第1訓
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「ほな行くでー」
道場を出ようとした天人が、ふと結衣へ目を向ける。
頭からつま先。と結衣のことを眺め回した天人が顎に手を添えた。
「へェ。こーんなボロ道場に、こないなべっぴんな門下生がおったとわなァ」
「あー…」
「アンタにも着てもらおか」
「んな!?」
「ちょっと待ってくださいその人は!」
「姉さんはちょっと黙っときィ」
ズカズカと結衣へ歩み寄ってきた天人は、値踏みするように彼女を見回した
「アンタもここの門下生やったら、道場護りたいんと違うんか。それに2人で働いたら、借金の返済スピードも2倍や!!いや、アンタがおったらもっと早よォ終わるかもなァ!」
結衣は一度だけお妙を見る。
それから銀時へ視線を向けた。
「ん、一緒に行こっか」
まるで近所へ買い物にでも行くような気軽さだった。
「ちょっ…!アンタ…!」
なんで関係ない結衣まで。と動揺する新八。
「ほな今度こそ行くでー」
結衣は振り返らない。
後ろ手にひらりと片手を振って、そのまま天人について行く。
銀時はその背中を見送り、深いため息をついた。
頭をぼりぼりと掻く。
「…世話ァ焼かせやがる」
天人たちが去り、お妙と結衣の姿もなくなった恒道館。
残された道場には、木刀が風を切る音が響いていた。
「んだよチキショー!!バカ姉貴がよォォ!!父ちゃん父ちゃんってあのハゲが何してくれたってよ、たまにオセロやってくれたぐらいじゃねーか!!」
怒りを素振りにぶつけながら新八は叫んだ。
「父ちゃんハゲてたのか」
「いや精神的にハゲて…って、アンタまだいたんですか!!しかも人んちで何、本格的なクッキングに挑戦してんの!!」
「いや、定期的に甘いもの食わねーとダメなんだ俺」
三角巾で天然パーマを押さえつけた銀時は、両腕で抱えるほどのホールケーキに生クリームを絞っていた。
「だったらもっとお手軽なものつくれや!!」
しばらく、生クリームを絞る音だけが響く。
銀時がふいに口を開いた。
「…ねーちゃん追わなくていいのか」
「…知らないっスよ。自分で決めて行ったんだから。姉上もやっぱり父上の娘だな、そっくりだ。父親も義理だの人情だの、そんな事ばっか言ってるお人好しで、そこをつけこまれ友人に借金までしょいこまされてのたれ死んだ。どうしてみんなあんなに不器用かな。僕はキレイ事だけ並べて、のたれ死ぬのは御免ですよ」
思い浮かぶのは、最期まで信念を曲げなかった父の言葉と、迷いなく前を向く姉の瞳だった。
「今の時代そんなもの持ってたって邪魔なだけだ。僕はもっと器用に生き延びてやる」
「そーかい…でも、俺にはとてもお前が器用になんて見えねーけどな」
唇を強く噛み締める。
目には今にもこぼれ落ちそうな涙が滲んでいた。
怒りと悔しさ。
それを隠すように新八は俯いていた。
「侍が動くのに理屈なんていらねーさ、そこに護りてェもんがあるなら剣を抜きゃいい。あいつもそうした」
お妙と一緒に行った結衣の後ろ姿を思い出しながら、銀時はのっそりと立ち上がった。
「姉ちゃんは好きか?」
頷く新八の頬を一筋涙がつたった。
銀時と新八を乗せたスクーターが海沿いを走る。
銀時のヘルメットをかぶった新八は申し訳なさそうに眉を下げる。
「すみません、あんたと一緒にいた人まで巻き込んでしまって」
「あー、それはまじで気にすんな。ああいうやつなんだよ、アイツは昔から。それこそおめーの親父と同類かもな、お人好しってやつだ。自分が行けばお前の姉ちゃん護れると思ってんだよ」
「…でも、僕たちのせいで…」
「だァから気にすんなって。…あ!じゃあお前に天人暴行の罪を着せたことと無銭飲食したの全部チャラな」
「それとこれは話が違うだろォ!つーか食い逃げもしとったんかいっ!!」
「…やっぱうるさいなァ、この子」
「無銭飲食はもういいです。どうせクビになったんで。けど暴行の濡れ衣については後で責任とってもらいますからね!」
「…チッ」
「あーっ!!第1便午後4時出航!」
天人が置いていったチラシに目を落とした新八は大声をあげる。
「ヤバイ!!もう船が出ます!!もっとスピード出ないんですか!!」
「いや、こないだスピード違反で罰金取られたばっかだから。また反則金取られたら俺、結衣に怒られるどころの騒ぎじゃないから絶対!」
「んな事言ってる場合じゃないんですって!!姉上がノーパンの危機なんスよ!!アンタだっていいんですか!結衣さんもノーパンにさせられちゃいますよ!アンタの奥さんなんでしょ!!」
「奥さんじゃねェ、幼馴染だ」
「そこはどうでもいいです!ノーパンですよ!ノーパン!!ノーパンはダメでしょ!!ノーパンは!!」
「ノーパンノーパンしつけーんだよ!やかましーんだよ!!世の中にはなァ、新聞紙をパンツと呼んで暮らす侍もいんだよ」
ギャーギャーと言い合う2人の背後からサイレンを鳴らした空飛ぶパトカーがやって来た。
「そこのノーヘル止まれコノヤロー、道路交通違反だコノヤロー」
「大丈夫ですぅ、頭硬いから」
「そーゆー問題じゃねーんだよ!!規則だよ、規則!!」
スクーターの横に並んだ大江戸警察のパトカーの窓から役人が顔を出す。
その瞬間、表情1つ変えなかった銀時が首を傾け、頭突きした。
「うるせーな、かてーって言ってんだろ」
「ギャアアア!!鼻血が!!いい歳して鼻血出しちゃった!!」
そんなことをしている間に海を見れば、港から船が空に向かって飛んでいっている。
「ノーパンしゃぶしゃぶ天国…出発しちゃった!!どーすんだァ!!あんなに高く…あ"あ"あ"あ"!!姉上がノーパンにぃ」
「なんだとォ!!ノーヘルの上にノーパンなのか貴様!!」
変な勘違いをした警察が空飛ぶパトカーで、諦めずに追いかけてくる。
それを見た銀時はなにかを閃いた。
