Chapter4
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***
血で染め上げたような不気味な赤色の空の下を、クマサン商会のヘリはゆっくりと進んでいく。乗っているのは、オレ、マスク、ジャージー、そしてアズキだ。今日の午前中はマルベッコーがメガネーズの集まりで不在だというので、その間はオレ達シアンチームにアズキが加わってビッグランのバイトに参加することになっている。
「到着したね……マテガイ放水路」
端の席に座っていたアズキが、窓から外を眺めている。地面に空いた大穴から、オレ達を乗せたヘリはゆっくりと下降し、地下の空間へと潜っていく。
「それでは、持ち場に付いてくれたまえ」
クマサンの指示で、オレ達はマテガイ放水路に降り立つ。普段ならこの場所は天井から陽光が降り注ぎ、地面には花が咲き乱れる穏やかな場所なのだが、今は息をするのも億劫なほどの薄暗く澱んだ空気と、唯ならぬ気配に満ちている。
「えっと、私のブキは……ボールドマーカーだ!」
「オレのは、スクイックリンαですな。塗りは任せましたぞ」
「了解!」
そうこうしている間にも、ステージ全体に少しずつ潮が満ちていき、水面が上昇する。どうやら第一ウェーブは通常潮のようだ。
「わわっ、水が変な色してる……!」
さらに間欠泉も噴き出して、ステージは変わり果てた姿となる。
「大丈夫かな、塗れる壁とか少ないけど……」
「大丈夫ですぞ、出来る限りオレがカバーしますからな。それが協力というものですぞ」
「うん、ありがと! オーロラくんが一緒なら、きっと大丈夫だよね!」
そう言って、アズキは期待に満ちた笑顔をこちらに向けてくる。彼女のその期待に応えるためにも、そしてバンカラ街を、彼女と共にいる日々を、彼女自身を守るためにも。オレは全力を尽くさなければならない。
やがて――ウェーブ開始の合図と共に、間欠泉からシャケの群れがぞろぞろと現れ始める。
「……タワーだ! すぐ行かないと!」
オオモノシャケの湧きを確認したアズキは、タワーが待ち構える間欠泉に向けて、ボールドマーカーの機動力で一直線に駆け出していく。
「あ、ああっアズキ氏! 気持ちは分かるけどまずは周りのザコシャケから……」
――案の定、次の瞬間には遠くの方で「うわあぁー!」と悲鳴が上がり、ザコシャケの群れに揉まれたアズキは早速ウキワになってしまう。
「ほら言わんこっちゃない、こっちに来るんですな」
「ご、ごめん、つい……」
ジャージーがザコシャケ達を処理して、マスクがタワーを崩している間に、オレは狙いを定めてアズキを救助する。
「あ、ありがと……」
「さ、今度はあっちの方からもシャケが来ていますな。立て直していきますぞ」
オレ達は今度は反対側、段差上の間欠泉から湧き出るシャケの群れに視線を移す。
「わ、もうこんなにシャケが!」
バクダンやテッパン、そしてダイバーまでもが、ザコシャケ達を引き連れて既にコンテナ周りを取り囲んでいる。
「バクダンはオレに任せて欲しいですな。アズキ氏はテッパンを!」
「わかった!」
オレはバクダンの頭部に狙いを定め、アズキはテッパンの動きを止め、ダイバーのリングを塗り返す。既にシャケまみれとなったコンテナ周りを取り返すための、激しい戦いが繰り広げられる。
「今度は正面からテッキュウが来るよ〜」
「了解、スペシャル使いますぞ」
ジャージーとアズキがコンテナ周りを守ってくれている間に、オレは支給されたカニタンクを発動させて、中央の水路から現れたテッキュウに向けて連射砲を放つ。
「時間も残り少しですな。アズキ氏、納品は任せましたぞ!」
発射台周りのシャケを一掃してから、マスクと共に発射台で次々と金イクラを打ち上げていく。だが、納品数が増える気配は無い。
「オーロラくん、こっちはピンチかも……!」
アズキの声に反応して振り向くと、コンテナ周りは2体のバクダンに囲まれて、とても納品どころではない状況だ。
「待ってて、すぐ戻りますぞ!」
バクダンはオレが処理すべき相手だ。オレは急いでアズキの元に駆けつけて、フルチャージの照準をバクダンの頭部に向けると、弱点を見せたタイミングで2体同時に射抜く。
「これで良し、ですな!」
「すごい……!」
弱点を突かれたバクダンは派手に爆発を起こして、周りのシャケたちを一掃する。コンテナ周りは一面、オレ達のインクで染まり、辺りには先ほど打ち上げた大量の金イクラが転がっている。――どうにか、アズキをサポートすることには成功したようだ。
「よし! 急いで納品しますぞ!」
「おーっ!」
残り10秒。引き寄せられるように集まってくるタマヒロイを退けつつ、散らばった金イクラを全員でかき集めて、コンテナに放りこむ。
「急いで、時間が無い!」
「残り2個……1個……よし、間に合った!」
オレ達がノルマ分の金イクラを納品し終えると同時に、ウェーブ終了の合図が流れ、シャケたちが引き返していく。
「その調子だよ……次のウェーブも、頑張ってくれたまえ」
まずは第一ウェーブを乗り切って安心したのも束の間、すぐに次のウェーブへのカウントダウンが始まる。どうやら次は、満潮のようだ。
オレは支給されたブキを確認する――ダイナモローラーだ。
(よ、よりによって重量級を……)
普段から軽量級のヒッセンばかり使っているオレには大した筋力も無いから、ダイナモローラーは上手く振るえない。出来ればあまり動かずに轢きだけでどうにかしたいのだが、アズキの手前、そしてビッグランという状況で、手を抜く訳には行かない。
「私は……スプラチャージャーだ! ……って、えっ、満潮……!?」
おどろおどろしい色の水が、先程までオレ達が戦っていた段差を飲み込むように上昇していく。
「え、こ、こんなに上がって……」
慌てたようなアズキの声に振り向けば、彼女の足下、すぐ近くまで水面が迫って来ていた。
「アズキ氏! 危ないっ!」
「う、うわあぁっ!?」
満ちていく水面に飲まれそうになるアズキの手を咄嗟に掴んで引っ張る。その勢いでアズキはオレと一緒に、もつれ込むように足場の上に倒れ込んで、すんでの所でアズキの体は水面を避ける。
「ご、ごめん、またやらかしちゃった……」
オレの上に覆い被さるように倒れていたアズキが、バツが悪そうに身体を起こす。
「大丈夫ですぞ、アズキを助けるのは当然のことですからな。頼ってくれて良いんですぞ」
――カッコつけてそう言ってはみたものの、実際のところ、本当にアズキを守りきれるような力がオレにあるのかは、未だ自信が無い。しかも今回のブキは、よりにもよってオレの苦手なブキである。だが、ここで弱みなど見せる訳にはきっといかない。
「そんなことより、特殊ウェーブに備えておいてよ〜」
マスクに言われて、辺りを見渡せば、空が暗くなり始めている。
「何かが来ますな。心の準備を……」
オレはインクを回復するため、インクに潜って待ち構える。すると――ウェーブ開始の合図と同時に、どこからともなく現れた光の粒がジャージーに纏わり付く。
「ヒカリバエだ……シャケたちが騒がしくなったね」
「――!!」
全員が互いに目配せし合う。緊迫した空気が、辺りに漂い始めた。
血で染め上げたような不気味な赤色の空の下を、クマサン商会のヘリはゆっくりと進んでいく。乗っているのは、オレ、マスク、ジャージー、そしてアズキだ。今日の午前中はマルベッコーがメガネーズの集まりで不在だというので、その間はオレ達シアンチームにアズキが加わってビッグランのバイトに参加することになっている。
「到着したね……マテガイ放水路」
端の席に座っていたアズキが、窓から外を眺めている。地面に空いた大穴から、オレ達を乗せたヘリはゆっくりと下降し、地下の空間へと潜っていく。
「それでは、持ち場に付いてくれたまえ」
クマサンの指示で、オレ達はマテガイ放水路に降り立つ。普段ならこの場所は天井から陽光が降り注ぎ、地面には花が咲き乱れる穏やかな場所なのだが、今は息をするのも億劫なほどの薄暗く澱んだ空気と、唯ならぬ気配に満ちている。
「えっと、私のブキは……ボールドマーカーだ!」
「オレのは、スクイックリンαですな。塗りは任せましたぞ」
「了解!」
そうこうしている間にも、ステージ全体に少しずつ潮が満ちていき、水面が上昇する。どうやら第一ウェーブは通常潮のようだ。
「わわっ、水が変な色してる……!」
さらに間欠泉も噴き出して、ステージは変わり果てた姿となる。
「大丈夫かな、塗れる壁とか少ないけど……」
「大丈夫ですぞ、出来る限りオレがカバーしますからな。それが協力というものですぞ」
「うん、ありがと! オーロラくんが一緒なら、きっと大丈夫だよね!」
そう言って、アズキは期待に満ちた笑顔をこちらに向けてくる。彼女のその期待に応えるためにも、そしてバンカラ街を、彼女と共にいる日々を、彼女自身を守るためにも。オレは全力を尽くさなければならない。
やがて――ウェーブ開始の合図と共に、間欠泉からシャケの群れがぞろぞろと現れ始める。
「……タワーだ! すぐ行かないと!」
オオモノシャケの湧きを確認したアズキは、タワーが待ち構える間欠泉に向けて、ボールドマーカーの機動力で一直線に駆け出していく。
「あ、ああっアズキ氏! 気持ちは分かるけどまずは周りのザコシャケから……」
――案の定、次の瞬間には遠くの方で「うわあぁー!」と悲鳴が上がり、ザコシャケの群れに揉まれたアズキは早速ウキワになってしまう。
「ほら言わんこっちゃない、こっちに来るんですな」
「ご、ごめん、つい……」
ジャージーがザコシャケ達を処理して、マスクがタワーを崩している間に、オレは狙いを定めてアズキを救助する。
「あ、ありがと……」
「さ、今度はあっちの方からもシャケが来ていますな。立て直していきますぞ」
オレ達は今度は反対側、段差上の間欠泉から湧き出るシャケの群れに視線を移す。
「わ、もうこんなにシャケが!」
バクダンやテッパン、そしてダイバーまでもが、ザコシャケ達を引き連れて既にコンテナ周りを取り囲んでいる。
「バクダンはオレに任せて欲しいですな。アズキ氏はテッパンを!」
「わかった!」
オレはバクダンの頭部に狙いを定め、アズキはテッパンの動きを止め、ダイバーのリングを塗り返す。既にシャケまみれとなったコンテナ周りを取り返すための、激しい戦いが繰り広げられる。
「今度は正面からテッキュウが来るよ〜」
「了解、スペシャル使いますぞ」
ジャージーとアズキがコンテナ周りを守ってくれている間に、オレは支給されたカニタンクを発動させて、中央の水路から現れたテッキュウに向けて連射砲を放つ。
「時間も残り少しですな。アズキ氏、納品は任せましたぞ!」
発射台周りのシャケを一掃してから、マスクと共に発射台で次々と金イクラを打ち上げていく。だが、納品数が増える気配は無い。
「オーロラくん、こっちはピンチかも……!」
アズキの声に反応して振り向くと、コンテナ周りは2体のバクダンに囲まれて、とても納品どころではない状況だ。
「待ってて、すぐ戻りますぞ!」
バクダンはオレが処理すべき相手だ。オレは急いでアズキの元に駆けつけて、フルチャージの照準をバクダンの頭部に向けると、弱点を見せたタイミングで2体同時に射抜く。
「これで良し、ですな!」
「すごい……!」
弱点を突かれたバクダンは派手に爆発を起こして、周りのシャケたちを一掃する。コンテナ周りは一面、オレ達のインクで染まり、辺りには先ほど打ち上げた大量の金イクラが転がっている。――どうにか、アズキをサポートすることには成功したようだ。
「よし! 急いで納品しますぞ!」
「おーっ!」
残り10秒。引き寄せられるように集まってくるタマヒロイを退けつつ、散らばった金イクラを全員でかき集めて、コンテナに放りこむ。
「急いで、時間が無い!」
「残り2個……1個……よし、間に合った!」
オレ達がノルマ分の金イクラを納品し終えると同時に、ウェーブ終了の合図が流れ、シャケたちが引き返していく。
「その調子だよ……次のウェーブも、頑張ってくれたまえ」
まずは第一ウェーブを乗り切って安心したのも束の間、すぐに次のウェーブへのカウントダウンが始まる。どうやら次は、満潮のようだ。
オレは支給されたブキを確認する――ダイナモローラーだ。
(よ、よりによって重量級を……)
普段から軽量級のヒッセンばかり使っているオレには大した筋力も無いから、ダイナモローラーは上手く振るえない。出来ればあまり動かずに轢きだけでどうにかしたいのだが、アズキの手前、そしてビッグランという状況で、手を抜く訳には行かない。
「私は……スプラチャージャーだ! ……って、えっ、満潮……!?」
おどろおどろしい色の水が、先程までオレ達が戦っていた段差を飲み込むように上昇していく。
「え、こ、こんなに上がって……」
慌てたようなアズキの声に振り向けば、彼女の足下、すぐ近くまで水面が迫って来ていた。
「アズキ氏! 危ないっ!」
「う、うわあぁっ!?」
満ちていく水面に飲まれそうになるアズキの手を咄嗟に掴んで引っ張る。その勢いでアズキはオレと一緒に、もつれ込むように足場の上に倒れ込んで、すんでの所でアズキの体は水面を避ける。
「ご、ごめん、またやらかしちゃった……」
オレの上に覆い被さるように倒れていたアズキが、バツが悪そうに身体を起こす。
「大丈夫ですぞ、アズキを助けるのは当然のことですからな。頼ってくれて良いんですぞ」
――カッコつけてそう言ってはみたものの、実際のところ、本当にアズキを守りきれるような力がオレにあるのかは、未だ自信が無い。しかも今回のブキは、よりにもよってオレの苦手なブキである。だが、ここで弱みなど見せる訳にはきっといかない。
「そんなことより、特殊ウェーブに備えておいてよ〜」
マスクに言われて、辺りを見渡せば、空が暗くなり始めている。
「何かが来ますな。心の準備を……」
オレはインクを回復するため、インクに潜って待ち構える。すると――ウェーブ開始の合図と同時に、どこからともなく現れた光の粒がジャージーに纏わり付く。
「ヒカリバエだ……シャケたちが騒がしくなったね」
「――!!」
全員が互いに目配せし合う。緊迫した空気が、辺りに漂い始めた。