第1訓
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「お妙でございます。可愛がってくださいまし」
膝の前に両手を並べて深く頭を下げる。
個室で接客の指導を受ける結衣とお妙。
お妙は可愛らしいハートがあしらわれたデザインの着物に身を包み、髪もふんわりまとめ上げられ、華やかな簪をさしている。
「だから違うゆーとるやろ!!そこでもっと胸の谷間を強調じゃボケッ!!」
「胸の谷間なんて十八年生きてて1回もできたことないわよ」
「あ、スマン。やりたくてもでけへんかったんかイ」
お妙は笑顔で天人の顔を鷲掴みにした。
「ほんなら次はアンタや」
結衣には、お妙よりも落ち着いた色合いの着物が選ばれていた。華やかさを競うというより、静かな美しさを引き立てるような装いだ。
天人もお妙も思わず見惚れるような美しさ。
見た目だけは。
「…こんにちは、結衣です」
ペコっと頭を下げる。
「それだけかい!!『可愛がってくださいまし』って言わんかイ!!」
黙ってじっと考えた結衣はもう一度軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「違ァァァう!!」
「『可愛がってくださいまし』ゆーてるやろ!!」
「仲良くしてください」
「違ァァァァう!!もうええわ!次や次!!アンタは見た目だけでもなんとかなる。それこそ胸や、胸の谷間強調してみ!!」
「胸の……谷間」
結衣は自分の胸元を見下ろす。
少し考える。
もう一度胸元を見る。
しばらく考えたあと、ぎこちなく胸を張る。
いや、張るというより反っている。
「…こうですか?」
「どないしたらアッパードッグのポーズになるんや!!!」
天人はズレたメガネの位置を直しながら、湯気が立つしゃぶしゃぶ鍋を指さす。
「まァエエわ!!次、実技!!パンツを脱ぎ捨ていよいよシャブシャブじゃー!!」
「はい」
「ちょっと結衣さん!」
お妙が思わず止める。
結衣はきょとんと振り返った。
「何で脱ごうとしてるんですか!」
「仕事だから。」
「だからって!」
「最初に聞いてたし」
真顔で答える結衣。
お妙は言葉に詰まる。
結衣は少し考えたあと、真面目な顔で聞く。
「脱いだあとはどこに置けばいいですか?」
「…は?」
「それと洗濯して返してもらえますか?今日は餡蜜を食べるだけの予定だったから替えのパンツを持ってきてないんです。皆は持ち歩いているんですか?」
「持ち歩くかァァァ!!」
「そこじゃないでしょ!!」
ドッゴン
その時だった。
轟音とともに、窓ガラスを突き破って一台のパトカーが部屋へ突っ込んできた。
「社長ォォォ!!」
「何事ですかァァ!!」
「船が、突っ込んできよった!!アカンで、コレパトカーやん!!役人が嗅ぎつけてきよったか!!」
床が大きく揺れ、木片や瓦礫が四方へ飛び散る。
「きゃっ――!」
体勢を崩したお妙へ、砕けた木材が降り注ぐ。
考えるより先に、結衣は動いていた。
お妙の肩を掴み、自分の方へ強く引き寄せる。
そのまま背中を向けて覆いかぶさった。
バラバラッ――。
細かな木片が結衣の背中を叩く。
しばらくして揺れが収まる。
覆いかぶさっていた結衣は静かに身を起こすと、お妙の肩へ軽く手を添えた。
「怪我ない?」
「ええ……私は平気。結衣さんは?」
「大丈夫。」
返事をしたその瞬間には、結衣の視線はもう部屋全体へ向けられていた。
そして、土煙の向こうに見慣れた着流しを見つけると、小さく息をついた。
「安心しなァコイツはただのレンタカーだ。どーも万事屋でーす」
「姉上ェ!!まだパンツはいてますか!!」
「…新ちゃん!!」
「おのれら何さらしてくれとんじゃー!!」
「姉上と結衣さん返してもらえに来た」
木刀を肩に担いだ新八は、お妙の手を掴んで立たせる。
「アホかァァ!!どいつもこいつももう遅いゆーのがわからんかァ!!新八、お前こんな真似さらして道場タダですまんで!!」
「道場なんで知ったことないね。僕はいつも姉上が笑ってる道場が好きなんだ。姉上の泣き顔を見るくらいならあんな道場いらない」
それは、新八の姉を想う気持ちがまっすぐに乗った言葉だった
「ボケがァァ!!たった2人で何できるゆーねん!!いてもうたらァ!!」
怒号とともに、廊下の奥からどやどやと黒服の男たちが雪崩れ込んでくる。
あっという間に部屋の出入口は塞がれ、キノコ頭の男たちがじりじりと包囲を狭めた。
「オイ、俺が引き付けといてやるから、てめーは脱出ポッドでも探して逃げろ。結衣も行ってやれ」
「うん」
「あんたは!?」
「てめーは姉ちゃんを護ることだけ考えろや」
「俺は俺の護りてェもん護る」
木刀に手を添える。
黒服たちも銃を構える。
まさに一触即発。
その空気をぶった切るように。
「…ねぇ、銀時」
「んだよ。心配してくれるなんて珍し…」
「領収書は?」
「…は?」
「借りたときの領収書だよ、いくらだったの?それにこの船とレンタカーの修理費はいくらになるんだ…保険おりるかな…?」
「結衣ちゃん!?銀さんの心配じゃなくてお金の心配ィ!?今、銀さんちょっとカッコつけてたよね?見てなかった??かなりいい感じになってたよね??今から原作でも初めてしっかりめに戦うシーンだからね、暴れちゃおっかなーなんて思ってたのよ!!それを遮ってまでお金の心配かよォォ!!」
「原作って言っちゃったァァァ!!!この人原作って言っちゃったよ!!そこ一番言っちゃダメなやつゥゥ!!!」
「だってレンタル代と修理費払うのは誰だと思う?」
「…結衣さん…?」
返事の代わりに、ぺしっと銀時の頭を叩いた。
「いてっ。」
「…じゃあ。請求先ごとなくしてください」
「つまり全員ぶっ飛ばせってことか。」
「うん。」
「わーったよ。」
