第8訓
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銀時がジャンプを読んでる。
神楽が酢昆布を頬張り。
新八がお茶を啜っていた。
万事屋のそんないつも通りの朝。
結衣は何やら真剣な顔で1枚の紙を読んでいる。
「結衣さん何読んでるんですか?」
「挨拶」
「挨拶?」
新八は首を傾げる。
結衣は立ち上がると小さく咳払いを1つ。
そして、パン、と手を叩いた。
「えー、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます 」
「誰も呼ばれてねぇよ」
銀時がジャンプをめくりながら適当に返す。
「この度、私、守屋結衣は──」
一呼吸おき、まるで思いに耽ける卒業式の学生の様な表情で瞼を閉じる。
「万事屋ツッコミ役兼ストッパーを、本日をもちまして引退いたします」
部屋がしんと静まり返った。
ジャンプのページを捲る音だけがやけに響く。
「……はい?」
「何の話ネ」
「おめーはいつそんなんに就任してたんだよ」
結衣は懐から分厚い冊子を取り出した。
「こちら、業務内容の引き継ぎ資料です」
「あるの!!?」
「1つ、銀時がパチンコへ行こうとしたら止める」
「はい」
「2つ、依頼よりジャンプを優先したら怒る」
「はい」
「3つ、糖分で全て解決しようとしたら現実を見せる」
「はい」
「4つ、財布を勝手に開けようとしたら手を叩く」
「細かい!」
神楽が引き継ぎ資料を覗き込む。
「何ページあるアル?」
「128」
「マニュアル厚いネ」
結衣は満足そうに頷くと、新八へ向き直る。
「今日からは新八くん」
「絶対に嫌です」
「正式にツッコミ兼銀時のストッパー担当です」
「嫌だァ!!」
銀時はジャンプから顔を上げる。
「まぁまぁ。新八はツッコまねぇと死んじまうからな」
「そんなマグロみたいな扱いしないでください!」
神楽も大きく頷く。
「ツッコミ取ったら新八はメガネしか残らないアル」
「僕はメガネのおまけじゃないですからァァ!!」
「いや、メガネが本体で人間がおまけだろ」
「違がうわァァ!!」
「ほら、適任」
結衣は満足そうに頷いた。
「全然適任じゃありません!」
銀時はニヤニヤしながら立ち上がる。
「いやー、お疲れさん。ありがとう。これで結衣に文句言われずパチンコ行けるな」
結衣は新八を見る。
「はい」
「え?」
「初任務」
「えぇぇぇ!?」
新八は反射的に叫び、恐る恐る銀時の正面に立つ。
「…行っちゃダメです!!」
結衣は拍手。
パチパチパチ。
「完璧」
「何がァ!?」
そこへ神楽が、銀時の財布を勝手に開け始めた。
「銀ちゃん三百円しかないアル。」
「勝手に見るな!」
「アイス買うネ。 」
「返せ!」
結衣は新八に目線だけ送る。
「か、神楽ちゃんもダメです!!」
「す…すごい。ツッコミだけじゃなくて本当にストッパーもできてる」
期待以上だと結衣は目を丸くして拍手を送る。
「アンタにやらされてるだけでしょうが!!」
結衣はソファに腰を降ろすと、しみじみと湯呑みを口へ運んだ。
「安心した。これで心置きなく引退できるよ」
「お前今まで一人で何と戦ってたんだ」
「銀時」
「俺?」
「あと銀時」
「俺ぇぇぇ!?」
そして結衣は懐から小さなバッチを取り出す。
表には綺麗な文字で
『万事屋ツッコミ・ストッパー認定証』
「作ったんですか!?」
結衣は認定証を新八の胸元に付けると、深々と一礼。
「よろしくお願いします」
「いや、そんな意味のわからないもの押し付けないでくださいよっ!!」
銀時は腹を抱えてゲラゲラと笑い、神楽は横で
「新八、就任おめでとうアル!」
と酢昆布をクラッカー代わりにぶん投げる。
認定証を胸に着けた新八がため息を着き、結衣を見た。
「薄々思ってたんですけど」
「うん?」
「結衣さんって…常識人に見えて、結構ズレてません?」
結衣はきょとんとする。
「え?」
神楽は右手をビシッとあげた。
「私もそう思ってたアル」
銀時だけが吹き出した。
「ぶっ」
「何笑ってるアル」
「いや、お前ら今さらかと思ってよ。」
「ずっと銀ちゃんがおかしいから気付かなかったアル」
「俺のせいかよ」
新八も何度も頷く。
「そうなんですよ!」
「銀さんと神楽ちゃんがあまりにもムチャクチャだから、結衣さんが普通に見えてたんです!」
「え、普通でしょ?」
「でも今日確信しました!!普通の人はツッコミ引退式なんてやりません!」
「そうなの?」
「そうなんです!!」
銀時は笑いながら頭を掻く。
「こいつ、妙なとこだけ真面目なんだよ」
結衣は少し考えてから、
「でも、引き継ぎはちゃんとした方がいいかなって」
「そこなんですよ!」
新八は机を叩く。
「その発想がおかしいんです!」
神楽も腕を組む。
「真面目に変なことするタイプネ」
「ひどい」
「褒めてるアル」
「褒めてねーだろ」
「私よりツッコミに適した人が来てくれたから」
「そんな理由で無理矢理役職交代しないでください!」
「安心して任せられる」
「任されたくありません!!」
「でも、ツッコミ速いし。ちゃんと止めてくれるし。銀時にも慣れてるし。適任。」
「評価面談じゃないんですよ!!」
「採用理由みてぇになってんな」
「辞任させてくれぇぇぇぇ!!」
新八の絶叫が歌舞伎町に響いた。気がした。
翌朝、
「あー…パチンコでも行くかー」
暇だし。と銀時は鼻の穴に指を突っ込んだ。
「ダメ」
はっ、と新聞から顔を上げて新八を申し訳なさそうに見る。
「ごめん。今の私じゃなかった」
「別に僕の仕事でもないです」
「結衣引退したんじゃなかったアルか?」
「した」
「止めてるネ」
「……反射」
「もう引退撤回したらどうですか?」
「違うの。止めようと思って止めてるんじゃない。気付いたら口が動いてる」
真剣な顔でそう言う結衣の横で銀時は大笑いをする。
「職業病じゃねぇか」
「たぶん」
「万事屋来てからのこの数年間で染み付いてしまったのかも」
さらに数日後。
「パチンコ行ってくる」
「ダメ」
銀時と新八と神楽は黙ってじっと結衣を見た。
しかし本人は不思議そうに首を傾けた。
「結衣さん」
「うん?」
「引退したんじゃなかったんですか?」
「……あ、そうだった。」
銀時は腹抱えて笑っている。
「忘れてたんですかァァ!!」
「一週間も持たなかったアル」
「儀式までやったじゃないですか!!」
「あ、そうだ。引き継ぎの資料作った」
「128ページ!!」
「認定証も渡した」
「渡しました!!」
「いや、お前もう引退諦めろよ」
「でも新八くんいるし」
「僕が止める前に止めるじゃないですか!」
「……反射」
「条件反射か」
「新八がツッコミをしてないと死ぬ生き物なら、結衣は銀ちゃんを止めないと死ぬ生き物ネ」
「生き物?」
「鮭が川を登るみたいなもんアル」
「本能ってことか」
「……そうなのかもしれない」