第2訓
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ヌルッとした緑色の身体。
ギョロっとした目。
何本もの長い触手。
その巨体は建物よりもなお大きい。
「ペスぅぅぅ!?ウソぉぉぉぉ!!」
「だから言ったじゃん!!だから言ったじゃん!!」
「あっ!!テレビで暴れてた謎の生物ってコレ!?こんなんどーやって捕まえろってんスか!!っていうかどうやって飼ってたわけ!?」
「ペスはの〜秘境の星で発見した未確認生物でな、余に懐いてしまったゆえ船で牽引してつれかえったのじゃふァ!!」
振り回された一本の触手がハタ皇子を真横から直撃する。
皇子の体は地面へ叩きつけられると、そのまま地面を滑っていく。
「全然なついてないじゃないスか!!」
ゆっくりと向きを変えたその巨体は、町の方を向いている。
「!!ヤバイ市街地に出る」
そんなペスの前に立ちはだかった銀時は、木刀を構える。
「銀さん!!」
「結衣しょう油かってこい今日の晩ご飯はタコの刺身だ。いや、タコ焼きのがいいか。いただきまーす!!」
「いや、私、いくらタダでもこんなの食べたくない。あと醤油はまだ新品が1本あるよ」
銀時が地面を蹴ろうとした、その瞬間。
「させるかァァ!!」
長谷川が勢いよく地面へ滑り込み、銀時の足元へ足を差し入れる。
バランスを崩した銀時は勢いよく前へ倒れ込む。
頭頂部を地面へ強かに打ち付け、その場で頭を抱えた。
「いだだだだ!!何しやがんだ!!脳みそでてない?コレ。結衣ちゃーん、ちょっと見に来てェ!」
結衣はしゃがみ込むと、銀時の頭頂部をじっと見る。
「……大丈夫。天パがクッションになってる。」
「あっぶねぇ、俺、産まれて初めて天パで良かったって思ったわ」
「手ェ出しちゃダメだ。無傷で捕まえろって皇子に言われてんだ!!」
「無傷?できるかァそんなん!!」
「それを何とかしてもらおうとアンタ呼んだの」
「無理無理!無理だって!!」
二人が言い争るその背後で、
「うわァァァァ!!」
ペスの触手が新八の体へ絡みつく。
巨大な触手は容赦なく新八を宙へ持ち上げ、そのまま大きく開いた口へと運び始めた。
「新八ィィ!!」
「新八くん」
「ちっ」
銀時が再び駆け出そうとした、その瞬間だった。
ガチャ。
乾いた撃鉄の音が響く。
「……」
長谷川は素早く結衣の腕を掴み、自分の胸元へ引き寄せる。
冷たい銃口が、結衣のこめかみに触れる。
結衣は長谷川の表情を一瞥すると、小さく両手を上げた。
「おい待て。勝手なマネするなって言ってるでしょ」
「てめェ…」
「うわァァァ助けてェェェ」
「無傷で捕獲なんざ不可能なのは百も承知だよ。多少の犠牲が出なきゃバカ皇子はわかんないんだって」
「ちょっとォ!!聞いてんの!?」
二人が睨み合う。
その間にも。
新八は触手にぐるぐる巻きにされたまま、ゆっくりとペスの口元へ近付いていく。
「アレの処分許可得るためにウチの助手エサにするってか。どーやらテメーらホントに腐っちまってるみてーだな」
「言ったろ。俺達は奴らと共生していくしかないんだってば。腐ってよーが俺は俺のやり方で国を護らしてもらう。それが俺なりの武士道だ」
銀時は口の端をゆっくり吊り上げた。
「クク、そーかい。結衣!」
「いいよ」
「んじゃ、俺は俺の武士道で行かせてもらう!!」
「待てェ!!たった1人の人間と1国…どっちが大事か考えろ!!」
「しったこっちゃねーな、んな事!!」
長谷川が制止するも、一切振り返らない。
「新八ィィィ!!気張れェェェ!!」
「ふぐっ!!」
すでに新八の上半身はペスの口の中へ飲み込まれていた。
両腕で上顎を押し上げ、必死に食い止める。
「気張れったって…どちくしょォォ!!」
「幕府が滅ぼうが、国が滅ぼうが関係ないもんね!!」
触手を踏み台に、銀時が高く跳ぶ。
「俺は
ペスの真正面へ。
「背筋のばして生きてくだけよっ!!」
木刀が勢いよく口の中へ叩き込まれる。
銀時の姿は、そのまま巨大な口の奥へ消えた。
一瞬の静寂。
ペスの目が大きく見開かれる。
次の瞬間。
大量の鮮血が口から噴き出し、豪雨のように辺りへ降り注いだ。
真っ赤な雨が長谷川たちへ降り注ぐ。
「…あ〜あ。目茶苦茶やってくれやがってあのヤロー」
「あ"あ"あ"あ"ペスがァァ!!余のかわいいペスが…噴水の如く喀血しておるではないかァァ!!長谷川!!無傷で捕らえよも申したはずじゃぞ。どう責任をとってくれるか!!国際問題じゃこれは!!オイ聞いておるのか」
頭を抱えながら絶叫するハタ皇子。
長谷川は黙って煙草を一本取り出した。
カチリ。
火を点け、
ゆっくり煙を吐いていた。
ペスの口から脱出した銀時と新八。
「げほっ……。」
「にっが……。」
口の中に入った血を吐き捨て、顔をしかめた。
「うぇぇ……ベッタベタじゃないですかぁ……。」
全身血まみれになった着物を見て心底嫌そうな顔をする。
「今回の件は父上に報告させてもらうぞよ長谷川!!」
また煙を吸って、
吐いて、
考えて、
決める。
「…せーよ」
「な?」
「うるせーって言ってんだ!!このムツゴロー星人!!」
「ごう"!!」
長谷川の拳がハタ皇子の顎を捉え、その身体は勢いよく吹き飛んだ。
銀時は口の端だけでなく頬まで吊り上げ、これ以上ないくらい人の悪い笑みを浮かべた。
「あ〜あ!!いいのかな〜んな事して〜」
「しるかバカタレ。ここは侍の国だ。好き勝手させるかってんだ」
長谷川はドヤ顔のまま、ふぅっと煙を吐いた。
「……。」
結衣はその姿を見つめ、
「長谷川さん」
「ん?」
「多分、クビだね。」
「え?」
「そうですよ。もう天人取り締まれなくなりますね。間違いなくリストラっスよ」
「え?」
「バカだな。一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすんだよ」
長谷川は煙草をくわえたまま固まる。
結衣はそんな長谷川を一瞥すると、銀時と新八へ視線を向けた。
「銀時、新八くんおかえり」
「おー」
「いやァ死ぬかと思いました」
「今日の晩御飯はたこ焼きにしよっか」
「え!? 結衣さん、まさかペスを……」
「持って帰るわけないじゃん。見てたら普通に食べたくなっちゃった。」
「帰りにスーパー寄ってくかー」
「中身は冷蔵庫に残ってたちくわでやろ。」
「ちくわァ!?俺タコがいい」
「わがまま言わない。どっかの天パのせいで生活費ないんだよ。」
「俺のせい!?」
「他にここに天パいたっけ?」
「俺しかいねぇよ!!お願い!マジで!結衣!!今日は奮発してタコ入れよう!?ね!?俺、今日頑張ったよ!?」
「却下」
「即答!?」
「僕……。」
新八はペスを見上げ、げんなりと肩を落とす。
「こんなことがあった後に、タコなんて食べられる気がしないです……」
