Ballade

ひどい夢を見て飛び起きた。
遠い日のかすかな記憶、だと思う。
反芻したくもないのに勝手に脳内でまわる光景に自然と顔が歪む。


あんな目でもう見られたくない。
罵倒を浴びたくない。
汚い言葉で罵られたくない。
頭の上から振り下ろされる手に怯えたくない。
鉄が錆びたような味を舌いっぱいに感じたくない。
熱いのか冷たいのかわからない涙を流したくない。
疑いたくない。

ぐるぐる回る思念を落ちつかせようと自分の顔を覆ってそっと呟いた。


ああそうさ、俺は自分がかわいいだけなんだ。
最低なやつなんだ。
だからこんな目にあったって仕方ない、こんなふうにしか生きていけない。



だからはやく、徹底的に嫌って。


それで、塵一つ残らないほどに消し去ってくれればいい。

俺が捨ててきた、かつて俺を創っていたなにもかもと同じように。




何度も何度も口の中で呟いて、深呼吸を繰り返す。
嫌な汗はだいぶひいたが気分の悪さだけはぬぐえなかった。

否、気分が悪いのは今に始まったことではないが。
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