが……アズキ氏も一緒に行きませんかな?』
勇気を込めて送信ボタンを押してから、しばらく目をぎゅっと瞑っている間にいつの間にか既読は付いていた。そして、すぐにアズキから返信が来る。
『えっ、良いんですか!? 私で良ければ……ぜひ一緒に行きたいです!』
「っ……アズキ氏ーーっ!」
嬉しさのあまり、イカホを真上に放り投げて、次の瞬間我に帰って慌ててキャッチする。
「その様子だと……言わずもがなですね」
「モテモテですね、オーロラ氏〜」
相変わらずガール二人はくすくすと笑っている。照れ隠しにポイズンミストを投げたくなる衝動をぐっと堪えながら、にやける口元を必死に抑えて、バイトツナギに着替えるため更衣室に向かった。
――その後のシフトでは、高揚のあまり手元がブレまくって、危うくチームメイト諸共たつじん+3に降格してしまうところだった。この時だけはアズキに見られていなくて良かったと、オレは心底思ったのだった。