Chapter2
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***
「わー! 広くて綺麗で……あのステージも楽しそう!」
……約束通り、オレとアズキは、二人でタラポートショッピングパークにやって来た。
ガラスの天井から降り注ぐ光に、吹き抜けの下にあるバトルステージを囲む噴水。オアシスのような風景に、家族連れで賑わう店内。はしゃぎたくなるアズキの気持ちも分かる……が、オレの心の中はそれどころではない。
(ほ、本当にオレが、こんな所でデートなんて……一体何をすれば……)
普段のオレなら、ショッピングに来たところで、本屋やアニメグッズを見て、ゲームセンターで遊んで帰るだけだ。しかし今はアズキと一緒のデートなのである。一体何をどうすればいいのやら。先程からオレは混乱するばかりだった。
「え、えーっと、アズキ氏、どこか行きたいお店とかは、ありますかな……?」
「うーん、特に考えてないです!」
驚くほどあっさりと答えられて、思わず拍子抜けした。今のオレが一番困る回答ではないか。
「え、えーっと……じゃあ、ど、どうすれば……」
「まずは順番に歩いて回ってみましょう! 何か良いものが見つかるかもしれません!」
「そ、それが良いですな!」
――そんなこんなで、オレ達は当てもなく店内をぐるっと回ってみることになったのだった。
オレ達が今いるフロアは、服屋ばかりが立ち並んでいた。隣を歩くアズキは、先程からきょろきょろと、辺りの店のショーウィンドウを興味津々に見て回っている。
「アズキ氏、さっきから色んな服を見ているようだけど……ファッションに興味があったりするんですかな?」
「うーん、普段はあんまり気にしないんですが……」
店頭に並ぶ服を並べていたアズキは、オレの方に向き直る。
「本当は、もっとおしゃれな服が沢山欲しいって思ってるんです。でも、自分に似合う服もよく分からないし、買った後で何か違うなって思うこともあったりして。それで結局、無難なやつに落ち着いちゃうんです」
「なるほど……その気持ちはよく分かりますぞ」
「オーロラさんも、ファッションのこと、気にしてたりするんですか?」
「……おしゃれな人には憧れるけど、色々上手くいかないのが現状ですな〜」
オレ自身も、もっとおしゃれに気を使えば、ガールにモテるかも……なんて思ったりしている。けれど、そもそもオレ自身にはファッションセンスの欠片だって無いし、おしゃれな服を買ったところで、似合うかどうかなど分からないのだ。
「あっ、そうだ! こうするのはどうでしょう!」
「何ですかな?」
「私とオーロラさんで、それぞれお互いに似合うと思うコーディネートを考えてみるんです! 他の人に服を選んで貰うと、新たな発見があるかもしれませんし!」
「ええっ!? で、でも……」
意外な提案に、オレは慌てふためく。
「た、ただでさえセンスの無いオレに、ガールの服を選ぶなどできませんぞ!!」
「大丈夫ですよー! 私に似合いそうなアイテム、見つけてくるだけでも良いんで!」
「それだけでもハードル高いですな……で、でも、言われたからには……!」
「よーし、じゃあ、一緒に探してみましょう!」
……そんなこんなで、オレは「アズキに似合うおしゃれな服」を探すことになったのだった。
***
「わー! これが私……!?」
試着室から出てきたアズキは、先程よりもさらにはじけるような可愛さを纏って現れた。
悩みに悩んだ末にオレが選んだのは、ビビッドな色合いのカジュアルコーデだ。彼女の性格、バトルでの動き方、それらを思い浮かべながら、どんな姿が似合うだろうか……と考えた結果、やはり元気が出そうなコーデが一番だろうという結論に達したのだ。
「アズキの推しのカラーも取り入れた、とっておきのコーデなんだけど……どうですかな?」
「推しカラー!! そんなとこまで考えてくれたんだ! すごく気に入りました! 買うしかないですよ!!」
アズキははしゃぎながら試着室に戻る。不安だったが、気に入ってくれたようで何よりだ。
そしてここは何としてでも、ボーイとして格好良さを見せたい所。オレはアズキの手元から服を受け取ると、そのままレジに持っていく。
「え……え?」
「良いから良いから! これはオレからのプレゼントですぞ」
アズキが財布を取り出そうとする前に支払いを済ませ、可愛らしい柄の紙袋を店員から受け取ってアズキに手渡す。
「い、良いんですか……?」
「勿論ですぞ!」
オレが内心緊張しているのには気付かれることなく、どうにかスマートにアズキに服をプレゼントすることができた。今のオレは……我ながらかなりイカしているかもしれない。
「あ、ありがとうございます……!」
紙袋を受け取りながら、アズキはキラキラした瞳でオレを見上げる。
「その代わりと言っては何ですが……私からもオーロラさんにプレゼントさせてください!」
「良いですぞ……って、え!?」
流されるままにオレが返事をすると、すぐさま彼女は吹き抜けを挟んで対岸にある店の方を指差す。
「私もオーロラさんに似合いそうな服、見つけたんです! ほら、あっちですよ!」
「ま、待ってアズキ氏〜!」
オレを引っ張っていかんばかりの勢いで、アズキは目指す店へと向かう。人混みに飲まれないようにその後を追いかけながら、オレは初めて彼女と一緒にナワバリバトルをした時のことを思い出していた。
一度決めたら、迷わず突き進んでいく。そんな性格がアズキの魅力であり、憧れでもある。
(それに対して、オレは――)
廊下を進んで突き当たりの店。ショーウィンドウのガラスに、自分の姿がうっすらと映る。今のオレには、そんな彼女といて釣り合うような男らしさも、魅力も、威厳も無いし、彼女を自分のものに出来るような勇気だって無い。こんな自分がアズキを好きになったって――いつだって、自分の思うがままに突き進む彼女は、きっとオレなんかの力で捕まえられるはずがないのだ。