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Canon

玄関のドアをあけて、

そこに世界はなかった。
僕と僕のいる家だけ取り残されて、何もなかった。

真っ白な空間に風船みたいに浮いていて、なんだか夢みたいだった。


「でも、現実だ」

口にせずにはいられないほど、そこにはちゃんと感覚があった。
悲しい、さびしい、むなしい、つらい。
その痛みがまとめて胸に突き刺さる。


ドアを閉じて部屋に戻り、窓から世界を眺めた。
自室のラジオも試しにつけてみたけど、やっぱり、ざあああああああああああああ、の音。



どうしてこうなっちゃったのかな。
昨日、つまり日曜の深夜に僕が月曜日なんてこなければいいって願いすぎたから?
でもそんなこと今まで何回もあった。
…何回もあったけど、神様に聞いてもらえるタイミングが合わなかっただけ?
なんて、ね。


ラジオの雑音が流れ続けるのにあわせて小さく歌う。

誰かに教えてもらったわけじゃないのに、とても小さな頃から歌っていた歌を口にして、どうしてこんなに落ち着いていられるのかを他人事のように考えた。

(僕はただ一人きりになったと認めたくないだけ)
(それでも誰かが聞いてくれているように願って)

本心が頭の中で叫ぶけど、かまわず僕は歌い続ける。
直視すれば泣いてしまいそうで嫌だった。

泣いてしまうと、歌が歌えない。

静かな世界なんて、僕は嫌だ。
ほんの出来心で世界のすべてが消えてしまえなんて星に願ったけど。


本当は僕は世界のなにもかもが好きなんだ。

お願いです神様。
こんな音楽は聞きたくない。

ざああああああ、だけだと心が痺れてしまいそう。




だから。

ぼくに ひかりを やみを ひるを よるを
よろこびを かなしみさえも かえしてください。



13.2.28
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