第3訓
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「へぇ。そんなことがあったんだ」
万事屋の居間にはデスクに足を投げ出す銀時と、その向かいで湯呑みを傾ける結衣。
新八は帰宅し、神楽は今はお風呂。
今日の神楽加入までに至る出来事を聞き、結衣はふっと笑った。
「おもしろい子だよね、神楽ちゃん」
「どこがだよ。あんな怪獣みてーなやつ」
「ご飯専用のブラックホールみたいだったね。あんなにたくさん美味しそうに食べてくれたらつくった甲斐がある」
「あれは味わって食ってるとは言わねェ」
「じゃあなに?」
「吸収」
「あー…よく噛んで食べた方がいいよって教えてあげよっか」
「そうじゃねーだろ」
「でも育ち盛りなんだよね。」
「あんなに食べてるのに細いよね。」
「お前もな。」
「そう?神楽ちゃんほど食べれないよ」
「昔っから細い。」
「変わってないよ。銀時も変わってない。」
「何が。」
「面倒って言いながら放っておけないところ」
「放っとくと後味悪ぃだけだ」
「うん」
「何だ」
「銀時だなぁって」
「それ褒めてんのか」
「褒めてる」
「気持ち悪ぃ」
「なんで」
「そんな真っ直ぐ言われると調子狂う」
結衣は湯呑みを置いて、小さく笑う。
「じゃあ、もうちょっと褒めてあげる」
「いらねぇ」
「優しいし」
「……」
「面倒見いいし」
「……」
「困ってる人放っておけないし」
「やめろ」
「新八くんにも神楽ちゃんにも、ちゃんとご飯食べさせてあげてた」
「たまたまだ」
「あとね」
「まだあんのか」
「子どもに好かれる」
「好かれてねぇ」
「神楽ちゃん、もう銀時のこと気に入ってたよ。」
「気のせいだ」
「気のせいじゃない。昔からそう」
「何が」
「なんだかんだ言って放っておけないし、子どもには好かれる」
「そんな立派な人間じゃねぇ」
「うん、知ってる」
「おい」
「でも、そういうところは昔から変わってない。だから安心した」
「何が」
「銀時が銀時だったから」
銀時は少しだけ視線を逸らし、湯呑みに口をつける。
「……今日はやけに褒めるな」
「まだあるよ」
「もういい。お前、人の悪いとこ見えねぇのか」
「見えるよ?」
「じゃあ何で褒めるんだよ」
「いいところの方が多いから」
その時。
ガラッ
居間の襖が勢いよく開く。
「お前ら」
風呂上がりの神楽が、タオルで髪をわしゃわしゃと拭きながら二人を交互に見る。
「夫婦アルか?」
「「違う」」
間髪入れずに声が重なる。
「……ふーん」
興味なさそうに鼻を鳴らした神楽は、押し入れへ向かいながら肩をすくめた。
「まぁどっちでもいいネ。うるさいからおっぱじめんなヨ」
そう吐き捨て、
「私の寝床はここにするアル」と宣言した部屋(押し入れ)の襖を
ピシャッ!
と勢いよく閉めた。
一瞬の静寂。
「誰がおっぱじめるかァァ!!」
銀時のツッコミだけが、万事屋中に響き渡った。
後日。
空になった冷蔵庫。
軽くなった財布。
そして何も書かれていない予定表。
結衣はそれらを順番に見つめると、何も言わず万事屋を出た。
