Chapter3
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今日のアズキは午後からバイトに来る予定らしい。午前中はシアンチームのメンバーもそれぞれ用事があるから、午前中はオレだけが暇ということになる。せっかくだから新しい現場、すじこジャンクション跡の野良カンストでも目指そうかと思い、オレは一人でクマサン商会へと向かった。
黒いバイトツナギを抱えて、薄汚れたロッカーの扉を開く。荷物をロッカーに入れようとしたその瞬間、ポケットの中でイカホが鳴り始める。手に取ってみると、画面には「アロハ」の文字が映し出されていた。あのパリピが一体何の用なのか、と思いつつも、オレは通話ボタンを押す。
『あっ、もしもしオーロラ〜? 最近さー、アズキちゃんとの調子はどうよー?』
「なぜ何の脈絡も無く突然その話題を振るのですかな!?」
彼の思考回路はやはり理解できないと思いつつも、とりあえず話だけは聞いてみることにする。
『いやー、こないだ話したじゃん? タラポートショッピングパークにでも誘ってみれば、って話。あの後どうなったのか、こっちのチームメイトも気になってるみたいでさー』
「いつの間にそんな事に……」
『で? 結局デートには行ったの? 今どんな感じ?』
「一応、その、タラポートには一緒に行って、それからも時々バイトやバトルには一緒に行ってて……」
簡単に状況を説明すると、言い終わらないうちにスピーカーから明るい声が響く。
『おっ、いいじゃん、順調そうじゃーん? ってことは、早いとこ告ったほうがいいんじゃない?』
「はぁ!?」
衝撃的な言葉に驚いて、思わず手からイカホが滑り落ちそうになり、慌てて受け止める。
「一体何を言っているのですかな!? アズキ氏の気持ちも、そもそもあの子に恋人がいるのかどうかも分からないまま、こんな早くに告白など! ……はっ、さてはオレに告白からの玉砕をさせて、恥をかかせようっていう魂胆ですな!?」
『まあまあ、落ち着いてよオーロラ! まだオレの話は終わってないから!』
まくし立てるように話すオレをなだめるような声が聞こえてくるが、どうにも今のオレにはアロハの言うことが信じがたい。
「そもそも、なぜアロハ氏はオレの恋愛事情に口出ししてくるのですかな? シアンチームとピンクチームは犬猿の仲のはずなのでは?」
『いや〜、確かにオレとマスクは仲悪いけどさ。でも、それはそれ、これはこれで……なんか、気になるんだよね。オレの目の前で恋バナなんかされちゃったら』
「……気になる?」
『そ。誰かの恋バナ、それこそキミみたいな純粋で一途な恋の話を聞いたら、応援したくなるのが性じゃん?』
「まったく、陽キャの習性は理解し難いですな……」
小さくため息をついて、オレはスピーカー越しに本音を吐き出す。
「……とにかく、オレはアロハ氏に唆されても、動き出す気など起きませんぞ」
『えー、何でなのさー』
「さっきも言いましたぞ。アズキの気持ちが全く分からない、オレみたいな奴のことを好きになってくれる確率なんて限りなくゼロに近いのに、告白などできる訳がないんですぞ」
面倒だから早く引き下がってくれないかと思いつつも冷静に説明していると、スピーカーの向こうから大きなため息が響いてくる。
『はー、全くこれだから童貞は』
「今さりげなくオレのことをバカにしましたな!?」
アロハはそれには反応せず、ただ自分の考えだけをその場に並べていくように話を続ける。
『それじゃ、もしアズキの気持ちが分かる、ってなったらどうすんのよ?』
「……へ?」
『ちょっと、オレに考えがあるんだよね。聞いてくれない?』
「仕方ないですな、聞くだけなら聞いてあげますぞ」
オレは半信半疑になりつつも、アロハの話に耳を傾ける。
『今、うちのオクタグラスとムギが金欠で困ってるらしくて、クマサン商会でバイトを始めようとしてるんだよね。だから、アズキがバイトに来る時に合わせて二人を向かわせて、アズキと仲良くなってもらって、さりげなくオーロラへの気持ちを聞き出す、ってのを思いついたんだけど』
「え、えぇ……それ、上手くいくのですかな?」
『まあまあ、物は試しって言うし? とりあえず、アズキちゃんのバイトの予定、教えてよ』
「今日は午後からオレと一緒にバイトを始めたいと言ってましたな」
『オッケー。それじゃ、その時間にオクタグラスとムギを行かせるから。よろしくねー』
そのままオレが返事をする間もなく、電話は切れてしまった。
(全く、アロハ氏は何がしたいんですかな……)
まるで嵐のような電話だったなと思いつつ、オレはイカホをロッカーに置いて、バイトツナギへと着替える。
ピンクチームの面々がオレに協力してくれるというのはにわかには信じがたい話だが、それでもアズキの気持ちが分かる可能性があるのなら、その可能性に賭けてみたいとは思う。
(一体、どうなることやら……)
浮つく気持ちを抑えるように、オレはヘルメットをしっかりと被った。