第7訓
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「やってらんねェ、帰るぞ。結衣、神楽」
「え〜もうちょっと見たいんきんたむし」
「影響されてんじゃねェェェ!!」
「あと一曲だけアル!」
「あと一曲って言う奴は大抵最後までいるんだよ」
「本当にあと一曲ネ!」
「信用ならねぇ」
銀時は呆れたように頭を掻く。
結衣はステージへ目を向けた。
もう終わりか。
そう思うと、少しだけ名残惜しい。
でも仕方ないよね。
3日間の取調べのあとでみんな疲れてるし。
「……帰ろっか」
そう言って神楽へ笑いかける。
「ヤダ」
神楽は即答だった。
「あと一曲見るアル。結衣も見たいネ」
「え?」
突然名前を呼ばれ、結衣は目を丸くする。
「さっきからずっと見てたアル」
「……」
否定するほどでもない。
かといって、そうだと言うのも少し違う。
少しだけ考えて、
「……ちょっとだけ」
と小さく笑った。
銀時は二人を見比べて、大きくため息をつく。
「……しゃーねぇ」
「一曲だけだからな」
「やったアル」
神楽は満足そうに頷いた。
結衣も「ありがとう」と小さく笑うと、もう一度ステージへ視線を戻した。
銀時は頭を掻きながら背を向ける。
「終わったら入口んとこ来い。迷子になるんじゃねーぞ」
そう言い残すと、人混みをかき分けてさっさと行ってしまった。
「行っちゃった」
「自由な大人アル」
結衣は少し苦笑すると、ステージへ向き直る。
ちょうど次の曲のイントロが流れ始め、客席から歓声が上がった。
神楽が結衣の袖を引っ張る。
「ほら結衣!次これアル!」
「え、えっと……」
周りを見よう見まねでサイリウムを振る。
しかし少しタイミングがずれる。
「あ、違った?」
「惜しいネ!もう一回アル!」
「こう?」
「そうそう!」
神楽が嬉しそうに笑った。
結衣もつられて笑い、今度は周りと同じタイミングで腕を振った。
「わぁ、そろうと気持ちいいね。」
「ライブってこういうもんアル!」
神楽は全力でコールを叫び、結衣も照れながら小さな声で続く。
「L・O・V・E・お・つ・う!」
「もっと大きい声アル!」
「あははっ、無理無理!」
あと一曲どころか、ライブはすでに何曲も進み、会場の熱気は最高潮に達していた。
だが、
「うわぁぁぁああ!」
「逃げろォ!」
観客の悲鳴が会場中に響き渡る。
ざわめきは一瞬で混乱へと変わる。
観客席で大柄の天人が暴れ回り、椅子や機材を次々となぎ倒していた。
神楽は暴れる天人を見て、結衣の腕を軽くつかむ。
「結衣、こんな所にいたら危ないアル。ついてくるネ」
「あ、うん」
「銀ちゃん呼びに行くネ」
二人は人混みをかき分けながら出口へ向かって走り出した。
会場の休憩所で脱獄犯と話し込む銀時の姿を見つけるなり、神楽は駆け寄る。
「銀ちゃーん!!」
「おいお前らあと1曲っていったじゃねーか。何してんだ」
「そんなことより会場が大変アル。お客さんの1人が暴れだしてポドン発射」
「普通にしゃべれ。訳わかんねーよ!」
神楽は頬を鷲掴みにされ、思わず標準語になる。
「いや、あの会場にですね天人がいたらしくて。これがまた厄介なことに食恋族…興奮すると好きな相手を捕食するという変態天人なんです」
その説明を聞いた途端、脱獄犯――お通の父は弾かれたように会場へ駆け出した。
「結衣、花束あるか?」
突然の問いに、結衣はきょとんと目を瞬かせる。
「あ、えっと…」
辺りをきょろきょろと見回し、ふと窓の外へ目を向けた。
「…あるかも」
会場に戻ると、お通の父と「寺門通親衛隊」と書かれた法被を羽織る新八達が、彼女を守るように天人と戦っていた。
「結衣は待ってるヨロシ」
「あ、うん」
神楽の声に頷くと、結衣はその場で立ち止まる。
銀時と神楽は一瞬にして天人を倒してみせた。
「おっさん」
銀時は結衣から受け取った花束を、お通の父へ放り投げる。
窓の外に咲いていたたんぽぽを、急いで摘み集めた小さな花束だった。
「そんなもんしか見つからなかった。百万本にはおよばねーが、あとは愛情でごまかして」
そう言い残すと、銀時は踵を返し、片手をひらりと上げた。