Chapter4
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「あっちの段差の上が安置だから、皆で集合するよ〜」
マスクの合図で、シャケが登ってくることのできない小さな段差の上に全員で密集する。
「オーロラ、壁役はお願い!」
「任せましたぞ!」
オレはダイナモローラーを地面に押し付け、シャケを轢き潰せるようにしっかりと構える。
「――来た!」
凄まじい足音と共に、何かに取り憑かれたようにぎらぎらと目を光らせたシャケの群れが、波のように押し寄せてくる。
「アズキ氏! オレの後ろから離れるんじゃないですぞ!」
「わかった!」
勢いよく押し寄せるシャケの大群が、ローラーに轢かれてあっという間に溶けていく。一度の轢きでは倒せないキンシャケと衝突する時の衝撃で後ろに押されてしまわぬよう、ローラーを持つ腕に力を込めて耐えながら、オレは三人を守るように待ち構える。
「これ、納品間に合う〜?」
「結構動かないと、足りなくなるかも」
「私、今ターゲットになったから、動かない方が良いよね……」
「アズキちゃんはそこでキンシャケを狙ってて!」
狂シャケの処理が順調に進む中、納品数に不安を感じたらしいマスクとジャージーは、段差を降りて納品に向かう。コンテナ周りを一心不乱に駆け抜けるシャケたちを躱しながら、二人は散らばった金イクラを集めてはカゴに入れる。そしてアズキは段差の上からチャージャーでキンシャケを狙い、オレはローラーを構えてひたすらにシャケを潰していく。
「よし、納品も順調……って、しまった!」
纏わり付く光の粒が、アズキからコンテナ横にいるジャージーに移る。その瞬間、瞬きさえする間もなくシャケの群れは一斉にジャージーに標的を変えて襲いかかる。
「お、おい、早く戻って、って……うわっ!?」
次の標的となったマスクもあっという間に狂シャケに囲まれ、ウキワとなってしまう。
「ジャージー氏! マスク氏!」
ターゲットは再び、段差の上にいるアズキに移る。ローラーのオレがまだ残っているからどうにか持ち堪えたが、インクの残量はあと僅か。このままウェーブが終わるまでローラーを構え続けられる状況ではないし、何より納品数がまだ足りていない。
「アズキ氏、二人の救助を頼めますかな?」
「い、行けるけど、インクが……!」
アズキのインクもどうやら無くなってしまったらしい。オレは止めどなく押し寄せるシャケの大群と、それに混じって襲いかかるキンシャケにローラーを叩きつけられ、じりじりと後ろに追いやられていく。
「このままじゃ……よし、私がスペシャルを使う!」
アズキが咄嗟にスペシャルパウチを切り、ジェットパックを発動して高く舞い上がる。
「私が時間を稼ぐから、早く納品を!」
シャケ達は目をぎらぎらと見開いて、宙を舞うアズキへ飛びかかろうとするが、高く飛び上がったアズキには届くことはなく、ジェットの噴射とランチャーで次々に溶かされていく。
「ナイス、アズキちゃん!」
「急げ急げーっ!」
アズキが放つランチャーが降り注ぐ中、救助されたマスクとジャージーは忙しなく金イクラを拾い集めて次々とコンテナに放り込んでいく。
「よし、納品はクリア! 後は頼んだよ、オーロラくん!」
ターゲットとなる光の粒は、いつの間にかオレに移っていた。インクを回復したオレは今度こそ皆の元にシャケを寄せ付けまいと、再びローラーを構える。
「残り3……2……1……よし、クリアー!」
「何とか乗り切れましたな。ローラーがあって良かったですぞ」
シャケの群れが一斉に引き返していき、辺りが静かになったのを確認して、ひとまず安堵のため息をつく。だが、このステージ全体に立ち込める、恐ろしい敵の気配は未だ消えることは無い。決してまだ終わりではないと、思考の中で情報を読み取るより先に、本能がそう告げている。
水面が一気に引いていき、最終ウェーブへのカウントダウンが始まる。今度は干潮――中央の通路での戦いだ。
(クリアまであと少し……守りきってみせますぞ!)
オレは支給されたブキを確認する――わかばシューターだ。一方アズキは、「何これ……見たことない!」と歓声を上げている。
「それは……クマサン印のチャージャーですな! 即フルチャージ状態でリッター並の射程を持つ貫通弾、チャージャーの名を冠していながらチャージという概念の無い……」
仲間がレアブキを引いたことに興奮して、ついいつもの癖で早口で解説を入れてしまうが――直ぐに、辺りの景色の変化で現実に引き戻される。
再び空が暗くなり始め、さらに霧までもが立ち込め始める。
「霧だ……!」
「アズキはすぐ遠くに行ってしまいますからな……はぐれないように、必ず「カモン」で知らせるのですぞ!」
「分かった!」
ただでさえ狭い通路を塞ぐように、視界は濃い霧に覆われている。だが、こちらにはまだスペシャルが残っているし、クマサン印のチャージャーもある。またアズキが考え無しに飛び出して行かないかが不安だが、オレのブキは塗りに優れたわかばシューターだから、彼女が動けるように精一杯サポートしてやれば大丈夫なはずだ。
やがて、最終ウェーブ開始の合図と共に、辺りにシャケの足音が響き始める。真っ白な霧に包まれ先の見えない不安の中、オレは霧の向こう側に見える僅かな影と、通路に反響する音だけを頼りにオオモノシャケを探す。そして、最初に聞こえてきたのは、ドリルの音と歪んだ歌声――ハシラだ。
「アズキ氏、壁塗りを頼みますぞ」
「了解!」
アズキがハシラの壁を塗り、オレはその面を登ってコジャケ達を片付ける。そうしている間にも、アズキはズドン、ズドンと次々に射撃音を響かせて、コンテナ近くに這い寄るテッパンやモグラを撃ち抜いていく。順調そうだな、と安心したのも束の間、足下をミサイルの予告円が取り囲む。
「カタパだ! どっちから?」
「反対側ですな」
急いでカタパッドを探そうと駆け出していくオレとアズキに、マスクが声をかける。
「ここは二手に分かれよう、オレとジャージーがあっち側を見るから、オーロラとアズキはそっちを頼んだよ〜」
「了解ですぞ!」
オレは力強く頷く。マスクとジャージーが通路を挟んで反対側にいるであろうカタパッドを探しに、霧の向こう側に消えていったのを見届けてから、オレは改めて周囲を確認する。
「こっちからは……タワー、それにバクダンも来てますな」
「よし、バクダンは私が見ておくよ!」
アズキがバクダンを処理している間、オレはザコシャケの群れをかき分けてタワーの元へ向かう。だが、行く手を塞ぐように現れたヘビに阻まれ、さらにドスコイに退路を絶たれ、吹き飛ばされて地面に叩きつけられたオレが立ち上がれないよう足下を掬うかの如く、コジャケにとどめを刺されてしまう。
「しまった……!」
「オーロラくん!」
ウキワとなってしまったオレの元にアズキが駆け寄ろうとするも、アズキは目の前に迫って来るモグラとテッパン、そしてドスコイの集団を避けるだけでただただ精一杯なようだ。
「イ、インクが……って、うわあぁー!」
通路を挟んで反対側からは、いつの間にやらタワーのハイパープレッサーにカタパッドのミサイルにテッキュウのウェーブと、ありとあらゆる攻撃が飛んでくる三重苦の状態と化していた。立ち込める霧の向こう側、姿も見えない敵にただひたすらに蹂躙され、足の踏み場さえない恐怖。それをさらに掻き立てるように、コウモリの雨とハシラの歌までもが降り注ぐ。
はぐれないように、オレを頼るように。そう伝えていたにも関わらず、オレ自身のデスから崩れていって失敗など――そんな情けない結末は、何としてでも避けなければいけない。
「ど、どうしようオーロラくん……!」
「アズキ氏! 早くスペシャルを!」
「そうだ、まだジェッパ残ってたの忘れてた!」
アズキは咄嗟にスペシャルパウチに手を伸ばし、フライパンを大きく振りかぶって襲いかかるドスコイをすんでの所で躱して、ジェットパックで高く飛び上がる。
「こっちにもあるよ〜」
霧の向こう側で、マスクがナイスダマを発動し、さらにジャージーはサメライドを発動する。
「待っててオーロラくん、今助けるから!」
上空からランチャーを放ちながら、アズキはオレを救助し、タワーを崩し、通路を塞ぐドスコイの群れを蹴散らしていく。霧に遮られた視界の向こうでも、立て続けに放たれたスペシャルによってオオモノは軒並み片付いたのか、遠距離攻撃が止んで少し動きやすくなったようだ。
「オーロラ、納品は間に合いそうか?」
遠くからジャージーの声が聞こえる。
「金イクラの数は足りそうですな。でも、コンテナ周りはまだシャケだらけですぞ」
3人が全力でオオモノを倒している間に、オレはキンシャケを寄せて倒しながら納品を進めていく。だが、その間にもモグラやテッパン、そしてダイバーが容赦なく足場を奪っていく。
「よし、こうなったら……!」
オレは残っていたカニタンクを発動させると、防御形態になって転がり、押し寄せるシャケから身を守りながら次々に金イクラを拾い集めてコンテナに収めていく。
「まだ耐えられる、まだ……!」
モグラの追撃を振り切り、コジャケの群れを轢き潰しながら、必死に金イクラを拾っては入れ、拾っては入れ、を繰り返す。
「私たちも! みんな、全力で納品するよ!」
残り10秒。シャケの猛攻から全身全霊で逃げ回りながら、霧の中に散らばった金イクラを全員で拾い集めては、ひたすらにコンテナに投げ入れていく。
「あと1個……足りるか!?」
「これを!」
残り1秒――汗だくになりながらも、全員で戦場を走り抜け、コンテナに金イクラを投げ入れて――
「ノルマクリア――間に合った……!!」
最終ウェーブを無事に乗り切ったことを告げるファンファーレが、スピーカー越しに響く。立ち込めていた霧も晴れていき、共に協力し合ったアズキと仲間の姿も、はっきりと視界に映る。
「はぁ……はぁ……やったね、成功だよ……!」
息を切らしながらも、無事に仕事を終えられたことを喜び、オレの元に駆け寄ってくるアズキ。
――だが、それを遮るように、ジャージーが緊迫した声を上げる。
「待って……まだ終わりじゃない!」
「えっ――」
アズキが驚いて振り返り、オレも顔を上げる。次の瞬間、けたたましい警報音が鳴り響き、鼓膜を揺さぶる。霧が晴れた空は、先程よりも更に赤く、不吉な色に染められていく。
全員が固唾を飲んで、ステージを越えた先、遥か遠くを見つめる――その時だった。
遠く、水面から飛沫を上げて、黒く、巨大な長い影が姿を現す。
「――ギャオオオォォォォーーーーーーッ!!」
空を、地面を、全ての空気を揺るがすような激しい咆哮が、耳を劈く。
「あれは――オカシラシャケ、タツだ……!」
マスクの合図で、シャケが登ってくることのできない小さな段差の上に全員で密集する。
「オーロラ、壁役はお願い!」
「任せましたぞ!」
オレはダイナモローラーを地面に押し付け、シャケを轢き潰せるようにしっかりと構える。
「――来た!」
凄まじい足音と共に、何かに取り憑かれたようにぎらぎらと目を光らせたシャケの群れが、波のように押し寄せてくる。
「アズキ氏! オレの後ろから離れるんじゃないですぞ!」
「わかった!」
勢いよく押し寄せるシャケの大群が、ローラーに轢かれてあっという間に溶けていく。一度の轢きでは倒せないキンシャケと衝突する時の衝撃で後ろに押されてしまわぬよう、ローラーを持つ腕に力を込めて耐えながら、オレは三人を守るように待ち構える。
「これ、納品間に合う〜?」
「結構動かないと、足りなくなるかも」
「私、今ターゲットになったから、動かない方が良いよね……」
「アズキちゃんはそこでキンシャケを狙ってて!」
狂シャケの処理が順調に進む中、納品数に不安を感じたらしいマスクとジャージーは、段差を降りて納品に向かう。コンテナ周りを一心不乱に駆け抜けるシャケたちを躱しながら、二人は散らばった金イクラを集めてはカゴに入れる。そしてアズキは段差の上からチャージャーでキンシャケを狙い、オレはローラーを構えてひたすらにシャケを潰していく。
「よし、納品も順調……って、しまった!」
纏わり付く光の粒が、アズキからコンテナ横にいるジャージーに移る。その瞬間、瞬きさえする間もなくシャケの群れは一斉にジャージーに標的を変えて襲いかかる。
「お、おい、早く戻って、って……うわっ!?」
次の標的となったマスクもあっという間に狂シャケに囲まれ、ウキワとなってしまう。
「ジャージー氏! マスク氏!」
ターゲットは再び、段差の上にいるアズキに移る。ローラーのオレがまだ残っているからどうにか持ち堪えたが、インクの残量はあと僅か。このままウェーブが終わるまでローラーを構え続けられる状況ではないし、何より納品数がまだ足りていない。
「アズキ氏、二人の救助を頼めますかな?」
「い、行けるけど、インクが……!」
アズキのインクもどうやら無くなってしまったらしい。オレは止めどなく押し寄せるシャケの大群と、それに混じって襲いかかるキンシャケにローラーを叩きつけられ、じりじりと後ろに追いやられていく。
「このままじゃ……よし、私がスペシャルを使う!」
アズキが咄嗟にスペシャルパウチを切り、ジェットパックを発動して高く舞い上がる。
「私が時間を稼ぐから、早く納品を!」
シャケ達は目をぎらぎらと見開いて、宙を舞うアズキへ飛びかかろうとするが、高く飛び上がったアズキには届くことはなく、ジェットの噴射とランチャーで次々に溶かされていく。
「ナイス、アズキちゃん!」
「急げ急げーっ!」
アズキが放つランチャーが降り注ぐ中、救助されたマスクとジャージーは忙しなく金イクラを拾い集めて次々とコンテナに放り込んでいく。
「よし、納品はクリア! 後は頼んだよ、オーロラくん!」
ターゲットとなる光の粒は、いつの間にかオレに移っていた。インクを回復したオレは今度こそ皆の元にシャケを寄せ付けまいと、再びローラーを構える。
「残り3……2……1……よし、クリアー!」
「何とか乗り切れましたな。ローラーがあって良かったですぞ」
シャケの群れが一斉に引き返していき、辺りが静かになったのを確認して、ひとまず安堵のため息をつく。だが、このステージ全体に立ち込める、恐ろしい敵の気配は未だ消えることは無い。決してまだ終わりではないと、思考の中で情報を読み取るより先に、本能がそう告げている。
水面が一気に引いていき、最終ウェーブへのカウントダウンが始まる。今度は干潮――中央の通路での戦いだ。
(クリアまであと少し……守りきってみせますぞ!)
オレは支給されたブキを確認する――わかばシューターだ。一方アズキは、「何これ……見たことない!」と歓声を上げている。
「それは……クマサン印のチャージャーですな! 即フルチャージ状態でリッター並の射程を持つ貫通弾、チャージャーの名を冠していながらチャージという概念の無い……」
仲間がレアブキを引いたことに興奮して、ついいつもの癖で早口で解説を入れてしまうが――直ぐに、辺りの景色の変化で現実に引き戻される。
再び空が暗くなり始め、さらに霧までもが立ち込め始める。
「霧だ……!」
「アズキはすぐ遠くに行ってしまいますからな……はぐれないように、必ず「カモン」で知らせるのですぞ!」
「分かった!」
ただでさえ狭い通路を塞ぐように、視界は濃い霧に覆われている。だが、こちらにはまだスペシャルが残っているし、クマサン印のチャージャーもある。またアズキが考え無しに飛び出して行かないかが不安だが、オレのブキは塗りに優れたわかばシューターだから、彼女が動けるように精一杯サポートしてやれば大丈夫なはずだ。
やがて、最終ウェーブ開始の合図と共に、辺りにシャケの足音が響き始める。真っ白な霧に包まれ先の見えない不安の中、オレは霧の向こう側に見える僅かな影と、通路に反響する音だけを頼りにオオモノシャケを探す。そして、最初に聞こえてきたのは、ドリルの音と歪んだ歌声――ハシラだ。
「アズキ氏、壁塗りを頼みますぞ」
「了解!」
アズキがハシラの壁を塗り、オレはその面を登ってコジャケ達を片付ける。そうしている間にも、アズキはズドン、ズドンと次々に射撃音を響かせて、コンテナ近くに這い寄るテッパンやモグラを撃ち抜いていく。順調そうだな、と安心したのも束の間、足下をミサイルの予告円が取り囲む。
「カタパだ! どっちから?」
「反対側ですな」
急いでカタパッドを探そうと駆け出していくオレとアズキに、マスクが声をかける。
「ここは二手に分かれよう、オレとジャージーがあっち側を見るから、オーロラとアズキはそっちを頼んだよ〜」
「了解ですぞ!」
オレは力強く頷く。マスクとジャージーが通路を挟んで反対側にいるであろうカタパッドを探しに、霧の向こう側に消えていったのを見届けてから、オレは改めて周囲を確認する。
「こっちからは……タワー、それにバクダンも来てますな」
「よし、バクダンは私が見ておくよ!」
アズキがバクダンを処理している間、オレはザコシャケの群れをかき分けてタワーの元へ向かう。だが、行く手を塞ぐように現れたヘビに阻まれ、さらにドスコイに退路を絶たれ、吹き飛ばされて地面に叩きつけられたオレが立ち上がれないよう足下を掬うかの如く、コジャケにとどめを刺されてしまう。
「しまった……!」
「オーロラくん!」
ウキワとなってしまったオレの元にアズキが駆け寄ろうとするも、アズキは目の前に迫って来るモグラとテッパン、そしてドスコイの集団を避けるだけでただただ精一杯なようだ。
「イ、インクが……って、うわあぁー!」
通路を挟んで反対側からは、いつの間にやらタワーのハイパープレッサーにカタパッドのミサイルにテッキュウのウェーブと、ありとあらゆる攻撃が飛んでくる三重苦の状態と化していた。立ち込める霧の向こう側、姿も見えない敵にただひたすらに蹂躙され、足の踏み場さえない恐怖。それをさらに掻き立てるように、コウモリの雨とハシラの歌までもが降り注ぐ。
はぐれないように、オレを頼るように。そう伝えていたにも関わらず、オレ自身のデスから崩れていって失敗など――そんな情けない結末は、何としてでも避けなければいけない。
「ど、どうしようオーロラくん……!」
「アズキ氏! 早くスペシャルを!」
「そうだ、まだジェッパ残ってたの忘れてた!」
アズキは咄嗟にスペシャルパウチに手を伸ばし、フライパンを大きく振りかぶって襲いかかるドスコイをすんでの所で躱して、ジェットパックで高く飛び上がる。
「こっちにもあるよ〜」
霧の向こう側で、マスクがナイスダマを発動し、さらにジャージーはサメライドを発動する。
「待っててオーロラくん、今助けるから!」
上空からランチャーを放ちながら、アズキはオレを救助し、タワーを崩し、通路を塞ぐドスコイの群れを蹴散らしていく。霧に遮られた視界の向こうでも、立て続けに放たれたスペシャルによってオオモノは軒並み片付いたのか、遠距離攻撃が止んで少し動きやすくなったようだ。
「オーロラ、納品は間に合いそうか?」
遠くからジャージーの声が聞こえる。
「金イクラの数は足りそうですな。でも、コンテナ周りはまだシャケだらけですぞ」
3人が全力でオオモノを倒している間に、オレはキンシャケを寄せて倒しながら納品を進めていく。だが、その間にもモグラやテッパン、そしてダイバーが容赦なく足場を奪っていく。
「よし、こうなったら……!」
オレは残っていたカニタンクを発動させると、防御形態になって転がり、押し寄せるシャケから身を守りながら次々に金イクラを拾い集めてコンテナに収めていく。
「まだ耐えられる、まだ……!」
モグラの追撃を振り切り、コジャケの群れを轢き潰しながら、必死に金イクラを拾っては入れ、拾っては入れ、を繰り返す。
「私たちも! みんな、全力で納品するよ!」
残り10秒。シャケの猛攻から全身全霊で逃げ回りながら、霧の中に散らばった金イクラを全員で拾い集めては、ひたすらにコンテナに投げ入れていく。
「あと1個……足りるか!?」
「これを!」
残り1秒――汗だくになりながらも、全員で戦場を走り抜け、コンテナに金イクラを投げ入れて――
「ノルマクリア――間に合った……!!」
最終ウェーブを無事に乗り切ったことを告げるファンファーレが、スピーカー越しに響く。立ち込めていた霧も晴れていき、共に協力し合ったアズキと仲間の姿も、はっきりと視界に映る。
「はぁ……はぁ……やったね、成功だよ……!」
息を切らしながらも、無事に仕事を終えられたことを喜び、オレの元に駆け寄ってくるアズキ。
――だが、それを遮るように、ジャージーが緊迫した声を上げる。
「待って……まだ終わりじゃない!」
「えっ――」
アズキが驚いて振り返り、オレも顔を上げる。次の瞬間、けたたましい警報音が鳴り響き、鼓膜を揺さぶる。霧が晴れた空は、先程よりも更に赤く、不吉な色に染められていく。
全員が固唾を飲んで、ステージを越えた先、遥か遠くを見つめる――その時だった。
遠く、水面から飛沫を上げて、黒く、巨大な長い影が姿を現す。
「――ギャオオオォォォォーーーーーーッ!!」
空を、地面を、全ての空気を揺るがすような激しい咆哮が、耳を劈く。
「あれは――オカシラシャケ、タツだ……!」