Chapter2
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「さ、ここですよ!」
連れて来られた先は、モノトーンで洗練されたデザインのアイテムを取り揃えた、普段のオレとは全く縁が無さそうな雰囲気の店だった。
「えっ……本当にここで合っているのですかな……?」
「大丈夫ですよ! これ、絶対似合うと思うんで! まずは着てみてください!」
オレは言われるがまま、アズキから服と靴を受け取ると、半ば強引に試着室へと押し込まれた。
すっかり肌に馴染んだギンガムチェックミドリを脱いで、店頭で畳まれていた時の折り目が残る、カッチリしたシャツに腕を通す。ついでにアズキはボトムスまで新しいものを選んでくれたようで、いつものハーフパンツから、慣れない感触のスキニーへと履き替える。
「こ、これで……どうですかな?」
着替え終わったオレは、恐る恐るカーテンを開けて、アズキにその姿を見せる。
「…………!」
彼女は身を乗り出し、目を輝かせながら、頭からつま先へ、つま先から頭へと、何度も視線を往復させながらオレの姿をまじまじと見つめている。
「す……すごいです! 想像以上に似合ってますよ!」
「そ、そんなにジロジロ見られると、恥ずかしい、ですな……」
スミヌキシャツに、クラム600コハク。モノトーンの色合いの中で、オーロラヘッドホンが差し色となって良い味を出している。シンプルだからこそ、こんなオレでも違和感なく着こなしつつも、なんとなくワンランク上になったような気分になれるコーディネートだ。
「どうですか? 気に入りましたか?」
「勿論ですぞ! まさかオレに、こんな一面があったとは……と思わせるような、良い組み合わせですな」
「それは嬉しいです! それじゃその服は、私からのプレゼントってことで、私が買いますね!」
「有り難く受け取りますぞ!」
アズキにお礼を言って、オレは試着室に戻る。鏡に映る自分の姿は、先程よりも少しだけ、明るく見えたような気がした。普段着ない服を着るだけで、こんなにも印象が変わるとは思ってもいなかった。試着している服を脱いで、元の自分に戻ってしまうのが惜しくて、そして憎い。
――こうやって少しずつ、「イカしたヤツ」に近付いて、自信を持てるようになっていけば、こんなオレでもアズキの心を手に入れることはできるのだろうか。そんなことを考えながら、オレは脱いだ服を丁寧に畳んでいくのだった。
「さてと、次はどこへ行きましょうかー」
「うーん、そうですなー……」
互いに服を買い終えたが、今度はどのような店に行けば良いものか。アズキはどんな所に連れていったら喜んでくれるのだろうか。オレは涼しい顔を装いつつも、頭の中ではああでもないこうでもないと考えながら、良さそうな店がないかと探して回る。
「あ! オーロラさん! あそこですよ!」
突然、アズキが立ち止まり、何かを指さす。その先にあるのは――見慣れたロゴの看板の、アニメショップだ。
「丁度推しの新グッズも欲しいって思ってたとこですし! 行きましょうよ!」
「ほ、本当に良いのですかな〜!?」
「良いに決まってるじゃないですか! オーロラさんは何か欲しいものありますか? あ、それとあっちにゲーセンもあるので、後で行きましょうよ!」
「わ、わかりましたぞ……」
如何におしゃれなデートを演出するか、分からないなりにもオレは頑張って考えていたのだが――それを一瞬で覆すように、アズキはハイテンションでアニメショップへと向かって行く。
(本当に、こんなデートで良いのですかな……)
何とも言えない気持ちを抱えつつも、オレはアズキと並んで歩き出すのだった。
***
「いやー、本当に今日は楽しかったです!」
すっかり日も傾いてきた頃、オレとアズキはショッピングパークの建物を後にして、駅へと向かっていた。
あれからオレ達は、アニメグッズを買って、昼食を食べて、ゲームセンターで遊んだりして、充実した時間を過ごした。
非日常感の欠片もないような過ごし方で本当に良かったのか、という疑問は残る。それでも――アズキは先程オレがクレーンゲームで取った巨大ぬいぐるみを両手で抱えて、腕にはいろいろなものを詰め込みすぎて膨らんだ服屋の紙袋を下げて、満足げな笑顔で隣を歩いている。そんな彼女の横顔が夕陽に照らされているのを見れば、オレの心も自然と喜びで満たされていく。
このままもっと、彼女を喜ばせられるような存在になれたら良いのに。そう考えながら歩調を合わせて歩いているうちに、いつの間にかオレ達は駅に着いていた。
二人の帰る電車は反対の方向だ。別れの時間が近づいてきている。明日も明後日も、アズキとはまた会えるはずなのに――今この瞬間、彼女と離れてしまうのが、たまらなく惜しく感じられてしまう。
「そ、それではアズキ氏……」
改札の前に着いたオレ達は歩みを止める。本当はもっと一緒にいたい。そんな気持ちをぐっと抑えて、一歩歩き出そうとした、その時だった。
「あの、オーロラさん……」
少し遠慮がちに、アズキが呼び止める声がして、オレはゆっくりと振り向いた。
「何ですかな……?」
「私……オーロラさんとたくさん遊んで、たくさん話せて……すごく楽しくって……だから、もっと仲良くなりたいなって思ってて……」
照れ臭そうに話す彼女の頬が、ほんの少し紅く染まって見えた。
「あの、私からお願いするのも変かもしれませんが……オーロラさんのこと、タメで呼んでみたいなって思って。……ダメ、ですよね」
窓から射す夕陽に照らされた、彼女の澄んだ瞳がオレを見上げる。その輝きは、ふいにオレの胸をきゅんと射抜いてくる。
「ダメな訳がありませんぞ! ……本当はオレも、アズキ氏にタメで呼んで欲しいと思っていたんですぞ」
「ほ、本当ですか!? そ、それじゃあ、その……オーロラ、くん、って……呼ぶ、ね……」
恥じらいつつも、小さく「オーロラくん」と呼ぶその声、そしてその仕草に、またしてもオレは心臓を撃ち抜かれたような感覚に陥る。
鼓動が早鐘を打つ。アズキにもっと近づきたい、離れたくない、そんな想いが高まってゆく。けれど、そんなオレを現実に引き戻すように、電車が来ることを告げるアナウンスが響く。
「アズキ氏……また明日もバイトとナワバリバトルに来てくれますかな?」
「もちろんです! ……あっ」
敬語がまだ抜けきっていないアズキと、目を合わせてお互いに笑う。そうしてオレは、彼女に手を振りながら、ホームへと向かう。
「今日は楽しかったですぞ! 明日も楽しみですな」
「私も、楽しかった! また明日ねー!」
大きく手を振るアズキの笑顔を目に焼き付けて、オレはホームへの階段を降りていった。
連れて来られた先は、モノトーンで洗練されたデザインのアイテムを取り揃えた、普段のオレとは全く縁が無さそうな雰囲気の店だった。
「えっ……本当にここで合っているのですかな……?」
「大丈夫ですよ! これ、絶対似合うと思うんで! まずは着てみてください!」
オレは言われるがまま、アズキから服と靴を受け取ると、半ば強引に試着室へと押し込まれた。
すっかり肌に馴染んだギンガムチェックミドリを脱いで、店頭で畳まれていた時の折り目が残る、カッチリしたシャツに腕を通す。ついでにアズキはボトムスまで新しいものを選んでくれたようで、いつものハーフパンツから、慣れない感触のスキニーへと履き替える。
「こ、これで……どうですかな?」
着替え終わったオレは、恐る恐るカーテンを開けて、アズキにその姿を見せる。
「…………!」
彼女は身を乗り出し、目を輝かせながら、頭からつま先へ、つま先から頭へと、何度も視線を往復させながらオレの姿をまじまじと見つめている。
「す……すごいです! 想像以上に似合ってますよ!」
「そ、そんなにジロジロ見られると、恥ずかしい、ですな……」
スミヌキシャツに、クラム600コハク。モノトーンの色合いの中で、オーロラヘッドホンが差し色となって良い味を出している。シンプルだからこそ、こんなオレでも違和感なく着こなしつつも、なんとなくワンランク上になったような気分になれるコーディネートだ。
「どうですか? 気に入りましたか?」
「勿論ですぞ! まさかオレに、こんな一面があったとは……と思わせるような、良い組み合わせですな」
「それは嬉しいです! それじゃその服は、私からのプレゼントってことで、私が買いますね!」
「有り難く受け取りますぞ!」
アズキにお礼を言って、オレは試着室に戻る。鏡に映る自分の姿は、先程よりも少しだけ、明るく見えたような気がした。普段着ない服を着るだけで、こんなにも印象が変わるとは思ってもいなかった。試着している服を脱いで、元の自分に戻ってしまうのが惜しくて、そして憎い。
――こうやって少しずつ、「イカしたヤツ」に近付いて、自信を持てるようになっていけば、こんなオレでもアズキの心を手に入れることはできるのだろうか。そんなことを考えながら、オレは脱いだ服を丁寧に畳んでいくのだった。
「さてと、次はどこへ行きましょうかー」
「うーん、そうですなー……」
互いに服を買い終えたが、今度はどのような店に行けば良いものか。アズキはどんな所に連れていったら喜んでくれるのだろうか。オレは涼しい顔を装いつつも、頭の中ではああでもないこうでもないと考えながら、良さそうな店がないかと探して回る。
「あ! オーロラさん! あそこですよ!」
突然、アズキが立ち止まり、何かを指さす。その先にあるのは――見慣れたロゴの看板の、アニメショップだ。
「丁度推しの新グッズも欲しいって思ってたとこですし! 行きましょうよ!」
「ほ、本当に良いのですかな〜!?」
「良いに決まってるじゃないですか! オーロラさんは何か欲しいものありますか? あ、それとあっちにゲーセンもあるので、後で行きましょうよ!」
「わ、わかりましたぞ……」
如何におしゃれなデートを演出するか、分からないなりにもオレは頑張って考えていたのだが――それを一瞬で覆すように、アズキはハイテンションでアニメショップへと向かって行く。
(本当に、こんなデートで良いのですかな……)
何とも言えない気持ちを抱えつつも、オレはアズキと並んで歩き出すのだった。
***
「いやー、本当に今日は楽しかったです!」
すっかり日も傾いてきた頃、オレとアズキはショッピングパークの建物を後にして、駅へと向かっていた。
あれからオレ達は、アニメグッズを買って、昼食を食べて、ゲームセンターで遊んだりして、充実した時間を過ごした。
非日常感の欠片もないような過ごし方で本当に良かったのか、という疑問は残る。それでも――アズキは先程オレがクレーンゲームで取った巨大ぬいぐるみを両手で抱えて、腕にはいろいろなものを詰め込みすぎて膨らんだ服屋の紙袋を下げて、満足げな笑顔で隣を歩いている。そんな彼女の横顔が夕陽に照らされているのを見れば、オレの心も自然と喜びで満たされていく。
このままもっと、彼女を喜ばせられるような存在になれたら良いのに。そう考えながら歩調を合わせて歩いているうちに、いつの間にかオレ達は駅に着いていた。
二人の帰る電車は反対の方向だ。別れの時間が近づいてきている。明日も明後日も、アズキとはまた会えるはずなのに――今この瞬間、彼女と離れてしまうのが、たまらなく惜しく感じられてしまう。
「そ、それではアズキ氏……」
改札の前に着いたオレ達は歩みを止める。本当はもっと一緒にいたい。そんな気持ちをぐっと抑えて、一歩歩き出そうとした、その時だった。
「あの、オーロラさん……」
少し遠慮がちに、アズキが呼び止める声がして、オレはゆっくりと振り向いた。
「何ですかな……?」
「私……オーロラさんとたくさん遊んで、たくさん話せて……すごく楽しくって……だから、もっと仲良くなりたいなって思ってて……」
照れ臭そうに話す彼女の頬が、ほんの少し紅く染まって見えた。
「あの、私からお願いするのも変かもしれませんが……オーロラさんのこと、タメで呼んでみたいなって思って。……ダメ、ですよね」
窓から射す夕陽に照らされた、彼女の澄んだ瞳がオレを見上げる。その輝きは、ふいにオレの胸をきゅんと射抜いてくる。
「ダメな訳がありませんぞ! ……本当はオレも、アズキ氏にタメで呼んで欲しいと思っていたんですぞ」
「ほ、本当ですか!? そ、それじゃあ、その……オーロラ、くん、って……呼ぶ、ね……」
恥じらいつつも、小さく「オーロラくん」と呼ぶその声、そしてその仕草に、またしてもオレは心臓を撃ち抜かれたような感覚に陥る。
鼓動が早鐘を打つ。アズキにもっと近づきたい、離れたくない、そんな想いが高まってゆく。けれど、そんなオレを現実に引き戻すように、電車が来ることを告げるアナウンスが響く。
「アズキ氏……また明日もバイトとナワバリバトルに来てくれますかな?」
「もちろんです! ……あっ」
敬語がまだ抜けきっていないアズキと、目を合わせてお互いに笑う。そうしてオレは、彼女に手を振りながら、ホームへと向かう。
「今日は楽しかったですぞ! 明日も楽しみですな」
「私も、楽しかった! また明日ねー!」
大きく手を振るアズキの笑顔を目に焼き付けて、オレはホームへの階段を降りていった。
