Singing
「………黒」
俺と同じ姿のそいつは、正反対の立場にいた。
かつての俺があいつで、かつてのあいつが俺だ。
どうすればいい。どうしてやればいい。
黒みたいにがむしゃらに原因を探ってみたって、今度のことは全部俺が発端だ。
俺にできることなんて分からない、だから世界を生むしかない。
今の黒は破壊のためだけに存在している。
俺が手を引けば簡単に終わることだが、そうすればますます黒が取り返しのつかないことになりそうで。
「どう、しよう…」
出ない答えを悩んで、自分を抱くようにしてうつむいた。
足元には暗い深淵が口をあけて澱んでいる。
いらないものを捨ててきたそこに吸いこまれそうな錯覚を覚えて息を飲んだ、
その瞬間。
『♪……♪』
「…!!」
なつかしい歌が、小さく響き渡った。
一瞬だけ迷って、渦巻く闇の中に手を入れた。
今まで星屑や自分に不要な思い出や記憶、他にも色んなモノを放り込むだけだったそこから、初めて何かをすくいあげる。
何かが掴めるとは思えなかったが、伸ばした指の先に引っかかったそれを急いでたぐりよせた。
なんだか長く伸びた影法師のような小さなモノが手の平にふらふら揺れる。
生き物みたいだけど、感触がない。でもなんだか不安定な存在感がある、不思議なそれをじっと見つめる。
「…こんにちは」
『こんにち、は?』
それが口を開けて反応を返す。
とりあえず挨拶をしてみたが意志の疎通はできるらしい。
「俺の名前はMZD。お前は誰だ?」
『…だれだ?』
ああ、と頭の中で思わず嘆く。
これはこちら側の反応を反芻しているにすぎない、まだ幼い知能しか持ちあわせていないらしい。
あの歌を歌っていたのは別の存在だったのだろう。けれどまたあの渦に戻すことはできない。
本来いらないものを捨てるだけのあの場所から、何かを戻す行為自体がイレギュラーだからだ。
思えばこれをここに引っ張ってきた時に何も起きなかったのが、
「…待てよ」
そこまで考えて素早く思考を巡らせた。
この存在がなんなのかは分からないが、元々は俺があの場所へ捨てた「いらないもの」の名残だ。
それをこの場所に戻して何も起きないってことは、まさか。
…本当は必要だったものまでいらないと、そう思い込んで捨ててしまっていて、つまりそれが今この手にあるこいつだってことなのか……?
瞬間、手の中の存在を胸に引き寄せて抱きしめる。
『…!』
突然の行為に驚いたのだろう、小さなそれはひどく怯えたように幾重にもぶれた。
「ごめんな…、ごめん…」
久しぶりに流す涙はあたたかいものだった。
久しぶりに触れた自分以外の存在も、もちろんあたたかいものだった。
「名前、言えるか?お前と友達になりたいんだ!」
まだ涙は止まらないけれど、揺れるそれに精一杯わらいかける。
『…?』
言葉をたくさん知らないらしいそれが発した音を聞いて、オーケー、と小さくつぶやいた。
「これからお前の名前はハテナだ。よろしくな!」
13.6.28
俺と同じ姿のそいつは、正反対の立場にいた。
かつての俺があいつで、かつてのあいつが俺だ。
どうすればいい。どうしてやればいい。
黒みたいにがむしゃらに原因を探ってみたって、今度のことは全部俺が発端だ。
俺にできることなんて分からない、だから世界を生むしかない。
今の黒は破壊のためだけに存在している。
俺が手を引けば簡単に終わることだが、そうすればますます黒が取り返しのつかないことになりそうで。
「どう、しよう…」
出ない答えを悩んで、自分を抱くようにしてうつむいた。
足元には暗い深淵が口をあけて澱んでいる。
いらないものを捨ててきたそこに吸いこまれそうな錯覚を覚えて息を飲んだ、
その瞬間。
『♪……♪』
「…!!」
なつかしい歌が、小さく響き渡った。
一瞬だけ迷って、渦巻く闇の中に手を入れた。
今まで星屑や自分に不要な思い出や記憶、他にも色んなモノを放り込むだけだったそこから、初めて何かをすくいあげる。
何かが掴めるとは思えなかったが、伸ばした指の先に引っかかったそれを急いでたぐりよせた。
なんだか長く伸びた影法師のような小さなモノが手の平にふらふら揺れる。
生き物みたいだけど、感触がない。でもなんだか不安定な存在感がある、不思議なそれをじっと見つめる。
「…こんにちは」
『こんにち、は?』
それが口を開けて反応を返す。
とりあえず挨拶をしてみたが意志の疎通はできるらしい。
「俺の名前はMZD。お前は誰だ?」
『…だれだ?』
ああ、と頭の中で思わず嘆く。
これはこちら側の反応を反芻しているにすぎない、まだ幼い知能しか持ちあわせていないらしい。
あの歌を歌っていたのは別の存在だったのだろう。けれどまたあの渦に戻すことはできない。
本来いらないものを捨てるだけのあの場所から、何かを戻す行為自体がイレギュラーだからだ。
思えばこれをここに引っ張ってきた時に何も起きなかったのが、
「…待てよ」
そこまで考えて素早く思考を巡らせた。
この存在がなんなのかは分からないが、元々は俺があの場所へ捨てた「いらないもの」の名残だ。
それをこの場所に戻して何も起きないってことは、まさか。
…本当は必要だったものまでいらないと、そう思い込んで捨ててしまっていて、つまりそれが今この手にあるこいつだってことなのか……?
瞬間、手の中の存在を胸に引き寄せて抱きしめる。
『…!』
突然の行為に驚いたのだろう、小さなそれはひどく怯えたように幾重にもぶれた。
「ごめんな…、ごめん…」
久しぶりに流す涙はあたたかいものだった。
久しぶりに触れた自分以外の存在も、もちろんあたたかいものだった。
「名前、言えるか?お前と友達になりたいんだ!」
まだ涙は止まらないけれど、揺れるそれに精一杯わらいかける。
『…?』
言葉をたくさん知らないらしいそれが発した音を聞いて、オーケー、と小さくつぶやいた。
「これからお前の名前はハテナだ。よろしくな!」
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