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Nocturne

とても怖かったけど、勇気を出してドアを押す。

『うわぁ!?』

扉の中にいきなり吸い込まれて、まだうまく浮けないぼくはあっという間に闇の世界の真ん中に放り出された。


『うぅう…びっくりした』

慌てて怖いものがいないか辺りを見渡す。
そんなものはなにもいなかったけど、なにもなさすぎて逆にもっと怖くなった。

『…ここ……ぼくがいたところより、なにもない』

あそこには、家があった。消えるばかりでも世界があった。
だからいつか目に映るすべてがなくなるって分かってても、ぼくはカミサマに拾ってもらえるまで大丈夫だったんだ。

でもここはそうじゃない。心にとどめておける何かがなにもなくて、暗くて黒くて冷たくて。

『……う…』

思わず涙が出そうになった、その瞬間。

「なんだ、ずいぶん妙なやつがきたな」



低くて深い声が背後からかかる。
振り返って、『カミサマ』って言いかけた口が何も言えないまま開いてしまった。
そこにはカミサマにそっくりだけど、全然違う誰かがいた。

「口。開いてるぞ」
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