第13訓
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目を開けると、見慣れない部屋の床へ一人転がされていた。
起き上がろうと力を込めるが、思うように身体が動かない。
無理に動こうとはせず、まずは目だけをゆっくりと巡らせた。
ぐわんぐわんと揺れる頭。
後ろ手に縄で縛られた両手首。
小さな部屋。
出入口は一つ。
窓はない。
逃げ道も、隠れる場所もない。
「変なもの飲まされちゃったな」
一度小さく息を吐く。
それから壁へ身体を預けながら、ゆっくりと上体を起こした。
頭痛。
吐き気。
身体の奥に残る熱。
全身に鉛を詰め込まれたような倦怠感。
それでも意識は思っていたよりはっきりしている。
「…新八くんと神楽ちゃん探さないと」
自分がどうなったのかは後でいい。
少なくとも、二人がどこにいるのか確認しなければならない。
壁に手をつく代わりに肩を預け、震える脚へ力を込める。
一度ふらついた。
膝が抜けそうになる。
それでもどうにか踏みとどまった。
「……よし」
小さく自分へ言い聞かせる。
ドアへ近づき、耳をそっと押し当てる。
外から物音は聞こえない。
結衣は後ろ手に縛られたまま、静かにドアノブへ手を伸ばした。
少しだけ開いた扉の隙間から外を窺う。
その瞬間、目が合った。
妙な海賊姿の男と。
「結衣!お前こんな所にいたのか!」
「…ヅラこそなんでここに…」
「ヅラじゃないキャプテンカツーラだ。ちょっと海賊になりたくてな」
「あーー…うん、わかった。それは今結構どうでもいい話なことがわかった」
「ひどいではないか!ちゃんと履歴書まで…あれ?どこいった?あれ?」
桂は慌てて全身のポケットを探り始める。
「うん、ごめん。私神楽ちゃんと新八くんさがしたいから。先に行くね」
ちょっとかまってあげられない。と結衣はゆっくりと歩き出す。
「あれ、おかしいぞ。さっきまであったのに…結衣、俺の履歴書しらんか」
そう言って、結衣はゆっくりと歩き出す。
その背中を見た桂の動きが止まった。
さっきまで履歴書を探していた顔から、ふっと表情が消える。
壁へ身体を預けるように歩く結衣。
後ろ手に拘束されたままの腕。
血の気のない顔。
浅く乱れた呼吸。
桂はすぐにその異変を察した。
「結衣、ちょっと待て」
「だから履歴書は知らな…」
刀が一閃する。
手首を縛っていた縄が、音もなく切れた。
「…ありがとう」
「あぁ」
結衣は手をゆっくり開いたり閉じたりしてみる。
まだ思うように力が入らない。
桂はその様子を黙って見つめた。
「しかしお前…大丈夫なのか?フラフラではないか」
「平気だよ、二日酔いみたいなもんでしょ」
「お前は昔から、その「平気」が信用ならん。一緒に来い。一旦お前だけでも外に…」
「ううん、大丈夫。ヅラもなんかすることあるんでしょ?」
それ、と言って指さしたのは桂が小脇に抱えた爆弾があった。
「しかし…」
「神楽ちゃんと新八くんもまだこの中にいるかもしれないから、それが爆発する前にみんなで逃げなきゃ」
その言葉に、桂は一瞬だけ黙った。
昔もそうだった。
自分のことより、周りのことを先に考える。
自分が傷ついていることを大したことではないように扱う。
それが優しさなのか、鈍さなのか。
桂には、昔からよく分からなかった。
ただ一つ分かっているのは。
こういう時の結衣は、誰が何を言っても止まらないということだった。
「…お前、銀時の奴に似てきたな…」
「…え?」
思わず足を止め、振り返る。
桂は少しだけ目を細めた。
「…いや、まぁいい。銀時もきているぞ。あいつもお前達を探している」
「そっか。うん、わかった」
再び歩き出す。
その背中を見送りながら、桂は小さく息を吐いた。
「昔から変わらんな、お前は……」
結衣は歩きながら首を傾げる。
銀時に似てきた。
その言葉だけが、妙に引っかかった。
久しぶりの仕事だというのに、二日酔いでやる気ゼロだった銀時の姿が頭に浮かぶ。
「ちょっと心外かも」
どこからともなく、んだとコラァ!!と聞こえてきた気がした。
爆発とともに船体が大きく揺れた。
壁へ手をついていた結衣の身体も大きくよろめく。
「……終わったみたい」
桂の仕事が済んだらしい。
まだ足元は覚束ない。
それでも、もうここに留まっている理由はなかった。
ゆっくりと甲板へ出る。
潮風が頬を撫でた。
その冷たさに、少しだけ頭が冴える。
そこでようやく気付いた。
「……船だったんだ」
自分がどこへ連れてこられていたのか、今さら知った。
甲板の向こうでは、刀がぶつかり合う甲高い音が響いている。
桂と同様妙な格好をしている銀時だ。
「いいか…てめーらが宇宙のどこで何しよーとかまわねー。だが俺のこの剣、こいつが届く範囲は俺の国だ。無粋に入ってきて俺のモンに触れる奴ァ」
その背後には神楽と新八。
二人とも無事だった。
その姿を確認した瞬間、結衣の肩からほんの少しだけ力が抜ける。
よかった。
それだけだった。
大きな喜びが込み上げるわけでもない。
安心した、と強く思うわけでもない。
ただ、探していた二人がそこにいる。
それが分かっただけで、十分だった。
「将軍だろーが、宇宙海賊だろーが、隕石だろーが。ブッた斬る!!」
銀時が刀を鞘へ納める。
遅れて、天人が崩れ落ちた。
少し離れた場所から、その様子を見つめる。
神楽が真っ先にこちらへ気付き、大きく両手を振った。
「結衣ーー!!」
新八もほっとしたように表情を緩める。
結衣は小さく笑い、二人へ向かって手を振り返した。
少し遅れて銀時もこちらを見る。
目が合う。
結衣は「大丈夫」とでも言うように軽く手を上げた。
銀時は一瞬だけその姿を眺め、何も言わず、片手をひらりと上げて返す。
それだけで十分だった。