第6訓
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「オイッ出てきやがれ!」
部屋の外から真選組の怒号が飛ぶ。
その直前の爆発で、銀時の天然パーマは見事なアフロヘアへと進化していた。
神楽は物珍しそうに銀時の頭をつついた。
「髪増えてない?」
「ホコリみたいにふわふわだね」
その横から結衣も覗き込み、恐る恐るつつく。
「無駄な抵抗はやめな!」
「ここは15階だ。逃げ場なんてどこにもないんだよ」
真選組の声が廊下に響く。
銀時はアフロのまま桂を睨んだ。
「そりゃなんのまねだ」
桂は懐から手のひらほどの球体を取り出し、静かにそれを見つめる。
「時限爆弾だ。ターミナル爆破のために用意していたんだが、仕方あるまい。コイツを奴等におみまいする…そのスキに皆逃げろ」
銀時は勢いよく桂の胸ぐらを掴み上げた。
突然のことに、桂の手から時限爆弾がするりと滑り落ちる。
「…貴様ァ桂さんに何をするかァァ!!」
銀時は低く、諭すように口を開く。
「……桂ァもう、しまいにしよーや。てめーがどんだけ手ェ汚そうと、死んでった仲間は喜ばねーし、時代も変わらねェ。これ以上うす汚れんな」
桂の表情がわずかに険しくなる。
掴まれた胸ぐらをそのまま掴み返し、銀時を真っ直ぐ見据えた。
「うす汚れたのは貴様だ、銀時。時代が変わると共にふわふわと変節しおって。武士たるもの己の信じた一念を貫き通すものだ」
「お膳立てされた武士道貫いてどーするよ。そんなもんのためにまた大事な仲間失うつもりか。俺ァもうそんなの御免だ。どうせ命張るなら、俺は俺の武士道貫く。俺の美しいと思った生き方をし、俺の護りてェもん護る」
部屋に重い沈黙が落ちる。
誰も口を開けない。
新八も、結衣も、桂の部下たちも。
その空気を、場違いなほど間の抜けた声が破った。
「銀ちゃん。」
神楽は畳に転がった球体を持ち上げていた。
「銀ちゃん。コレ…いじくってたらスイッチ押しちゃったヨ」
部屋の外では、真選組が廊下を取り囲んでいた。
ずらりと並んだ隊士たちが、一斉にバズーカや刀を構える。
「オーイ、出てこーい」
「マジで撃っちゃうぞ〜」
「土方さん夕方のドラマの再放送始まっちゃいますぜ」
「やべェ、ビデオ予約すんの忘れてた。さっさと済まそう発射用意!!」
その瞬間、襖が勢いよく蹴破られた。
「なっ……!」
飛び出してきたのは、銀時、新八、神楽の三人。
「何やってんだ止めろォォ!!」
真選組が呆気に取られた、その一瞬。
銀時は隊士たちの間をすり抜け、一目散に廊下を駆け出した。
その右手には、残り十秒を切った時限爆弾。
「止めるならこの爆弾止めてくれェ!!爆弾処理班とかさ…なんかいるだろオイ!!」
真選組の隊士達も、パニックに陥り一斉に逃げ惑う。
「おわァァァ爆弾持ってんぞコイツ」
「ちょっ、待てオイぃぃぃ!!」
「げっ!!あと6秒しかねェ!!」
「銀さん、窓、窓!!」
廊下の先に見える大きな窓を新八が指さす。
だが、走って間に合う距離ではない。
「無理!!もう死ぬ!!」
「銀ちゃん、歯ァくいしばるネ」
番傘を野球バットのように構えると、豪快に振り抜いた。
「ほあちゃアアアアア!!」
「ぬわァァァァァ!!」
銀時はホームランボールのように廊下を吹っ飛び、勢いそのまま窓ガラスを突き破った。
宙へ投げ出された銀時は、時限爆弾を思い切り上空へ放り投げた。
「ふんぐっ!!」
直後。
空中で爆弾が大きく炸裂する。
爆風がビルを揺らし、ガラスが一斉に震えた。
「ぎっ…銀さーん!!」
新八が窓から身を乗り出す。
神楽もその隣から覗き込む。
「銀ちゃんさよ〜なら〜!!」
下を見ると、ビルの外壁に垂れ下がる巨大な垂れ幕へ、銀時が情けない格好でしがみついていた。
「フン、美しい生き方だと?アレのどこが美しいだか」
桂と結衣は屋上から、垂れ幕に必死にしがみつく銀時の様子を見下ろしていた。
その姿に、桂は小さく鼻を鳴らす。
「…だが、昔の友人が変わらずにいるというのも悪くないものだな…」
少しだけ口元を緩める桂に結衣もつられるように小さく笑った。
「…そうだね」
桂は静かに結衣へ向き直る。
「結衣」
「ん?」
「本当に俺達と一緒に来ないのか?」
少し間を置く。
「また昔のように……」
その言葉に、結衣の表情が静かに止まる。
夜遅く帰ってきた銀時。
泥だらけの高杉。
「湯をくれ」そう言って腰を下ろす桂。
怪我人の手当て。
洗っても落ちない血の染みが残る着物。
干しきれない包帯。
焚き火を囲んで皆で食べた温かいご飯。
おかえり。
ただいま。
を言いあったそんな毎日。
あの頃は、あの頃で楽しかった。
戦争が終わって、皆が散り散りになったあとも、その時間が嫌な思い出になったことは一度もない。
だからといって。
今を否定する理由にもならなかった。
朝になれば銀時がいる。
ご飯を作れば、新八が「いただきます」と言う。
神楽がいれば冷蔵庫は綺麗になる。
家賃に追われて、依頼がなくて、銀時が勝手にお金を使って。
そんな騒がしい毎日だって、今の結衣にとっては確かな日常だった。
昔が大切だから、今を捨てなければならない。
そんなことは、きっとない。
気付けば、結衣は何も答えられずにいた。
桂はその沈黙だけで十分だったのか、小さく息を吐く。
もしここで自分が。
「頼む」
そう言えば。
「俺達のところへ来てくれ」
そう願えば。
結衣はきっと困ったように笑って、
「……うん、いいよ」
と言う。
そして本当に何もかも放り出して、ついて来てしまう。
銀時も。
新八も。
神楽も。
今まで築いてきた日常さえも。
自分が困っているなら、と。
そういう女だ。
桂はそれを知っている。
だからこそ――言えなかった。
「…今じゃなくていい、考えておいてくれ」
「…ヅラ」
桂は苦笑する。
「ヅラじゃない、桂だ」
そう言い残すと、仲間たちを連れて静かに去っていった。