第5訓
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走り出すのが少し遅れた新八の腕を、警備の天人ががっちりと掴む。
咄嗟に新八は前を走る結衣の腕を掴む。
「結衣さん!!」
「え?」
勢いで引っ張られた結衣は、今度は銀時の袖を掴む。
「銀時!」
「何で俺ェ!?」
さらに銀時は前を走る神楽の腕を掴む。
「神楽ァ!」
「やめてヨ銀ちゃん!」
四人は見事な数珠つなぎになり、
そのまま全員まとめて後ろへ引っ張られた。
「新八くん、離して」
「嫌だ!!1人で捕まるのは!!」
「たしかに1人より4人の方が怖くないのかも…」
「んなわけねーだろ!!俺のことは構わず行け…とか言えねーのかお前ら!」
「私に構わず逝って3人とも」
「ふざけんなお前も道連れだ」
建物の中から続々と警備兵が飛び出してくる。
「いたぞ!」
「囲めェ!!」
「ぬわぁぁぁ!!ワン公一杯来たァァ!!」
「手間のかかる奴だ」
塀にもたれ、胡座をかいていた僧侶姿の男が小さく呟く。
ゆっくりと腰を上げると、そのまま地を蹴って飛び上がった。
そして天人たちの頭を足場にするように軽やかに駆け抜ける。
「ぐあっ!」
「なっ……!」
踏みつけられた天人達が次々と倒されていく。
錫杖をしゃらんと鳴らし万事屋4人のの前に降り立った男は笠を少しあげる。
「逃げるぞ銀時」
「おまっ…ヅラ小太郎か!?」
「え?ヅラ?」
「ヅラじゃない桂だァァ!!」
迷いのないアッパーカットが銀時の顎を綺麗に捉える。
「ぶふォ!!てっ…てめっ、久しぶりに会ったのにアッパーカットはないんじゃないの!?」
「そのニックネームで呼ぶのはやめろと何度も言ったはずだ!!」
「ほんとにヅラだ」
「ん?」
桂の視線が結衣へ向く。
一瞬だけ目を見開き、表情が変わる。
「もしかして、お前…結衣か?守屋結衣なのか!」
「そうだよ、久しぶりだね」
結衣はいつも通りの穏やかな声で答えた。
けれど、その目だけは少しだけ驚いている。
桂に会うのは、本当に久しぶりだった。
かつて皆でくだらないことで笑っていた頃の記憶が、一瞬だけ蘇る。
まだ何も誰も変わっていなかった頃。
ただ一緒にいることが当たり前だった頃だ。
「そうか!まさか銀時と一緒だったとは…!探す手間が省けたぞ!大きくなったんだな!」
「私の事探してたの…?」
結衣は少しだけ目を丸くする。
しかし気付けば、戌亥族の天人たちがぞろぞろと増援を増やし、5人の後を追ってきていた。
「話は後だ!銀時、結衣行くぞ!!」
「チッ」
『──に続き、今回卑劣なテロに狙われた戌亥星大使館。幸い死者は出ていませんが…え…あっ新しい情報が入りました。監視カメラにテロリストと思われる一味が移ってるとの…あ〜バッチリ映ってますね〜』
万事屋四人は、桂に連れられてきた一室で身を潜めていた。
部屋の隅ではテレビがつけっぱなしになっている。
爆発に巻き込まれた直後の銀時、神楽、結衣、新八の姿が、これでもかというほど鮮明に映っていた。
新八は見る見るうちに顔を青くする。
「バッチリ映っちゃってますよ。どーしよ、姉上に殺される」
対照的に神楽は身を乗り出した。
「テレビ出演。実家に電話しなきゃ」
「何かの陰謀ですかね、こりゃ。なんで僕らがこんな目に」
そうぼやきながら、後ろへ視線を向ける。
畳の上では銀時が寝転び、その隣では結衣が何事もなかったように湯呑みを口へ運んでいた。
「唯一桂さんに会えたのが不幸中の幸いでしたよ。こんな状態の僕らかくまってくれるなんて。銀さんと結衣さん知り合いなんですよね?一体どーゆー人なんですか?」
「んーテロリスト」
「全部仕組まれてる気もするね」
「はイ!?」
思わず顔が引き攣った。
その時。
「そんな言い方はよせ」
襖がすっと横へ開いた。
部屋へ入ってきたのは、先程の僧侶姿ではなく、着物と羽織に身を包んだ桂だった。
その後ろには刀を帯びた侍たちが控えている。
「この国を汚す害虫"天人"を討ち払い、もう一度侍の国を立て直す。我々が行うのは国を護るための攘夷だ。卑劣なテロなどと一緒にするな」
思わず声を上げた新八の隣で、せんべいを齧りながら神楽が首を傾げる。
「攘夷志士だって!?」
「なんじゃそらヨ」
攘夷とは二十年前の天人襲来の時に起きた、外来人を排除しようとする思想のこと。
高圧的に開国を迫待ってきた天人達に危機を覚えた侍は、彼らを江戸から追い出そうと一斉放棄して戦った。
だが天人の強大な力を見て弱腰になった幕府は、侍達を置き去りにし、勝手に天人と不平等な条約を締結。
幕府の中枢を握った天人は侍達から、刀を奪い侍達を無力化した。
その後攘夷志士は大量粛清の対象となった。
「まだ残ってたなんて」
「…どうやら、結衣の言う通り俺達ァ踊らされたらしいな。なァオイ。飛脚の兄ちゃんよ」
今朝万事屋の前でバイク事故を起こしていた飛脚の男は、居心地悪そうに肩をすくめ、目を逸らした。
「あっ、ほんとネ!!あのゲジゲジ眉デジャヴ」
「ちょっ…どーゆー事っスかゲジゲジさん!!」
「多分だけどゲジゲジさんはヅラに頼まれた思うからあんまり責めないであげよ」
「全部てめーの仕業か、桂。最近世を騒がすテロも、今回のことも」
桂は一歩前へ踏み出した。
その表情は変わらない。静かな声で、しかし迷いなく言い切る。
「たとえ汚い手を使おうとも手に入れたいものがあったのさ」
そう言って刀の柄に手を添える。
ぎゅっと握り締めるその手には、揺るぎない決意が滲んでいた。
桂は銀時をまっすぐ見据える。
「…銀時、この腐った国を立て直すため、再び俺と共に剣をとらんか。白夜叉と恐れられたお前の力再び貸してくれ」
そして、その視線はゆっくりと結衣へ移る。
「結衣」
その名を呼ぶ声だけが、ほんの少し柔らかかった。
「お前もだ、お前がいてくれると俺たちは心置き無く戦える」
結衣は少しだけ目を見開く。
そのまま視線を落とし、小さく微笑んだ。
どこか懐かしむようならそして少しだけ寂しそうな笑みだった。