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Toccata

意外そうな顔で黒がぼくを見るのと同時に大きく口を開けて、おなかの底から、心の底から久しぶりにあの歌を歌った。

どうしてなのかはよくわからない。神様がこれで来てくれるわけでもない。
黒を止められるとも思わない。消える前にこの歌を歌いたかったわけでもない。


だけどなぜか、ぼくは歌いたかった。
神様と黒を思うと、とても自然にそうしたいって思えた。
二人を思って、そうした方がよさそうって気がして答えた「わかった」だった。

「……!」

黒のサングラスの向こう側で目が大きく見開かれる気配がした。
かまわず、ぼくはただ歌い続ける。
そうさせる衝動に身を任せて、ただひたすらに。

「…やめろ……!」

歌え、歌え。どこまでも響いていけばいい。
別れてしまった世界を境界線ごと塗りつぶせ。


「やめろ…、頼む…その歌を」

黒が自分を抱くように上半身を折り曲げた。
それでも、ぼくは。ボクハ、ウタイツヅケル。

「やめろぉおおお!!!!」「ハテナ!!!」

黒の絶叫と神様がぼくを抱えるようにして引き寄せた一瞬が重なって、ようやくぼくは我にかえった。

大きく息を荒げる黒を呆けた顔で眺める神様を見上げて、たぶん神様と同じ気持ちで黒をもう一度見る。


ぼくが神様に初めて会った時もそうだったんだ。


今の黒と同じように、歌を聞いて、そして、泣いていたんだ。


13.10.28
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