Chapter1
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***
「報酬だ〜! ありがとうございますー!」
「これで新作ゲームが買えますな〜」
カウンターで各々が報酬を受け取っていると、木彫りの熊を通して再びクマサンに話しかけられる。
「キミたち、もし時間があるなら、少し頼みたいことがあるんだが……良いかな?」
それが何であるのかも聞かず、間髪入れずにアズキは、大丈夫です、と元気に返事をしている。素直すぎて何だか少し心配になってくる。道端でナンパとかされたらホイホイついて行ったりしないだろうか。大丈夫だろうか。
「頼みたいことと言っても、大したことではないよ……ただ、部屋の荷物の片付けをお願いしたくてね」
「それなら、お安い御用ですぞ」
「そこのロッカーの下に、ダンボールが何個か置いてあるだろう……邪魔になるから、そっちの棚の上に移動させておいて……ついでにその周りの掃除もしてくれたまえ」
説明を聞きながら、オレとマスクは一瞬、ぎくり、と反応する。ロッカーの下に置いているダンボールのうちの一つは、シアンチームの私物だ。ロビーのロッカーに入りきらなかった漫画やら同人誌やらをまとめてダンボールに入れて、バイトの休憩時間に読んでいたりするのだ。
「えっと……これを動かせばいいんですね?」
アズキは早速、ダンボールの一つに手を伸ばす。
「ああっ、それは重いから、オレが持つので! アズキ氏は掃除を頼みますぞ」
「はい……分かりました!」
アズキに重い荷物を持たせる訳にはいかない。ここはボーイたるオレが率先して持たなければ、と、荷物運びを買って出る。
(これでやっと、ボーイらしい所を見せられましたぞ……印象に残ってくれると良いんですが……)
「じゃ、それはオレに渡して〜」
マスクはどこからか脚立を持ってきて、棚の前に立て掛ける。
「頼みますぞ〜」
「了解〜」
運び出したダンボールを脚立の上のマスクに渡し、そのまま彼はダンボールを持って脚立を登り始める。
「おっと……マスク、その脚立は危険だ……すぐに降りなさい」
クマサンの声が聞こえて、オレとマスクは首を傾げながら振り向く。
「その脚立は部品が外れていてね……廃棄処分を頼もうとしていた所なんだ。いつ倒れるかも分からないから……」
「なるほど、分かっ……デュ?」
クマサンが言っている傍から、バキ、と嫌な音を立てて、脚立がぐらりと傾く。
「デュフ〜〜〜〜!?」
「え? う、うわ〜〜〜っ!?」
ダンボールを抱えたマスクが、脚立と共に倒れ込む方向にいるのは――箒を手にして、固まったままのアズキ。
「――危ないっ!」
考えるより先に、身体は動いていた。マスクの手を離れて落ちてくるダンボールから庇うように、咄嗟にアズキの目の前に飛び込む。
――ガッシャーン!!
派手な音が部屋中に響き渡って、思わず目をぎゅっと瞑る。オレの背中には、バサバサと何冊かの本が落ちてくる感触はあったが、重いものがぶつかった感触はない。ひとまず自分の身体は無事なようだ。だが、目を開いた途端――
「え……?」
しばしの間、オレは状況が飲み込めず、その場で固まっていた。なぜなら――
……オレは、アズキの上に覆いかぶさり、彼女を床に押し倒すような体勢になっていたからだ。
「アズキ、氏……?」
「オーロラ、さ、ん……?」
互いの吐息がかかりそうな程の至近距離でアズキと目が合って、思考が停止したまま、2、3回、ぱちくりと瞬きをする。気のせいだろうか、戸惑うようにオレをたた見つめる彼女の頬は、ほんの少し紅く染まって――
「……はっ!? アズキ氏!? こ、ここここれは、とんだ失礼をー!!」
ようやく思考が元に戻って、慌ててアズキの元から飛び退く。
「は、はわわ、どうか今回のことは、忘れて頂いて……!」
「い、いえ、そ、そんな……」
「おいおい、二人とも何やってるんだよ。慌てすぎだろ〜」
互いに慌てふためいたままのオレとアズキは、マスクの一言でようやく元に戻る。
「マスク氏は無事ですかな!?」
「オレはちゃんと着地したから無事だよ〜。それより、この散らばった本を片付けないと〜」
「はっ! そうですな!」
部屋の中を見渡すと、マスクが運んでいたダンボールは床にひっくり返っており、中に入っていたシアンチームの私物――漫画と同人誌があちらこちらに散乱している。
「い、一刻も早く片付けなければ! あ、アズキ氏は休憩していて良いですぞ!」
保管していた同人誌の数々を見られて、変な印象を持たれたりしては大変だ。アズキに見られまいと、足元に散らばった同人誌を急いでかき集める。だが、アズキはオレが回収するよりも早く、その中の一冊に手を伸ばす。
「これって……」
「ああっ! アズキ氏! そ、それはオレの私物で……は、早くこちらへー!」
オレの制止も聞かず、アズキは立ち上がって、拾い上げた一冊をパラパラとめくり始める。
「やっぱりそうだ!これって……」
「か、返して欲しいのですぞー!」
――次の瞬間、アズキの目が輝き始めた。
「『乙女戦士イカキュア』の同人誌じゃないですか! 私、これずっと欲しかったんです! もしかして、イカキュア好きなんですかっ!?」
アズキはキラキラ、いやギラギラと目を輝かせて、まくし立てるようにオレの元へと迫る。
「え? す、好きですけど……」
「わーー! 仲間ですね! 私もイカキュア大好きで、二次創作もたくさん見てて! 私、少し前まで地方に住んでたからイベントとか行けなくて、この本欲しかったのに通販してくれなかったから買えなくて困ってて! まさかこんなところで……」
先程までの控えめな態度はどこへやら、一気に捲し立てるようにアズキは話し続けている。
「はっ!? ……す、すみません、一人でベラベラと……」
「い、いや、大丈夫ですぞ」
急に我に返ったようにマシンガントークを止めたアズキは、まだ漫画やら同人誌やらが散らばったままの床をゆっくりと見渡す。
「それにしても……凄い数ですね。これ、もしかして、全部私物なんですか?」
「ここにあるのは全部、シアンチームの私物ですぞ」
「凄いです……! シアンチームの皆さんが漫画やゲームが好きなのは知っていましたけど、こんなに熱心なオタクだったとは……! なんだか、気が合いそうですね!」
「なっ……!?」
てっきり、ここにある同人誌の数々を見られてしまったらドン引きされてしまう、と思っていたが、アズキは違うようだ。それどころか、彼女はどうやらオレ達と同じ、オタクであるらしい。
「あの……良ければもっと、お話ししても……?」
「喜んで……!」
***
それからオレは、アズキと好きなアニメやら漫画やらゲームやらの話に花を咲かせつつ、マスクと共に荷物の片付けを終わらせたのだった。
「オーロラさんもマスクさんも……たくさんお話しできて、楽しかったです! あ、あの、良ければ、フレコを交換しても……?」
「勿論、良いですぞ!」
アズキはイカホを取り出し、オレとマスクとフレコを交換する。――ひとまず、フレコ交換はできたから、第一段階完了、といったところか。問題は、ここから先に進めるか……なのだが。
「と、ところでアズキ氏、良ければこの後、オレとマスク氏と、ナワバリバトルにでも……」
流石にいきなり二人では早すぎるだろうか。何も分からないからひとまずマスクも含めて三人という形で誘ってみる。
「あ、オレはこの後S4会議があるから、オーロラとアズキで行ってきて〜」
「マスク氏〜!?」
「良いですよ、オーロラさん! 一緒に行きましょう!」
「は、はいっ……!」
澄み渡るアズキの笑顔が可愛くて、胸が弾けそうになる。こんなにも可愛い子と出会えて、同じ趣味で仲良くなれて、そしてこれから一緒にナワバリバトルにも行けるだなんて。何気ない日常を、明るい色で一気に塗り返されたようで、目の前にいるアズキも、心の中で思い描くこれからの事も、キラキラと輝いて見える。
(もしかしてこれって、すっごく「リア充」……なのでは……!?)
――とにもかくにも、オレはアズキともっと近付きたくて、彼女をものにしたくて堪らない。
(も、もしもオレが、アズキの恋人になれたら……デートしたりとか、手を繋いだりとか……そ、それから……キ、キス……とかも……!?)
「あれ? どうしたんですか、オーロラさん?」
「……はっ!? い、いやいや、何でもないですぞ!」
慌てて取り繕うも、顔は火照ったままだ。今は絶対にオレの顔は赤くなっている。バレないように視線を背けて、ロビーに行く準備をするよう促す。
「それじゃあ、頑張ってこいよ〜」
マスクと別れて、オレはアズキと共にクマサン商会を後にしたのだった。
「報酬だ〜! ありがとうございますー!」
「これで新作ゲームが買えますな〜」
カウンターで各々が報酬を受け取っていると、木彫りの熊を通して再びクマサンに話しかけられる。
「キミたち、もし時間があるなら、少し頼みたいことがあるんだが……良いかな?」
それが何であるのかも聞かず、間髪入れずにアズキは、大丈夫です、と元気に返事をしている。素直すぎて何だか少し心配になってくる。道端でナンパとかされたらホイホイついて行ったりしないだろうか。大丈夫だろうか。
「頼みたいことと言っても、大したことではないよ……ただ、部屋の荷物の片付けをお願いしたくてね」
「それなら、お安い御用ですぞ」
「そこのロッカーの下に、ダンボールが何個か置いてあるだろう……邪魔になるから、そっちの棚の上に移動させておいて……ついでにその周りの掃除もしてくれたまえ」
説明を聞きながら、オレとマスクは一瞬、ぎくり、と反応する。ロッカーの下に置いているダンボールのうちの一つは、シアンチームの私物だ。ロビーのロッカーに入りきらなかった漫画やら同人誌やらをまとめてダンボールに入れて、バイトの休憩時間に読んでいたりするのだ。
「えっと……これを動かせばいいんですね?」
アズキは早速、ダンボールの一つに手を伸ばす。
「ああっ、それは重いから、オレが持つので! アズキ氏は掃除を頼みますぞ」
「はい……分かりました!」
アズキに重い荷物を持たせる訳にはいかない。ここはボーイたるオレが率先して持たなければ、と、荷物運びを買って出る。
(これでやっと、ボーイらしい所を見せられましたぞ……印象に残ってくれると良いんですが……)
「じゃ、それはオレに渡して〜」
マスクはどこからか脚立を持ってきて、棚の前に立て掛ける。
「頼みますぞ〜」
「了解〜」
運び出したダンボールを脚立の上のマスクに渡し、そのまま彼はダンボールを持って脚立を登り始める。
「おっと……マスク、その脚立は危険だ……すぐに降りなさい」
クマサンの声が聞こえて、オレとマスクは首を傾げながら振り向く。
「その脚立は部品が外れていてね……廃棄処分を頼もうとしていた所なんだ。いつ倒れるかも分からないから……」
「なるほど、分かっ……デュ?」
クマサンが言っている傍から、バキ、と嫌な音を立てて、脚立がぐらりと傾く。
「デュフ〜〜〜〜!?」
「え? う、うわ〜〜〜っ!?」
ダンボールを抱えたマスクが、脚立と共に倒れ込む方向にいるのは――箒を手にして、固まったままのアズキ。
「――危ないっ!」
考えるより先に、身体は動いていた。マスクの手を離れて落ちてくるダンボールから庇うように、咄嗟にアズキの目の前に飛び込む。
――ガッシャーン!!
派手な音が部屋中に響き渡って、思わず目をぎゅっと瞑る。オレの背中には、バサバサと何冊かの本が落ちてくる感触はあったが、重いものがぶつかった感触はない。ひとまず自分の身体は無事なようだ。だが、目を開いた途端――
「え……?」
しばしの間、オレは状況が飲み込めず、その場で固まっていた。なぜなら――
……オレは、アズキの上に覆いかぶさり、彼女を床に押し倒すような体勢になっていたからだ。
「アズキ、氏……?」
「オーロラ、さ、ん……?」
互いの吐息がかかりそうな程の至近距離でアズキと目が合って、思考が停止したまま、2、3回、ぱちくりと瞬きをする。気のせいだろうか、戸惑うようにオレをたた見つめる彼女の頬は、ほんの少し紅く染まって――
「……はっ!? アズキ氏!? こ、ここここれは、とんだ失礼をー!!」
ようやく思考が元に戻って、慌ててアズキの元から飛び退く。
「は、はわわ、どうか今回のことは、忘れて頂いて……!」
「い、いえ、そ、そんな……」
「おいおい、二人とも何やってるんだよ。慌てすぎだろ〜」
互いに慌てふためいたままのオレとアズキは、マスクの一言でようやく元に戻る。
「マスク氏は無事ですかな!?」
「オレはちゃんと着地したから無事だよ〜。それより、この散らばった本を片付けないと〜」
「はっ! そうですな!」
部屋の中を見渡すと、マスクが運んでいたダンボールは床にひっくり返っており、中に入っていたシアンチームの私物――漫画と同人誌があちらこちらに散乱している。
「い、一刻も早く片付けなければ! あ、アズキ氏は休憩していて良いですぞ!」
保管していた同人誌の数々を見られて、変な印象を持たれたりしては大変だ。アズキに見られまいと、足元に散らばった同人誌を急いでかき集める。だが、アズキはオレが回収するよりも早く、その中の一冊に手を伸ばす。
「これって……」
「ああっ! アズキ氏! そ、それはオレの私物で……は、早くこちらへー!」
オレの制止も聞かず、アズキは立ち上がって、拾い上げた一冊をパラパラとめくり始める。
「やっぱりそうだ!これって……」
「か、返して欲しいのですぞー!」
――次の瞬間、アズキの目が輝き始めた。
「『乙女戦士イカキュア』の同人誌じゃないですか! 私、これずっと欲しかったんです! もしかして、イカキュア好きなんですかっ!?」
アズキはキラキラ、いやギラギラと目を輝かせて、まくし立てるようにオレの元へと迫る。
「え? す、好きですけど……」
「わーー! 仲間ですね! 私もイカキュア大好きで、二次創作もたくさん見てて! 私、少し前まで地方に住んでたからイベントとか行けなくて、この本欲しかったのに通販してくれなかったから買えなくて困ってて! まさかこんなところで……」
先程までの控えめな態度はどこへやら、一気に捲し立てるようにアズキは話し続けている。
「はっ!? ……す、すみません、一人でベラベラと……」
「い、いや、大丈夫ですぞ」
急に我に返ったようにマシンガントークを止めたアズキは、まだ漫画やら同人誌やらが散らばったままの床をゆっくりと見渡す。
「それにしても……凄い数ですね。これ、もしかして、全部私物なんですか?」
「ここにあるのは全部、シアンチームの私物ですぞ」
「凄いです……! シアンチームの皆さんが漫画やゲームが好きなのは知っていましたけど、こんなに熱心なオタクだったとは……! なんだか、気が合いそうですね!」
「なっ……!?」
てっきり、ここにある同人誌の数々を見られてしまったらドン引きされてしまう、と思っていたが、アズキは違うようだ。それどころか、彼女はどうやらオレ達と同じ、オタクであるらしい。
「あの……良ければもっと、お話ししても……?」
「喜んで……!」
***
それからオレは、アズキと好きなアニメやら漫画やらゲームやらの話に花を咲かせつつ、マスクと共に荷物の片付けを終わらせたのだった。
「オーロラさんもマスクさんも……たくさんお話しできて、楽しかったです! あ、あの、良ければ、フレコを交換しても……?」
「勿論、良いですぞ!」
アズキはイカホを取り出し、オレとマスクとフレコを交換する。――ひとまず、フレコ交換はできたから、第一段階完了、といったところか。問題は、ここから先に進めるか……なのだが。
「と、ところでアズキ氏、良ければこの後、オレとマスク氏と、ナワバリバトルにでも……」
流石にいきなり二人では早すぎるだろうか。何も分からないからひとまずマスクも含めて三人という形で誘ってみる。
「あ、オレはこの後S4会議があるから、オーロラとアズキで行ってきて〜」
「マスク氏〜!?」
「良いですよ、オーロラさん! 一緒に行きましょう!」
「は、はいっ……!」
澄み渡るアズキの笑顔が可愛くて、胸が弾けそうになる。こんなにも可愛い子と出会えて、同じ趣味で仲良くなれて、そしてこれから一緒にナワバリバトルにも行けるだなんて。何気ない日常を、明るい色で一気に塗り返されたようで、目の前にいるアズキも、心の中で思い描くこれからの事も、キラキラと輝いて見える。
(もしかしてこれって、すっごく「リア充」……なのでは……!?)
――とにもかくにも、オレはアズキともっと近付きたくて、彼女をものにしたくて堪らない。
(も、もしもオレが、アズキの恋人になれたら……デートしたりとか、手を繋いだりとか……そ、それから……キ、キス……とかも……!?)
「あれ? どうしたんですか、オーロラさん?」
「……はっ!? い、いやいや、何でもないですぞ!」
慌てて取り繕うも、顔は火照ったままだ。今は絶対にオレの顔は赤くなっている。バレないように視線を背けて、ロビーに行く準備をするよう促す。
「それじゃあ、頑張ってこいよ〜」
マスクと別れて、オレはアズキと共にクマサン商会を後にしたのだった。