第1訓
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場所は変わり、恒道館道場兼新八達の家。
頬を腫らし、鼻血まで垂らした銀時は結衣と、仲良く正座させられていた。
その前には、腕を組んだ新八と、静かに二人を見下ろすお妙が立っている。
お妙は何も言わない。
ただ、肩に担いだ刀だけが、その機嫌を雄弁に物語っていた。
「いや、あのホント…スンマセンでした。俺もあの…原作の方では登場シーンだったんで、ちょっとはしゃいだっていうか…調子に乗ってました。スンマセンでした」
「私はこのアホを野放しにして、いちご白玉餡蜜を食べてました。残すのはもったいなかったので、全部食べてました。すみませんでした」
「ゴメンですんだら、この世に切腹なんか存在しないわ。アナタ達のおかげでウチの道場は存続すら危ういのよ」
鎖国が解禁になって20年程経つ。
天人が来るようになって、江戸は確かに発展した。
しかしその一方で、侍や剣といった旧きに権勢を誇ったもの達はどんどんと滅んでいっている。
そんな事は結衣も銀時もよく分かっている。
恒道館も廃刀令のあおりで門下生は今や1人も残っていない。
そんな中でも姉弟2人の父親が残したこの道場を守ろうと、バイトしてなんとか形だけ取り繕っている状態だそう。
「お前達のせいで全部パーじゃボケェェ!!」
「おちつけェェ姉上!!」
暴れ狂うお妙を羽交い締めでなんとか新八が止めるも、振り上げられた刀は今にも銀時の頭に落ちてきそうだ。
「新八君!!君のお姉さんゴリラにでも育てられたの!!待て待て待ておちつけェェ!!」
「銀時!ゴリラでもこんなに凶暴じゃないと思う」
「切腹はできねーが俺だって尻ぐらいもつって、ホラ」
頭を守りながらも、懐から取り出した紙を志村姉弟に差し出す。
万事屋・坂田銀時と書かれた名刺。
「こんな時代に仕事なんて選んでる場合じゃねーだろ。頼まれればなんでもやる商売やっててなァ。この俺万事屋銀さんが、なんか困ったことあったら解決してや…」
銀時が親指で自分を指しながら得意げに言った、その瞬間。
志村姉弟の制裁が容赦なく飛んできた。
「だーから、お前に困らされてんだろーが!!」
「仕事紹介しろ、仕事!!」
「おちつけェェ!!仕事は紹介できねーが!!バイトの面接の時に緊張しないおまじないなら教えてや…」
「いらんわァァ!!」
バキッ。
今のはいい音がした。
結衣は静かに目を閉じると、そっと手を合わせた。
「…南無阿弥陀仏」
「でも姉上、やっぱりこんな時代に剣術道場やってくのなんて土台無理なんだよ。この先、剣が復興することなんてもうないよ。こんな道場、必死に護ったところで僕らなにも……」
「損得なんて関係ないわよ。親が大事にしてたものを子供が護るのに理由なんているの?」
「でも姉上、父上が僕らに何をしてくれたって… …」
新八の言葉は突然蹴破られた扉によって遮られた。
「くらァァァァ」
ズカズカと入り込んできたのは2人の付き人を引連れた天人だった。
ちなみに3人とも、もれなくキノコヘアである。
「今日という今日はキッチリ金返してもらうで〜!!ワシもう我慢でけへんもん!!イライラしてんねんもん!」
「あの人も糖分たりてないのかな」
「ちげーだろ。つか借金か。オメーらガキのくせにデンジャラスな世渡りしてんな」
「俺達が作ったんじゃない…父上が」
「新ちゃん!!」
「何をゴチャゴチャぬかしとんねん!!早よ金持ってこんかいボケェェ!!早よう帰ってドラマの再放送見なアカンねんワシ」
「ちょっと待って今日は…」
「じゃーかしーわ!!こっちはお前らのオトンの代からずっと待っとんねん!!もォーハゲるわ!!金払えん時はこの道場売り飛ばすゆーて約束したよな!!あの約束守ってもらおか!!」
「ちょっと待ってください!!」
「なんや!!もうエエやろこんなボロ道場。借金だけ残して死にさらしたバカ親父に、義理なんて通さんでエエわ!!捨てちまえこんな道場…」
言い終わる前にお妙の拳が、天人の頬へ容赦なくめり込んだ。
大切な道場を。
大切な父を。
侮辱されて、黙っていられる女ではない。
「この女ッ!!何さらしとんじゃ!!」
お妙は付き人に頭を床に叩きつけられ押さえつけられる。
「姉上ェェ!!」
「このォボケ…女やと思って手ェ出さんとでも思っとんかァァ!!」
振りかぶった拳を銀時が静かに止めた。
その目は瞳孔が開いており、いつもの気だるさはない。
銀時に掴まれた天人の腕が、メキメキと嫌な音を立てる。
「そのへんにしとけよ、ゴリラに育てられたとはいえ女だぞ」
「なっ…なんやワレェェ!!この道場にまだ門下生なんぞおったんかイ!!」
掴んでいた手を離し、両手をひらりとあげる。
そのはいつものだらしないものに戻っていた。
「…ホンマにっ、どいつもコイツも。もうエエわ!!道場の件は…せやけどなァ、姉さんよォ、その分アンタに働いて返してもらうで」
懐から取り出したチラシをニヤケ顔で突きつける。
「コレ、わしなァ、こないだから新しい商売始めてん。ノーパンしゃぶしゃぶ天国ゆーねん」
「ノッ…ノーパンしゃぶしゃぶだとォ!!」
それは空飛ぶ船で営業される遊郭だという。
江戸じゃ禁止されている商売も、空の上なら役人の目は届かない。
「色んな星のべっぴんさん集めとったんやけど、あんただったら大歓迎やで。まァ道場売るか、体売るかゆー話や。どないする」
「ふざけるな、そんなの行くわけ…」
「わかりました、行きましょう」
「え"え"え"え"え"!!」
「こりゃたまげた孝行娘や」
立ち上がったお妙の肩を、天人は迷いなく抱き寄せ、そのまま歩き出した。
「ちょっ…姉上ェ。なんでそこまで…もういいじゃないか。ねェ!!姉上!!」
「新ちゃん、あなたの言う通りよ。こんな道場護ったっていい事なんてなにもない。苦しいだけ…でもねェ私…捨てるのも苦しいの。もう取り戻せないものというのは捨てるのも持ってるのも苦しい。どうせ、どっちも苦しいなら、私はそれを護るために苦しみたいの」
少し困ったように笑うお妙の顔を見て新八は動けなくなってしまった
