第6訓
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「天人との戦において鬼神の如き働きをやってのけ、敵はおろか味方からも恐れられた武神…坂田銀時。そして守屋結衣。お前の支えがなければ俺達はとうに敗れていたやもしれん。我等と共に再び天人と戦おうではないか」
銀時は気だるそうに耳をほじりながら、小さく鼻を鳴らす。
一方、結衣は何も言わず、じっと桂を見つめていた。
その表情は変わらない。
けれど、その瞳だけが、遠い昔を映しているようだった。
「…銀さん、結衣さん」
新八がおそるおそる口を開く。
「アンタ達、攘夷戦争に参加してたんですか」
少しの沈黙。
答えたのは結衣だった。
「私は参加したってほどじゃないよ。野営地で洗濯したり、ご飯を作ったり……みんなが帰ってくるのを待ってたくらいだから」
その言葉に、桂は静かに首を振る。
「違う」
「…え?」
「お前はそう思っているのだろう」
桂は懐かしむように目を細めた。
「あの頃、お前がおらねば俺達はあれほど長く戦えなかった」
その言葉に、結衣はわずかに目を見開く。
自分では、そんな大したことをしたつもりはなかった。
傷を負って帰ってきた仲間の手当てをして、汚れた着物を洗って、食べられるものを探して。
誰かがやらなければならないことを、ただやっていただけだ。
だから、そんなふうに言われると少し困る。
けれど桂の顔を見る限り、冗談を言っているわけでも、昔を美化しているわけでもない。
本気でそう思っているのだと分かる。
結衣は何も返さず、ただ小さく視線を落とした。
「……」
ゆっくりと視線を落とす。
胸の奥を、懐かしい景色が静かによぎっていく。
桂はそんな結衣を見つめると、今度は銀時へ視線を向け、少し呆れたように息をつく。
「お前ら戦が終わると共に姿を消したがな。銀時、特にお前の考えている事は昔からよく分からん 」
「俺ァ派手な喧嘩は好きだが、テロだのなんだの陰気くせーのは嫌いなの」
「俺達の戦はもう終わったんだよ。それをいつまでもネチネチネチネチ京都の女かお前は!」
桂は眉一つ動かさない。
「バカか貴様は京女子だけではなく女子はみんなネチネチしている。そういう全部を含めて包み込む度量がないから貴様はもてないんだ」
銀時も負けじと言い返す。
「バカヤロー。俺が天然パーマじゃなかったらモテモテだぞ多分」
「なんでも天然パーマのせいにして自己を保っておるのか。哀しい男だ」
桂は心底憐れむような目を向ける。
「哀しくなんかないわ。人はコンプレックスをバネにしてより高みを…」
売り言葉に買い言葉。
互いに一歩も引かないまま言い争っているうちに、二人の顔はぐんぐん近づいていく。
気付けば鼻先が触れそうな距離だった。
「アンタら何の話してんの!!」
新八のツッコミが部屋中に響いた。
「俺達の戦はまだ終わってなどいない。貴様の中にとてまだ残っていよう、銀時…」
伏せたまぶたの奥に、あの時死んで行った仲間達の亡骸が浮かぶ。
「国を憂い共に戦った
真っ直ぐ銀時を見据え、静かに続ける。
「天人を掃討しこの腐った国を立て直す。我等生き残った者が死んで行った奴等にしてやれるのはそれくらいだろう」
刀を握り、銀時にむかって突き出す。
それはまるで「この刀をとれ」とでも言っているかのように。
「我等の次なる攘夷の標的はターミナル。天人を召喚するあの忌まわしき塔を破壊し、奴等を江戸から殲滅する。だがアレは世界の要…容易にはおちまい。お前達の力がいる銀時、結衣」
桂は小さく笑う。
「既に我等に加担したお前達に断る道はないぞ。テロリストとして処分されたくなくば俺と来い。迷う事はなかろう。元々お前達の居場所はここだったはずだ」
部屋の空気が張り詰める。
新八は銀時と結衣を交互に見た。
「銀さん…結衣さん…」
銀時は何も答えなかった。
結衣も、ただ静かに桂を見ていた。
二人とも、昔のことを思い出しているようにも見える。
けれど、それを口にすることはなかった。
もう随分と昔のことだ。
あの頃は同じ場所にいることが当たり前になっていた。
それが今では、桂は攘夷志士として刀を握り、自分たちは万事屋として江戸で暮らしている。
同じ場所にいたはずなのに、歩いてきた道はいつの間にか変わった。
「……」
結衣はほんの一瞬だけ銀時を見る。
銀時も、たまたまこちらを見ていた。
目が合う。
けれど、どちらも何も言わない。
突如、襖が勢いよく蹴破られ、黒い洋装に身を包んだ男たちが一斉になだれ込んできた。
刀を抜く者。
バズーカを構える者。
部屋は瞬く間に取り囲まれる。
「御用改である。神妙にしろテロリストども」
「しっ…真選組だァっ!!」
「イカン逃げろォ!!」
「1人残らず討ちとれェェ!!」
桂が叫ぶのとほぼ同時だった。
一行は真選組が雪崩れ込んできた襖とは反対側の襖を蹴破り、そのまま廊下へ飛び出す。
「なななななんなんですかあの人ら!?」
「武装警察「真選組」反乱分子を即時処分する対テロ用特殊部隊だ。厄介なのにつかまったな。どうしますボス」
ちらりと銀時を見て、さらりと続ける。
「だーれがボスだ!!お前が1番厄介なんだよ!!」
銀時は走りながら怒鳴り返す。
そのやり取りに、神楽が勢いよく手を挙げた。
「ヅラ」
親指で自分をくいっと指し、至って真剣な表情で胸を張る。
「ボスなら私に任せるヨロシ。善行でも悪行でもやるからには大将やるのが私のモットーよ」
「オメーは黙ってろ!!何その戦国大名みてーなモットー!」
その時だった。
一筋の鋼色が、前を走る銀時めがけて一直線に走る。
「銀時!」
「オイ!」
「ぬを!!」
銀時は反射的に身を沈めた。
頭上を掠めた刀が、そのまま廊下の壁へ深々と突き刺さる。
ほんの一瞬でも反応が遅れていれば、額を貫いていただろう。
「逃げるこたァねーだろ。せっかくの喧嘩だ。楽しもうや」
「オイオイ。おめーホントに役人か。よく面接通ったな、瞳孔が開いてんぞ」
「人のこと言えた義理かてめー!死んだ魚のような瞳ェしやがって」
「いいんだよ。いざという時はキラめくから」
「土方さん危ないですぜ」
その直後。
廊下の奥から金属製の砲身が突き出した。
「え」
一瞬の静寂。
──ドンッ!!
「うおわァァァァ!!」
銀時たちは蜘蛛の子を散らすように駆け出す。
爆風が廊下を薙ぎ払い、木片が四方へ飛び散る。
間一髪、一行は近くの一室へ転がり込んだ。