Chapter4
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***
ビッグランという嵐が過ぎ去った後の空は、透き通るように青く、眩しい。アスファルトに照りつける真昼の陽射しに目を細めながら、行き交う人並みの間を縫って、オレはアズキとの待ち合わせ場所であるロビーへと向かっていた。
通りすがりのロビーの横のラジオブースでは、すりみ連合が何やら番組の収録をしている最中だった。集合時間まではまだ余裕がある。オレはなんとなく、遠目でガラス越しに収録の様子を見てみることにする。
「続いてのニュースは、こちら!」
「てんてけてけてけ……ぽん!」
「エイ!(ビッグランで大事件!? アルバイター、奇跡の救出劇!)」
(おっ、ビッグラン関連のニュースですかな)
オレはラジオブースのガラスにそっと近付いていって、ニュースの内容に耳を傾ける。
「先日のマテガイ放水路でのビッグランで、なんとシャケ達が暴走、クマサン商会のアルバイターの一人が人質に取られてしまうという、恐ろしい事件があったそうや」
「それは大変じゃー!」
(えっ? これって……)
ガラスの向こう側で、他人事のようにすりみ連合が語っている内容――それはまさに、先日のビッグランでオレとアズキの身に起こった出来事ではないか。
(ま、まさか、あの事件がニュースに!?)
オレはそっと身を乗り出して、ブースを凝視する。
「ところが――仲間のアルバイターが、彼女が置いていったスペシャルパウチを使い、無事救出に成功したそうやで!」
「おかげでアルバイターにも街にも被害は無く、無事にマテガイ放水路を取り戻せたってわけじゃな! あっぱれじゃー!」
(こ、これは……完全にオレのことですな……)
オレはどんな顔をしてこの場に居ればいいのか。うろたえるオレには目もくれず、すりみ連合はニュースを続け、オレと同じようにガラス越しに眺めている観衆は、そんな三人の様子に夢中になっている。
「そして……これがその時の映像やで!」
マンタローの手元にある画面に、シャケで埋め尽くされたマテガイ放水路の映像が映し出される。解説によれば、どうやら普段ナワバリバトルの中継に使われている定点カメラが捉えた映像のようだ。画面の中では、顔までは確認できないものの、タツに向かってジェットパックを放ち、落ちてきたアルバイターを腕に抱えて救出する、黒いツナギのアルバイター――オレ自身の姿が、しっかりと映し出されていた。
「エイ!(一歩間違えればこの子にも街にも被害が及ぶかもしれない、絶対絶命の状況の中、彼は勇気ある行動で助けてくれたんだね!)」
(ひ、ひえぇ……)
これはもはや、完全にオレのニュース特集ではないか。注目されることなんて慣れていないオレは、恥ずかしさから一歩後ずさりしようとした――その時だった。
「ん? そこにいるのは……」
ふいに、ガラス越しに視線を向けてきたフウカと、オレはばっちり目が合ってしまう。
「あんさんは……」
「な、何ですかな……?」
覗き込むようにじっとオレの顔を見つめてくる、彼女の視線の圧があまりにも大きくて、オレは一歩後ずさりする。
「あんさんは、人質に取られた子を救出した……シアンチームのオーロラヘッドホンはん、ご本人やないか!」
フウカのその声と同時に、ウツホもマンタローも、そしてブースを眺めていた観衆たちも、一斉に視線をオレに向ける。
「え、ええぇぇ!?」
大勢からの視線の圧に耐えかねて、オレはさらに、ずるずると後ずさりする。
「なんじゃ、逃げるつもりかの?」
「恥ずかしがることはないで! あんさんは、仲間を、そしてこの街を救ってくれた、偉大なヒーローなんや!」
フウカは自信ありげに、扇子でビシッと、オレの方を指す。
「その通りじゃー! もっと誇っていいんじゃぞー!」
「エイ!(彼の勇気ある行動に、みんなで拍手を!)」
マンタローのその合図と共に、すりみ連合も、観衆たちも、そしてたまたま近くを通りがかったらしい人々も、皆、一斉にオレを取り囲んで、盛大な拍手をオレに浴びせる。
「え、ええと、オレはただ、その……! 大したことなどしていない、ただのしがないイカなのに……」
オレは鳴り止まない拍手の勢いに押されるように、小さく縮こまりながらどんどん後ろに下がっていくと――
「オーロラくん!!」
ふいに耳に飛び込んでくる、聞き慣れた声。
「――アズキ氏!?」
声のする方を振り向けば、観衆たちの間をかき分けながら、アズキがこちらに走り寄ってくる。
「い、いつからそこに!?」
「フウカがオーロラくんのことを見つけた時からかな」
「え、じゃあ、この騒ぎも見られて――」
オレはさらに腰を低くしながらじりじりと後ずさりするが、身体が壁に当たってこれ以上は下がれそうにない。そんなオレに、アズキは――
「……すごいじゃん、オーロラくん! 名実共に、みんなのヒーローだね! とってもかっこいいよ!」
「アズキ氏まで〜〜!?」
顔に熱が上っていくのを感じる。きっと今、オレの顔は真っ赤になっているに違いない。
「も、もう勘弁して欲しいですぞ〜〜!」
オレはアズキの腕を強引に掴むと、にこやかに見守る観衆から逃げるように、アズキを引っ張ってロビーへと駆け込んだのだった。
「はぁ、はぁ……」
ロビーの売店の横のソファに腰掛けて、弾んだ呼吸を整えていると、「私ね……」と、アズキは思い出したように口を開く。
「マスクくん達やクマサンから、あの時の話を聞いたの。オーロラくん、私のために勇気を出して、頑張ってくれたんだって」
「まだその話ですかな……?」
「いいから聞いて。それでね、助けてもらった時もそうなんだけど、私、改めて思ったんだ。やっぱりオーロラくんは――「まっすぐ」だって」
「えっ……?」
そういえば――オレとアズキが初めて出会ったあの日、一緒に出かけたキンメダイ美術館でも、同じことを言われていた気がする。
「それは一体、どういうことですかな?」
オレが尋ねると、アズキはその澄んだ瞳にオレを映しながら、笑顔で語り始める。
「初めて会ったあの日から、ずっと思ってたんだ。オーロラくんは、誰かを守るために、一生懸命になれる……そんな所が、かっこいいって」
「か、かっこいい、ですとな……!?」
そんなことを言われるのは初めてだ。オレは自身の耳を疑う。さりげなく自分の頬をつねってみるが――どうやら夢なんかではないらしい。
「普段は慎重なのに、誰かのピンチの時には、迷わず動き出す……オーロラくんのそんな所が、「まっすぐ」で――だからこそ、私は好きなんだ、オーロラくんのこと」
「ぴゃあっ!?」
晴れ晴れとした笑顔で、彼女は「好き」と告げるので、オレは思わず変な声を上げてしまう。
……顔が熱い。またしてもオレの顔は真っ赤になっているのだろうか。
「あっ、でも……今みたいに、困ってるところも可愛くて好き!」
「ひえぇぇ〜〜……や、やめるんですぞ、そんなオーバーキルは……」
屈託の無い笑顔のまま、堂々とそんな風に言われたら――恥ずかしさのあまり、顔から湯気でも出てきそうだ。
「と、ととととにかく! ナワバリバトルの参加受付、してきますぞ!」
えー、とまだ何か言いたげなアズキを置いて、オレは逃げるようにスタッフの元に向かったのだった。
***
オレとアズキは、共に同じチームのスポナーから姿を現す。今から行われるナワバリバトルのステージは――マテガイ放水路だ。
「良かった……すっかり元のマテガイ放水路に戻ってるね」
上空からステージを見下ろしながら、アズキは小さくそう呟く。おどろおどろしい色に染まっていた水路は元の澄んだ色になり、天井に空いた穴からは温かな陽光が降り注いで、地面に咲いた小さな花を照らし出している。
「この景色を……オレ達みんなで守ったんだと思うと、感慨深いですな」
オレは麗らかな風景をぐるりと見渡してから、スポナーに潜り込む。
『レディー……ゴー!』
バトルの始まりを告げる合図と共に、アズキは真っ先に中央へと飛び出していく。一方でオレは塗りを整えながら、潜伏して敵の出方を伺う。
(中央に向かってくる敵がいますな。この辺りで待ち構えておけば……)
オレが物陰でじっと構えて、ポイズンミストを投げるタイミングを窺っていると、前方からスパッタリーのスライドの音と同時に、「わーーっ!」と、アズキの悲鳴が上がる。
「アズキ氏ーー! 早速やられてるーー!?」
アズキは相変わらず考え無しに飛び出していってしまうもんだから、オレの思考も動きも、とても追いつかない。アズキを狙う敵を見つけても、次の瞬間にはアズキはスライドで飛び出していって――素早く倒してしまうか、あっさり返り討ちにされるか、その両極端だ。
「ごめーん!!」
彼女はそう言いながら、オレの元にスーパージャンプで復帰してくる。
「大丈夫ですぞ、カバーできなかったオレの責任でもありますからな……って、アズキ氏〜!?」
「そこだーーっ!」
オレが言い終わらないうちに、アズキは近くの敵に向かって一気に距離を詰めていく。
「アズキ氏、まずは落ち着いて……オレも加勢しますぞーーっ!」
敵に向けて勢いよくポイズンミストを投げるが――相手もマニューバーだ。素早く霧の中から抜け出すと、そのままアズキの背後に回り込んで倒してしまう。
「きゃーっ!」
「アズキ氏!」
リスポーンへと飛ばされていくアズキを横目で見送りながら、オレは小さな悔しさを噛みしめる。今のオレの力ではやはり、アズキを守るにはまだまだ未熟なのだということを思い知らされる。だけど――
「お待たせ、オーロラくん!」
「オレのスペシャルが溜まったから、ここから立て直していきますぞ!」
再びアズキが復帰してくると同時に、オレはジェットパックを発動する。空高く舞い上がって、一発、また一発と、敵目がけてランチャーを放つ。
「アズキ氏! 危ないっ!」
アズキを背後から狙う敵の存在に気付いて、オレは急いで、けれど冷静に狙いを定めて、ランチャーを放つ。放たれた弾は――しっかりと敵に直撃して、見事にキルを取った。
「オーロラくん、ナイス!」
アズキのその声を聞くと同時に、ジェットパックの効果時間が切れる。着地点を狙ってくる敵を受け身術でひらりと躱すと、そのままアズキと挟み撃ちにして倒す。
「やった、ワイプアウトだ! オーロラくん、かっこいい〜!」
「はは、アズキにそう言われると、やっぱり照れますな……とにもかくにも、今が大チャンスですぞ!」
オレとアズキは、互いを励まし合いながら、共に敵陣側へと駆け出していった。
今のオレは、彼女を守るにはきっと、まだまだ未熟で、不器用な存在だ。だがそれでも、「アズキを守りたい」という真っ直ぐなその想いだけは、これから先も決して曲げることはないと、自信を持って言える。だからこそオレは、挑み続け、そしてもっともっと成長していくのだ。
不器用でも、未熟でも、カッコ悪くても――誰かを守るための、小さな「ヒーロー」として。
『初恋と不器用なヒーロー』 -fin.-
ビッグランという嵐が過ぎ去った後の空は、透き通るように青く、眩しい。アスファルトに照りつける真昼の陽射しに目を細めながら、行き交う人並みの間を縫って、オレはアズキとの待ち合わせ場所であるロビーへと向かっていた。
通りすがりのロビーの横のラジオブースでは、すりみ連合が何やら番組の収録をしている最中だった。集合時間まではまだ余裕がある。オレはなんとなく、遠目でガラス越しに収録の様子を見てみることにする。
「続いてのニュースは、こちら!」
「てんてけてけてけ……ぽん!」
「エイ!(ビッグランで大事件!? アルバイター、奇跡の救出劇!)」
(おっ、ビッグラン関連のニュースですかな)
オレはラジオブースのガラスにそっと近付いていって、ニュースの内容に耳を傾ける。
「先日のマテガイ放水路でのビッグランで、なんとシャケ達が暴走、クマサン商会のアルバイターの一人が人質に取られてしまうという、恐ろしい事件があったそうや」
「それは大変じゃー!」
(えっ? これって……)
ガラスの向こう側で、他人事のようにすりみ連合が語っている内容――それはまさに、先日のビッグランでオレとアズキの身に起こった出来事ではないか。
(ま、まさか、あの事件がニュースに!?)
オレはそっと身を乗り出して、ブースを凝視する。
「ところが――仲間のアルバイターが、彼女が置いていったスペシャルパウチを使い、無事救出に成功したそうやで!」
「おかげでアルバイターにも街にも被害は無く、無事にマテガイ放水路を取り戻せたってわけじゃな! あっぱれじゃー!」
(こ、これは……完全にオレのことですな……)
オレはどんな顔をしてこの場に居ればいいのか。うろたえるオレには目もくれず、すりみ連合はニュースを続け、オレと同じようにガラス越しに眺めている観衆は、そんな三人の様子に夢中になっている。
「そして……これがその時の映像やで!」
マンタローの手元にある画面に、シャケで埋め尽くされたマテガイ放水路の映像が映し出される。解説によれば、どうやら普段ナワバリバトルの中継に使われている定点カメラが捉えた映像のようだ。画面の中では、顔までは確認できないものの、タツに向かってジェットパックを放ち、落ちてきたアルバイターを腕に抱えて救出する、黒いツナギのアルバイター――オレ自身の姿が、しっかりと映し出されていた。
「エイ!(一歩間違えればこの子にも街にも被害が及ぶかもしれない、絶対絶命の状況の中、彼は勇気ある行動で助けてくれたんだね!)」
(ひ、ひえぇ……)
これはもはや、完全にオレのニュース特集ではないか。注目されることなんて慣れていないオレは、恥ずかしさから一歩後ずさりしようとした――その時だった。
「ん? そこにいるのは……」
ふいに、ガラス越しに視線を向けてきたフウカと、オレはばっちり目が合ってしまう。
「あんさんは……」
「な、何ですかな……?」
覗き込むようにじっとオレの顔を見つめてくる、彼女の視線の圧があまりにも大きくて、オレは一歩後ずさりする。
「あんさんは、人質に取られた子を救出した……シアンチームのオーロラヘッドホンはん、ご本人やないか!」
フウカのその声と同時に、ウツホもマンタローも、そしてブースを眺めていた観衆たちも、一斉に視線をオレに向ける。
「え、ええぇぇ!?」
大勢からの視線の圧に耐えかねて、オレはさらに、ずるずると後ずさりする。
「なんじゃ、逃げるつもりかの?」
「恥ずかしがることはないで! あんさんは、仲間を、そしてこの街を救ってくれた、偉大なヒーローなんや!」
フウカは自信ありげに、扇子でビシッと、オレの方を指す。
「その通りじゃー! もっと誇っていいんじゃぞー!」
「エイ!(彼の勇気ある行動に、みんなで拍手を!)」
マンタローのその合図と共に、すりみ連合も、観衆たちも、そしてたまたま近くを通りがかったらしい人々も、皆、一斉にオレを取り囲んで、盛大な拍手をオレに浴びせる。
「え、ええと、オレはただ、その……! 大したことなどしていない、ただのしがないイカなのに……」
オレは鳴り止まない拍手の勢いに押されるように、小さく縮こまりながらどんどん後ろに下がっていくと――
「オーロラくん!!」
ふいに耳に飛び込んでくる、聞き慣れた声。
「――アズキ氏!?」
声のする方を振り向けば、観衆たちの間をかき分けながら、アズキがこちらに走り寄ってくる。
「い、いつからそこに!?」
「フウカがオーロラくんのことを見つけた時からかな」
「え、じゃあ、この騒ぎも見られて――」
オレはさらに腰を低くしながらじりじりと後ずさりするが、身体が壁に当たってこれ以上は下がれそうにない。そんなオレに、アズキは――
「……すごいじゃん、オーロラくん! 名実共に、みんなのヒーローだね! とってもかっこいいよ!」
「アズキ氏まで〜〜!?」
顔に熱が上っていくのを感じる。きっと今、オレの顔は真っ赤になっているに違いない。
「も、もう勘弁して欲しいですぞ〜〜!」
オレはアズキの腕を強引に掴むと、にこやかに見守る観衆から逃げるように、アズキを引っ張ってロビーへと駆け込んだのだった。
「はぁ、はぁ……」
ロビーの売店の横のソファに腰掛けて、弾んだ呼吸を整えていると、「私ね……」と、アズキは思い出したように口を開く。
「マスクくん達やクマサンから、あの時の話を聞いたの。オーロラくん、私のために勇気を出して、頑張ってくれたんだって」
「まだその話ですかな……?」
「いいから聞いて。それでね、助けてもらった時もそうなんだけど、私、改めて思ったんだ。やっぱりオーロラくんは――「まっすぐ」だって」
「えっ……?」
そういえば――オレとアズキが初めて出会ったあの日、一緒に出かけたキンメダイ美術館でも、同じことを言われていた気がする。
「それは一体、どういうことですかな?」
オレが尋ねると、アズキはその澄んだ瞳にオレを映しながら、笑顔で語り始める。
「初めて会ったあの日から、ずっと思ってたんだ。オーロラくんは、誰かを守るために、一生懸命になれる……そんな所が、かっこいいって」
「か、かっこいい、ですとな……!?」
そんなことを言われるのは初めてだ。オレは自身の耳を疑う。さりげなく自分の頬をつねってみるが――どうやら夢なんかではないらしい。
「普段は慎重なのに、誰かのピンチの時には、迷わず動き出す……オーロラくんのそんな所が、「まっすぐ」で――だからこそ、私は好きなんだ、オーロラくんのこと」
「ぴゃあっ!?」
晴れ晴れとした笑顔で、彼女は「好き」と告げるので、オレは思わず変な声を上げてしまう。
……顔が熱い。またしてもオレの顔は真っ赤になっているのだろうか。
「あっ、でも……今みたいに、困ってるところも可愛くて好き!」
「ひえぇぇ〜〜……や、やめるんですぞ、そんなオーバーキルは……」
屈託の無い笑顔のまま、堂々とそんな風に言われたら――恥ずかしさのあまり、顔から湯気でも出てきそうだ。
「と、ととととにかく! ナワバリバトルの参加受付、してきますぞ!」
えー、とまだ何か言いたげなアズキを置いて、オレは逃げるようにスタッフの元に向かったのだった。
***
オレとアズキは、共に同じチームのスポナーから姿を現す。今から行われるナワバリバトルのステージは――マテガイ放水路だ。
「良かった……すっかり元のマテガイ放水路に戻ってるね」
上空からステージを見下ろしながら、アズキは小さくそう呟く。おどろおどろしい色に染まっていた水路は元の澄んだ色になり、天井に空いた穴からは温かな陽光が降り注いで、地面に咲いた小さな花を照らし出している。
「この景色を……オレ達みんなで守ったんだと思うと、感慨深いですな」
オレは麗らかな風景をぐるりと見渡してから、スポナーに潜り込む。
『レディー……ゴー!』
バトルの始まりを告げる合図と共に、アズキは真っ先に中央へと飛び出していく。一方でオレは塗りを整えながら、潜伏して敵の出方を伺う。
(中央に向かってくる敵がいますな。この辺りで待ち構えておけば……)
オレが物陰でじっと構えて、ポイズンミストを投げるタイミングを窺っていると、前方からスパッタリーのスライドの音と同時に、「わーーっ!」と、アズキの悲鳴が上がる。
「アズキ氏ーー! 早速やられてるーー!?」
アズキは相変わらず考え無しに飛び出していってしまうもんだから、オレの思考も動きも、とても追いつかない。アズキを狙う敵を見つけても、次の瞬間にはアズキはスライドで飛び出していって――素早く倒してしまうか、あっさり返り討ちにされるか、その両極端だ。
「ごめーん!!」
彼女はそう言いながら、オレの元にスーパージャンプで復帰してくる。
「大丈夫ですぞ、カバーできなかったオレの責任でもありますからな……って、アズキ氏〜!?」
「そこだーーっ!」
オレが言い終わらないうちに、アズキは近くの敵に向かって一気に距離を詰めていく。
「アズキ氏、まずは落ち着いて……オレも加勢しますぞーーっ!」
敵に向けて勢いよくポイズンミストを投げるが――相手もマニューバーだ。素早く霧の中から抜け出すと、そのままアズキの背後に回り込んで倒してしまう。
「きゃーっ!」
「アズキ氏!」
リスポーンへと飛ばされていくアズキを横目で見送りながら、オレは小さな悔しさを噛みしめる。今のオレの力ではやはり、アズキを守るにはまだまだ未熟なのだということを思い知らされる。だけど――
「お待たせ、オーロラくん!」
「オレのスペシャルが溜まったから、ここから立て直していきますぞ!」
再びアズキが復帰してくると同時に、オレはジェットパックを発動する。空高く舞い上がって、一発、また一発と、敵目がけてランチャーを放つ。
「アズキ氏! 危ないっ!」
アズキを背後から狙う敵の存在に気付いて、オレは急いで、けれど冷静に狙いを定めて、ランチャーを放つ。放たれた弾は――しっかりと敵に直撃して、見事にキルを取った。
「オーロラくん、ナイス!」
アズキのその声を聞くと同時に、ジェットパックの効果時間が切れる。着地点を狙ってくる敵を受け身術でひらりと躱すと、そのままアズキと挟み撃ちにして倒す。
「やった、ワイプアウトだ! オーロラくん、かっこいい〜!」
「はは、アズキにそう言われると、やっぱり照れますな……とにもかくにも、今が大チャンスですぞ!」
オレとアズキは、互いを励まし合いながら、共に敵陣側へと駆け出していった。
今のオレは、彼女を守るにはきっと、まだまだ未熟で、不器用な存在だ。だがそれでも、「アズキを守りたい」という真っ直ぐなその想いだけは、これから先も決して曲げることはないと、自信を持って言える。だからこそオレは、挑み続け、そしてもっともっと成長していくのだ。
不器用でも、未熟でも、カッコ悪くても――誰かを守るための、小さな「ヒーロー」として。
『初恋と不器用なヒーロー』 -fin.-
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