第1訓
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「だからバカ、おめっ…違っ…それじゃねーよ!!そこだよ、そこ!!」
「さっきの子すごい怒られてる」
「ん?」
スプーンを持ったまま振り返る。
注文を取りに来たアルバイトの少年が、店長に怒鳴られていた。
「ったく、よく言うだろー?最近の若者はーってよォ。どうせ使えねェやつだったんだよアイツ」
「ここ時給850円なんだって。万事屋名乗って昼寝してる人より稼いでるよ。きっと」
「あ、結構辛辣ゥ」
その時だった。
店の奥から、ワハハハッ、と天人たちの下品な笑い声が響く。
次の瞬間。
ドガシャァン!!
「ついちょっかい出したくなるんだよ」
さっきのアルバイトの少年が、テーブルごと銀時たちへ突っ込んできた。
衝撃で銀時の手からチョコレートパフェがふわりと宙を舞う。
「「あ」」
スローモーションみたいに、チョコレートパフェが宙へ散った。
結衣はとっさに餡蜜の器を両手で抱え込む。
「セーフ」
餡蜜だけは、無傷だった。
銀時は空っぽになった器を拾い上げた。
じっと見つめる横顔。
……あ、この顔はまずい。
結衣は餡蜜を一口食べ、小さく息をつく。
銀時は木刀を腰へ差し直し、ゆらりと立ち上がった。
「何やってんだ新八!!スンマセンお客さん!!」
駆けつけた店長は新八の頭を掴むと、そのまま床へ押さえつける。
「おい」
店長が振り向くより早く――
ゴッ。
店長の身体が宙を舞う。
「なっ、なんだァ!?」
「何事だァ!!」
新八には見向きもせず、木刀を抜きながら天人たちに歩みを進める。
「なんだ貴様ァ!!」
「廃刀令の御時世に木刀なんざぶらさげおって!!」
「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ、発情期ですか?コノヤロー」
空っぽの器を天人へ突きつける。
「見ろコレ…てめーらが騒ぐもんだから、俺のチョコレートパフェが、お前コレ…まるまるこぼれちゃったじゃねーか!!」
容赦なく振り下ろされた木刀は天人の1人の頭を直撃した。
「…きっ…貴様ァ何をするかァァ!!」
「我々を誰だと思って…」
「俺ァなァ!!医者に血糖値高すぎって言われてパフェなんて週一でしか食えねーんだぞ!!」
木刀に叩き伏せられ、天人たちは床へ転がっていく。
最後の一人が倒れる頃には、店内は静まり返っていた。
「結衣ー」
「ん?」
「帰ェるぞー」
「うん」
「ごちそうさまでした」
餡蜜の器を揃え、きちんと手を合わせてから席を立ち、銀時の後を追って暖簾をくぐる。
「店長に言っとけ、味はよかったぜ」
「医者が週一のパフェを許していたとしても、私が許さないから」
スクーターは江戸の町を軽快に走る。
後部座席で風に前髪を揺らしながら、結衣は銀時の背中へ声を飛ばした。
「え?なんで」
前を向いたまま銀時が返す
「なんでって家計が回りません」
「俺週一でパフェ食えたら、あとは全部もやしでいいから。月曜日もやし炒め、火曜日もやし炒め、水曜日もやし炒め…(以下略)でいいから」
「私は嫌なんだけど、そんなもやし生活」
「つか俺今回パフェ全然食えなかったからノーカンでいい?いいよね?寧ろそうじゃないとおかしいよね?」
「だめ」
即答だ。
「あ〜やっぱダメだわ。銀さんちょっとイライラしてきたわ。糖分とらねーとなんかイライラす…」
「おいィィィィ!!」
風を切り裂くような叫び声に、結衣が振り返る。
「あ」
全力疾走でスクーターを追い掛けてくる新八と目が合った。
「んだよ」
「あー、やばい。さっきのお店の子だ。どさくさに紛れて支払いすっぽかしたのバレちゃったかも。ちょっとスピードあげて撒いてくれる?」
「え、じゃあなに?今週あと4回はパフェ食べれるってこと?」
「だからなんでさっきから残高全部パフェに変換するの?」
「よくも人を身代わりにしてくれたなコノヤロー!!アンタのせいでもう何もかもメチャクチャだァ!!」
息も絶え絶えになりながらも、新八は木刀を振り上げる。
「律儀な子だな。木刀返しに来てくれたの。いいよ、あげちゃう。どうせ修学旅行で浮かれて買った奴だし」
「勝手にあげないでよ。後で新しいの買ってって言うでしょ?知らないよ。今ちゃんと返してもらいなさい」
「え?お母さん???」
「誰がお母さんだ」
「違うわァァ!!役人からやっとこさ逃げてきたんだよ!!違うって言ってんのに侍の話なんて誰も聞きゃしないんだ!!しまいにゃ店長まで僕が下手人だって」
「クビってことだね」
「だな。レジも打てねェ店員なんて、炒飯作れねェ母ちゃんくらいいらねーもんな」
「アンタ母親をなんだと思ってんだ!!」
「バイトクビになったくらいでガタガタうる…」
「今時、侍雇ってくれる所なんてないんだぞ!!明日からどーやって生きていけばいいんだチクショー!!」
新八が飛びかかって木刀を振り下ろそうとしていた
「結衣」
「ん。」
名前を呼ばれた瞬間、何も聞かず銀時の腰へ腕を回し直した。
長年一緒にいれば、名前を呼ばれただけで何をしようとしているか分かる。
その瞬間。
キィィィッ!!
スクーターが急停止する。
「ゔっ!!」
止まりきれなかった新八が見事にスクーターへ激突した。
股間を押え、その場に崩れ落ちた。
「ギャーギャーやかましいんだよ、腐れメガネ!!自分だけが不幸と思ってんじゃねェ!!」
「世の中にはァ、ダンボールをマイホームと呼んで暮らしてる侍もいんだよ!!お前そーゆーポジティブな生き方できねーのか!?」
「あんたポジティブの意味わかってんのか!?」
ぎゃいぎゃい言い争う2人のすぐ側の自動ドアが開いた。
現れたのは、ピンクの着物姿の女性だった。
手には大江戸ストアの買い物袋。
にこにこと微笑みながら、新八へ声をかける。
「あら?新ちゃん?こんな所で何をやってるの?お仕事は?」
「げっ!!姉上!!」
「あ…どーも」
「こんにちは」
驚く新八の横で、銀時と結衣は条件反射で揃って頭を下げた。
次の瞬間だった。
ドゴォッ!!
「仕事もせんと何プラプラしとんじゃワレ、ボケェェ!!」
「ぐふゥ!!」
新八は吹っ飛んだ。姉の飛び蹴りで。
「今月どれだけピンチかわかってんのかてめーはコラァ!!アンタのチンカスみたいな給料もウチには必要なんだよ!!」
馬乗りになって新八を殴り続けるお妙。
銀時はそっとスクーターのエンジンをかけた。
「まっ…待ってェ姉上!!こんな事になったのはあの男のせいで…」
「ワリィ、俺、結衣と夕方からドラマの再放送見ようと思って…て」
振り返る。
……そこにいたのは結衣じゃない。
いつの間にかスクーターの後ろには、お妙が座っていた。
にたり、と笑う。
背筋がぞわりと粟立った。
「…君のお姉さん…すごいね…」
「…はい…」
結衣は南無阿弥陀仏と両手を合わせて目を閉じた。
