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Tuning

「なんでだよ。俺は自分がなんなのか覚えてないんだ、思い出したいのになんでそれを止めるんだよ」
「覚えてないってことはそれだけ忘れたかった何かがあったってことだろ」
「それが悪いものだなんて限らないじゃないか!」

思わず叫び返した瞬間、胸の中がやけにざわついた。
なんでこんなに否定したいのか。わかるようで、わかりたくない。
でも、それを目の前にいる黒に悟られたくなかった。

「…俺はただ忠告にきただけだ。この先どうしようがお前の勝手だけどな」


黒が体を反転させて自らの肩越しに視線を投げてくる。
それは突き刺さりそうなほどに鋭く、冷たいものだった。

「何があっても、絶対に俺のせいにだけはするんじゃねえぞ」
「ぇ…あ、ちょっ」

まだ聞きたいことある、と伸ばした手もむなしく相手がその場から炎を吹き消すようにいなくなる。

「…なんなんだ…いったい…」

また一人になってしまった。
そう思った瞬間、目から涙があふれそうになる。
慌てて拭おうとして、手が何かにぶつかった。

「っ!…サングラス?なんで、こんなもの」

色のついているそれを外し、それがあるにも関わらず世界の色をそのまま映していたらしい目を不思議に思いながら少しこすり、もう一度それをかけ直した。
思えば色の違うものを黒もかけていた気がする。黒ずくめすぎて確かではないけれど。

まさか、と今まで意識しなかった自分の手足を眺めて、着ている服も引っ張って、そうしてようやく気が付いた。
黒の着ていたものと、色こそちがうもののデザインがまったく同じものを身につけている。

知れば知るほど分からなくなる感覚にどうしようもなくなって、急いでもう一度目をきつく閉じた。

止められたけどかまわない。
何もしないままなんて、どうしたって無理だ。

思い出せ。思い出せ。
ただの一片でもいい、記憶のなくなる直前だけでも、せめてわかるのならば。





そうして少しの静寂がその場を支配して。


「ぁ…あ、あぁ…!ああああああああぁぁぁっうわああああああああああああっ!!

どこにも吸い込まれることもなく響きもしない絶叫が落ちていく。







「…だから、言ったのに」

その様子をはるか遠くから眺めて、黒い少年は息をついた。



12.11.28
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