Chapter1
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***
「ふむ、キミは随分と飲み込みが早いね……」
「ありがとうございます」
金イクラの運搬に、オオモノシャケの倒し方。一通りの研修を終えて、アズキは上空のスピーカーから流れるクマサンの声に向かって頭を下げる。
「お疲れ様ですぞ、アズキ氏! ところで……バンカラマッチのウデマエはいくらですかな?」
オレはアズキに質問を投げかけてみる。見たところ、ブキの扱いにはかなり慣れているようであったし、おそらくバトルの経験はそれなりにあると思われたからだ。
「私は……S+0ですね」
「おお! ……でしたら、各ブキの特性や立ち回り方に関しての説明はもはや不要ですな。直ぐにでもでんせつ帯に上がれると思いますぞ」
「ほ、本当ですか……?」
アズキが照れたように目を逸らす。その表情がまた可愛いもので、胸の奥がきゅんと疼く。
「さて、これで研修は終わりだが……実は間もなく、ここアラマキ砦にシャケの群れの襲来が予想されていてね……」
スピーカーからクマサンの声が淡々と降り注いできて、オレ達は顔を上げる。
「幸いにしてキケン度は低いようだから……折角の機会だ、アズキ達に最初の仕事を頼もう」
「……へ?」「……え?」「……デュ?」
オレ、アズキ、マスクの三人の目が一斉に点になる。
「丁度、救援のアルバイターも一人呼んでおいたからね。アズキをサポートしつつ、4人で仕事に励んでくれたまえ」
「いきなり何を言っているんだよ、クマサン〜!」
マスクはそう叫びつつも、支給されたスプラローラーを転がしてコンテナ周りを塗り進めている。
「え、えっと、いきなりお仕事、ですか……? 私は何をすれば……」
アズキに支給されたのはN-ZAP85、通称黒ザップだ。一方、オレにはラピッドブラスターが支給された。
「シャケが来る前に、とにかく自陣を塗っておくのが鉄則ですな! 特に、黒ザップのような塗り性能の高いブキは、壁塗りを必ずしておくべきですぞ!」
「わかりました!」
シャケの気配が次第に強くなってくる。緊迫した空気の中、アズキは高台の外周の壁を素早く塗り進めている。
(ここでアズキをしっかりサポートして……良い所を見せなければ、ですな!)
やがて、クマサンのアナウンスの声と同時に、海岸からシャケの群れが姿を現す。
「えっと、オオモノシャケは……テッパンですね! 行きましょう――」
「あ、あぁ! 待って! ……初動のテッパンは寄せるべきですぞ!」
海岸に現れたテッパンの元へとロケットスタートで駆け出していくアズキを、オレは慌てて呼び止める。
「……寄せる?」
黒ザップのインク弾が既に数発当たって動きを止めたテッパンの前で、アズキが振り向く。
「良いですかな、寄せというのは……」
寄せの重要性をアズキに説明しながら、彼女を連れてコンテナの前へと移動する。
「なるほど、勉強になります!」
そうこうしている間に、こちらに釣られてテッパンがコンテナ前へとやって来る。
「今ですぞ!」
アズキが装甲の面を撃っている間に、オレは素早く後ろに回り込んで本体を仕留める。
「やりましたな! このように、オオモノを寄せることで納品の効率が上がるのですぞ!」
そうこうしている間に、どうやら次のオオモノシャケが現れたようだ。モグラが2体、それからダイバーもいる。アズキは教えられた通りにコンテナ前でインクを回復しながら留まり、引き寄せられて来たモグラにボムを投げ、ダイバーの着地点を素早く塗り返す。
(やはりS+帯なだけあって、バイト初心者にしては良い動きですな)
アズキの動きを見ながら関心していると、足元からゴツン、という衝撃音が聞こえてきた。
「これは、えっと……テッキュウですね!」
それに加えて、遠方からビームのように噴射されたインクが自分を狙っていることにも気付く。
「タワーまで……! 害悪三銃士のお出ましですな!」
「害悪三銃士……?」
「テッキュウ、カタパッド、タワーの通称ですな。あいつらは遠距離攻撃をしてくるので危険な上に、寄せることもできないので厄介極まりないのですぞ」
「なるほど……」
「では、オレはタワーを処理してきますぞ!」
この状況でブラスターが真っ先に相手をするべきなのはタワーだ。オレは高台から降りて、海岸のタワーをブラスターの爆風で一気に崩す。後はテッキュウを倒せば一件落着……と思われたそのときだった。
「きゃああーーっ!」
海岸から悲鳴が響く。その声に振り向けば、テッキュウの発射台の横で、ドスコイに吹き飛ばされたアズキが海へと落ちていく最中であった。
「アズキ氏ーー!」
必死の叫びも届かず、アズキの身体は海に溶け、ウキワだけが浮かび上がってくる。
「待っててください、アズキ氏! 今、助けに行きますぞ!」
高台でリッター4Kを構える野良バイターがオオモノを処理している間に、ボムを投げてコジャケを吹き飛ばし、その場に残ったドスコイ達の間を縫って、アズキのウキワにインクを浴びせる。
「助かった……ありがとうございます」
「もう大丈夫ですぞ、アズキ氏! 海岸に長居するのは危険なので、金イクラに固執せずすぐに戻ることですな!」
「す、すみません……!」
「あ、謝ることではありませんぞ! アズキ氏をカバーできなかったオレの責任ですから!」
そうしている間にも時間は進み、金イクラの納品も進んでいく。バイトの先輩として、少しはアズキにいい所を見せられただろうか。そう考えながら、コンテナ周りに散らばった金イクラを次から次へと、アズキと共に納品していく。やがてシャケの気配が引いていく頃には、納品数はノルマを大きく上回っていた。
「いい調子だ……次も頑張ってくれたまえ」
新しいイクラコンテナが設置され、次のウェーブに向けた準備が始まる。次のブキはアズキがラピッドブラスター、オレはスプラローラーだ。
「うぅ、ブラスターって、塗りにくいですね……って、あれ……?」
空が徐々に暗くなっていく。――夜だ。オレとマスク、そして野良バイターの間に、ますます緊迫した空気が漂う。
やがて、自身の身体に、赤いマーカーが照射されていることに気付く。
「――グリルが出てきた……背中の弱点を狙うんだ」
「グリルって……えっ!? ええっ!?」