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Mute

あれから何回、世界はくりかえしただろう。

ぼくの見る世界はぼくだけを置き去りに変わっていく。


あの日急に消えた世界はもう2度と戻らなかった。
その次の世界も、その次の世界も。

この部屋の窓から終わる世界を何度も眺めていると、まるで部屋の中で丸一日を過ごしているだけみたいに思えてくる。
でもそれは錯覚で、ぼくだけが変わらずに世界だけはどんどんなくなっては生まれていくんだ。


ああそうだ、変わらないのはぼくだけじゃない。
ラジオもずっと雑音のまま。

…また歌が聞きたいなあ。
ぼくだけでも歌えるけれど、ざああああ、を曲にして歌うなんてつまらない。

ごろごろベッドに転がって、上半身だけ乗り出すみたいに床へ投げ出した。
あまりに狭い家の中は退屈すぎた。

「どうして世界が消えてしまえば、なんて思ったんだったっけ」

こんなふうになることを知ってたらきっと消えてしまえなんて思わなかったのに。
もしも未来が見えたなら、思いもしなかっただろう。


いっそのこと外に出てみようか。
出てしまったらぼくが消えてしまいそうな気がして、なにより終わる世界に巻きこまれそうで怖いけど。
それともそうなってしまったほうがいいのかな。
消えてしまえば、ぼくはこんな怖いものをたくさん見なくてすむのかな。
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